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健康保険証は今のままでよし マイナカード取得強制のため皆保険制度脅かす 意味不明な「資格確認書」で混乱に拍車
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/27398
2023年8月17日 長周新聞
トラブルの発覚があいついでいるマイナンバーカードをめぐり、岸田政府は8日、「マイナンバー情報総点検本部」の中間報告を公表した。マイナ保険証で新たに1069件の紐付けミスが見つかったほか、公務員の年金情報などでもミスが発見された。記者会見で河野太郎デジタル担当相は、マイナ保険証の誤紐付けについて「点検データの0・007%。閲覧された事例は5件」と、わずかであることを強調。その原因は地方自治体や保険組合など現場の人為的ミスだとして、国の責任についてはぐらかす姿勢に終始しており、「全国民の個人情報を統合し管理する」という膨大な事務を統括する能力を持ち合わせない姿を露呈している。現場に混乱をもたらしながら、結局マイナ保険証を持たない人には、現行の保険証とほぼ変わらない「資格確認書」を交付するなど、たんなる費用と手間の無駄ともいえる結末になろうとしており、「健康保険証の廃止」の廃止を求める声が広がっている。
絶えぬ紐付けトラブル 現場に責任転嫁
河野デジタル担当相
「マイナンバー情報総点検本部」の中間報告によれば、マイナ保険証の誤登録が新たに1069件見つかった。これまでに明らかになっていた7372件と合わせて8441件にのぼる。このミスは、紐付け作業をおこなった健保組合などの保険者全3411機関のうち、紐付けの手法に問題があったとされる1313機関(全体の約4割)の計約1570万件の登録データから発見されたものだ。薬剤情報などを他人に閲覧されたケースは15件になった。年金では、地方公務員共済で112件、国家公務員共済組合連合会で6件が別人のマイナンバーに紐付けられているのが発見された。
ミスが多発しているのが障害者手帳で、都道府県や政令市など237自治体のうち、約2割の50自治体で紐付け作業が不適切だったとされ、これまでに静岡県で62件、宮崎県で2336件、鳥取市で485件の計2883件の誤登録が発覚している。また、中間報告と同じ8日、厚生労働省は鳴門労働基準監督署で労災保険の遺族年金受給者のマイナンバーに別人の給付情報が紐付けられるミスがあったと発表した。
政府がチェック対象としたマイナポータルで閲覧できる29項目の紐付けをおこなっているのは約8万5000機関。このなかで、申請を受けるさいに本人からマイナンバーを取得しなかったり、氏名、生年月日、性別、住所の4情報の確認をしていないケースがあるなど、機関によって手続きが異なっていたことがミスの原因とされている。手続きが「不適切だった」として個別データの点検が必要とされた機関数は延べ5000機関にのぼった。政府はこれらの機関に対し、原則11月末までに個別データの点検を求めるとしている。
また、誤紐付けが多発している障害者手帳については、エクセルで情報管理をしていて手作業でデータをコピーするさいに1行ずれてしまうなどの人為的なミスがあったとし、紐付けをきちんとやっていたかどうかにかかわらず、すべての自治体を個別データの点検対象とするとしており、点検対象となった地方自治体などからは悲鳴が上がっている。
マイナンバー制度が始まった2015年以降、政府は紐付け作業のマニュアルも準備しておらず、健康保険組合や地方自治体に対して人的支援をしたわけでもない。とにかく取得率を上げたいと、マイナポイント還元事業でカード取得だけでなく個人情報の紐付けを誘導したり、保険証の廃止をうち出すなどしたため、昨年7月ごろから紐付け作業が急増していた。一方で、行政現場は慢性的な人手不足の状態にある。障害者手帳の紐付けミスが見つかった静岡県では担当者が1人で作業に当たっていたという。膨大な事務作業が発生する現場がどうなるかを想像すらできない指導者が、願望だけで突っ走った結末であり、職員個人の問題でないことは明らかだ。
