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※紙面抜粋
※2023年7月28日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
木原官房副長官(右)は簡単には切れない、「黄金の3年」どころか明日も見通せなくなってきた漂流政権(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
岸田政権が強引に推し進めているマイナンバー制度に対して、ついに身内からも批判が噴出しはじめた。岸田官邸は大慌てだろう。
26日に行われた閉会中審査──。かたくなに現行の「健康保険証」を来年秋に廃止しようとしている政府に対して与党議員から異論が続出した。
トップバッターとして質問に立った自民党の山田太郎参院議員は、「マイナンバー制度の信頼が揺らいでいる」と指摘し、「来年秋の保険証廃止は、期限ありきではなく丁寧に国民からの理解を得るべきではないか。与党からもそういう声が大きくなっている」と注文。さらに、政府の対応にも「厳しく言わざるを得ない」と批判した。
連立を組む公明党の上田勇参院議員も「マイナカードの利用拡大について、理解が広まっていない」と政権を追及。
ここ数日、自民党では、萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長も「来年秋という期限にこだわる必要はない」などと政府の方針に異論を唱えている。
時の政権が掲げる「重要政策」に、身内の自民党議員がここまで公然と“ノー”を突きつけるのは、異例のことだ。内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率まで下落しはじめたことに危機感を強めているのは間違いない。
それ以上に、これは自民党内の“権力闘争”だとの見方が流れている。政権のアキレス腱となっているマイナンバー問題を批判することで、岸田首相を揺さぶっている、という解説である。自民党関係者がこう言う。
「自民党のなかには、このままでは“岸田1強”となってしまう、と本気で危惧する声があります。なにしろ、気がついたら岸田首相の立場はどんどん強くなっている。決定的なのは、高市早苗や河野太郎など“ポスト岸田”候補が次々に傷ついていることです。来年秋の総裁選は、誰も手を挙げられず、岸田首相の“無投票再選”となっておかしくない状況です。党内最大派閥の安倍派も、分裂含みで力を失っている。ああ見えて岸田首相は“党内政局”に絶対の自信を持っている。ただでさえ人事権と解散権、公認権を持つ岸田首相に、これ以上、力をつけさせたくないという潜在意識が、自民党議員にあるのは確かでしょう。安倍派幹部の萩生田さんと世耕さんの発言は、秋に内閣改造を控えているので、“人事で冷遇したら黙っていないぞ”“マイナ問題を騒ぎ立てるぞ”と揺さぶりをかける狙いもあったのではないか」
国民不在の権力闘争など、犬も食わないが、このままマイナ問題が大きくなり、党内からの批判が強まれば、岸田政権は一気に窮地に追い込まれる可能性がある。政界はキナ臭くなってきた。
超ド級の“木原爆弾”
マイナンバー制度を批判する自民党内の声は、簡単には消えそうにない。
さらに岸田を追い詰めるのが、側近の木原誠二官房副長官を巡る特大スキャンダルだ。
これが事実なら内閣が吹っ飛んでもおかしくない超ド級の醜聞である。
4週連続で報じている「週刊文春」によると、木原の妻のX子は、死別した前夫・安田種雄さん(享年28)の不審死事件に関し、重要参考人として警視庁から聴取されていたという。最新号では、種雄さんが亡くなってから12年後に再開した捜査に関わった捜査官が実名で告発。自殺として片付けられた本件について「はっきり言うが、これは殺人事件だよ」などと語っている。捜査官がX子を聴取したシーンは生々しい。
記事には木原がX子に「俺が手を回しておいたから心配すんな」と話した一幕まで掲載されている。さらに、週刊文春は、木原の愛人が、木原本人から「俺がいなくなったらすぐ(妻が)連行される」と聞かされたことを打ち明ける音声まで公開している。
問題なのは、当時、自民党情報調査局長という要職に就いていた木原が、権力を乱用し、捜査の幕引きを図った疑いまで指摘されていることだ。
これが事実なら、木原は即アウトだろう。“爆弾”を抱えた木原を政権中枢に置いておけば、岸田も大打撃は必至だ。しかし、岸田には木原を切れない事情がある。政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「木原氏が殺人事件の捜査に『手を回した』のが事実であれば、政権を揺るがす大問題です。普通に考えれば、岸田首相は即刻、更迭するしかありません。しかし、岸田首相は簡単にはクビにできないのではないか。木原氏は政権発足以降、内閣が打ち出す政策立案のほぼ全てに関わり、官邸を仕切ってきたキーマンだからです。岸田首相には、木原氏以外に官邸に置ける側近が見当たらない。そもそも、岸田首相には、派内にも頼りになる子分がいない。木原氏を切れば政権は空洞化し、立ち往生しかねません」
岸田は任命責任も問われかねない。木原のスキャンダルを事前に知っていた可能性があるからだ。
文春によると、警察が再捜査していた2018年当時、自民党の二階幹事長が木原に「X子と別れろ」「取り調べにはちゃんと素直に応じろ」と伝えたのだという。他派閥の二階が把握していたのだから、親分の岸田が知らなかったとは考えづらい。岸田は木原のスキャンダルを知っていながら、官房副長官に任命したのではないか。
ひと皮剥けば、岸田自民党はシッチャカメッチャカな状況だ。
この先、岸田政権はどうなるのか。昨年の参院選で勝利した時、しばらく国政選挙がない「黄金の3年間」を手にするといわれていたが、3年どころか、岸田政権は明日も見通せなくなってきた。
9月中旬に内閣改造を実施し、政権の浮揚を図ろうとしているようだが、逆に「岸田降ろし」が吹き荒れるきっかけになる可能性がある。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「岸田首相は人事で刷新感を出したいのでしょうが、過去に内閣改造で支持率が上がった政権はほとんどありません。そもそも、政権は解散すれば強くなり、改造すれば弱体化する--というのが政界の通例です。閣僚や役員を代えれば目先を変えられると思っているのでしょうが、国民は騙されないでしょう」
人事を行えば、登用されなかった「待機組」や、ポストから外された議員から恨みを買ってしまう。心機一転どころか、党内に火種をつくることになりかねない。10月22日に予定される衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補欠選挙で大敗を喫すれば、求心力はさらに低下するだろう。
打ち出す政策も完全に行き詰まっている。炎上中のマイナカードの問題は終わりが見えない。「異次元の少子化対策」も小粒で的外れな上、財源も曖昧なままだ。
人事が「岸田降ろし」のきっかけになる
この先も失政続きで支持率が下がれば、さらに党内の反岸田の動きが加速するだろう。野党も勢いづくに違いない。
もはや、この政権には何も期待できないのは明らかだ。
「岸田首相は“新しい資本主義”や“異次元の少子化対策”をブチ上げてきましたが、結局どれも中身がハッキリせず、実現しそうもない。それもこれも、この国をどこに導くのかビジョンがないからです。かつて、小渕恵三氏は外相時代に『対人地雷禁止条約』加入に注力し、福田康夫元首相は『クラスター弾禁止条約』制定に汗を流しました。ところが、岸田首相はリベラルな宏池会のトップなのに、やっていることは、米国言いなりの大軍拡です。これでは支持率が下落するのも当然でしょう」(本澤二郎氏=前出)
漂流政権は破滅も近いのではないか。
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