しかし記者会見で、政府のこれまでの対応のどこに問題があったと考えているのかを問われた河野デジタル相は、他人事のように「やはり同姓同名で同じ生年月日の人が1億2000万人のなかでこれだけいるんだという認識が紐付け機関のなかで薄かった」と、ミス続出の責任を「4情報を確認しなかった」地方自治体や保険組合などの現場に転嫁したうえで、「行政のデジタル化に思い切ってアクセルを踏んでいきたい」などとのべた。
資格確認書も事務膨大 混乱する医療機関
健康保険証廃止を盛り込んだ改定マイナンバー法を強行成立させた後、続々と発覚しているマイナンバーカードをめぐるトラブル。今年4月から医療機関にはオンライン資格確認が義務化されたが、それも昨年6月に閣議決定したあと、ほとんど審議もないまま省令を出し、義務化に応じない医療機関は「保険医療機関・薬局の指定取り消し事由となり得る」(取り消されれば存続できない)と脅したうえでの強行だった。しかし、法改定からわずか2カ月で保険証廃止の延期も議論の俎上にのぼるなど、法改定そのものがいかに現実を無視したものであったかを浮き彫りにしている。
現在のところ、岸田首相は健康保険証の廃止は延期しない方針を示しており、河野デジタル大臣に至っては「法律で決まったことだ」と強行する姿勢を貫いている。ただ、マイナ保険証の登録は6500万人ほどにとどまっており、資格確認書は人口の約半分が対象となる。自分で申請できない高齢者などが無保険状態になる問題も指摘されてきた。そうした医療現場や国民の反発を受けてこのたび、資格確認書の有効期限を1年ではなく、5年以内で保険者が定めることや、本人からの申請を待たずに職権で交付するといった案が打ち出されている。形状も顔写真なしのプラスチックカードにするなど、現行の健康保険証とほぼ同じようなもので、なぜ健康保険証を廃止するのかわからない状態になっている。
人口の約半数にのぼる規模で、マイナ保険証を持たない人を把握して、資格確認書を送付するという事務作業は簡単なことではない。政府はこのたび、マイナ保険証を一度登録しても解除できるようにすると説明しており、保険者は、マイナンバーカードを返納した人、マイナ保険証の利用登録を解除した人など、日々変動する対象者を把握して、資格確認書を交付するという煩雑な作業をしなければならなくなるため、現実的にそんなことが可能なのか? という疑問が語られている。情報の反映までに時間差が生まれ、資格確認書が届かないことで「無保険扱い」になる人が多数生じる可能性も指摘されている。この資格確認書の発行で、国保で約23億円、被用者保険で約241億円のコスト増になるという試算もあり、「保険証をそのまま残した方が手間も費用もかからないし、なにより安全」と医療現場は訴えている。
マイナ保険証をめぐっては、システム上の問題で資格確認ができず窓口で10割負担を求めるケースが発生するなど、医療現場に混乱をもたらしてきた。9日、新たに全国保険医団体連合会が明らかにしたのは、負担割合の誤登録が広がっていることだ。75歳以上で窓口負担が本来は「2割」なのに、資格確認で「3割」と出るなど、保険証に記載されている窓口負担とマイナ保険証で確認した窓口負担が異なるといったケースが各地から報告されているという。現在は保険証で確認しているが、保険証が廃止されれば確認する術を失う。誤った負担割合で徴収した場合、保険請求(レセプト)が返戻となるほか、不足分を患者に請求する必要があるケースも出ており、患者トラブルの一因となる。そのため9割の医療機関が、現在の保険証を「残す必要がある」と回答している。
また、現在はまだ表面化していないが、もっとも懸念されているのが、僻地をはじめ地方の医療を支えている高齢の医師たちが、「オンライン資格確認の義務化」に対応できず閉院していく問題だ。このまま保険証廃止で突き進んだ場合、来年秋に向けて閉院を決断する高齢医師が増加する可能性も高く、今でもぎりぎりで保っている地域医療を崩壊させかねない問題をはらんでいる。
誰が望んでいるのか 見えない「利便性」
総務省が紹介しているカードリーダーを使ったマイナ保険証の活用例
マイナンバーカードは、とくに国民が必要としたものではなく、国もあくまで任意取得としている。だから数兆円を投じてマイナポイント還元事業をやったり、テレビCMを垂れ流してみたりと、取得率を伸ばそうと躍起になり、それでも「全国民に行き渡らせる」ことが実現しそうもないから、事実上の強制となる保険証廃止という乱暴な手法に乗り出した経緯がある。ではいったいマイナンバーカードの普及を望んでいるのはだれなのか? ということだ。
6月28日、経済同友会幹事として記者会見に臨んだサントリーの新浪代表幹事は、「絶対に後戻りはせず、しっかり進めてほしい」「ミスが起きたからやめよう、後戻りしようとやっていたら、世界から1周も2周も遅れているといわれる日本のデジタル化社会は、もう遅れをとり戻すことができなくなる」などとし、「そして、納期。納期であります。この納期に間に合うように、ぜひとも仕上げていただきたい。私たち民間はこの納期って大変重要でございます。納期を必ず守ってやりあげる。これが日本の大変重要な文化でありますから、ぜひともこの保険証を廃止する。これを実現するように、この納期に向けてしっかりとやっていただきたい」とのべた。
いかにも日本政府に対して「保険証の廃止」という業務を発注したかのような発言に、サントリー不買運動が起こるなど、反発を買うところとなっている。ただ、この発言に示されるように、20年以上前から個人番号制度の導入を求めてきたのが財界だ。2004年には経団連が社会保障・福祉制度に共通する個人番号の導入を提唱する報告書を作成しており、2013年の「産業競争力会議」では、当時のメンバーだった新浪氏(当時・ローソン社長)が、マイナンバー・システムの導入によって「個人の所得のみならず資産も把握して、医療費・介護費の自己負担割合に差をつけ、結果的に医療費・介護費の削減につなげる」とした資料を作成していた。
財界がマイナンバー制度の徹底を求めているのは、社会保障費の削減とともに、政府が収集する膨大な個人情報に利用価値があるからだ。マイナンバー制度導入を目前に控えた2015年11月に経団連が出した「マイナンバーを社会基盤とするデジタル社会の推進に向けた提言」は、そのデータ利活用のための法整備を政府に求めている。「情報はヒト・モノ・カネに次ぐ第四の資源であり、データ利活用の巧拙は国際競争力に直結する」「グローバルに事業を展開するわが国産業界にとって、大量データの自由かつグローバルな流通はイノベーション創出の前提である」などとし、「政府データポリシーの再定義による官民データ連携」や「パーソナルデータ・公共データの産業利用促進」などを提言。
経済同友会も2022年4月に出した提言で、目指す将来像として「蓄積された様々なデータが行政サービスの効率化だけでなく、個人や民間企業の自由な発想に基づくイノベーション創出に活用され、データを起点とした経済成長が加速していく社会」としていた。
今年2月に出した「豊かな社会の実現に向けたデータ利活用の基盤を速やかに整備する」とする最終提言でも、マイナンバーを「特定個人情報」から一般の個人情報規制と同様の規制に下げることを改めて要求し、「マイナンバーに紐づく医療情報や健康情報などを保険会社に提供することで、個人の健康状態に応じた保険料金のカスタマイズが可能になる」などの活用方法を提示している。とくに、医療分野でのデジタル化推進と、その医療情報を民間提供できるような体制づくり、情報提供対象事業者の拡大などを主張している。
彼らにとって個人情報、とくに健康情報や医療情報は今、もっとも手に入れたい情報であることが見てとれる。監視資本主義において、ビッグデータはなにより価値あるものなのである。国民の資産や行動を把握したい日本政府と、それを利用したい財界にとって、「国民の利便性向上」や「個人情報保護」などかけ声だけに過ぎない。しかし、実力もともなわないまま突っ走った結果、別人とのとり違えが頻発する状況が生まれており、このまま保険証廃止を強行すれば、さらなる混乱は避けられないものとなっている。
なお、こうしたマイナ対応に国内で反発がさらに広がっており、内閣支持率は過去最低水準の26・6%まで落ち込んでいる。世論調査でも70%がマイナ対応支持せずとしている。
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