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※紙面抜粋
※2023年7月15日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
欧州からゴキゲン帰国(C)共同通信社
案の定、岸田内閣の支持率低下に歯止めがかからない。時事通信の世論調査(7〜10日実施)によると、支持率は前月比4.3ポイント減の30.8%。2カ月連続で下落し、政権運営の「危険水域」とされる30%割れが再び目前に迫っている。不支持率は4.3ポイント増の39.3%で、3カ月ぶりに不支持が支持を上回った。時事の調査は個別面接方式のため、信頼性が高い。
格差是正や所得の再分配を掲げた「新しい資本主義」は有名無実で、アベノミクス踏襲によって円安物価高が常態化。実質賃金は14カ月連続マイナスで、生活保護の申請件数は4カ月連続で前年を上回っている。追い打ちをかけているのが、マイナンバーカードのトラブル続出。国民不安を増幅させている。時事の調査では、マイナカード問題をめぐる政府の対応が適切だと思うかとの質問に「思わない」が64.2%に達し、「思う」の12.9%を大幅に上回った。マイナカードと健康保険証の一本化を進め、来年秋に現行保険証を廃止する方針について「延期すべきだ」との回答が39.0%を占め、「撤回すべきだ」も30.9%に上った。マイナンバーの利用範囲拡大は「反対」が44.5%で、「賛成」の29.7%を大きく引き離した。
支持率は下がるべくして下がっている。野党は26日に参院特別委員会で開かれる見通しの閉会中審査で、マイナ問題への追及を強める方針。世論がさらに硬化する可能性大だ。
また大雨放置で中東歴訪へ
ところが、である。「超」が付く楽観主義で知られる岸田首相は、「夏の間に外交でいろいろ仕込んでいるから大丈夫」と自信を持っているという。地元に引っ張ったG7広島サミットにウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加し、イベント効果で支持率が反転した“成功体験”にいまだ浸っているようだが、現実はそう甘くない。
九州北部を襲った記録的な大雨被害をほったらかし、岸田は米欧の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に2年連続で馳せ参じたものの、フタを開けてみれば見せ場なし。目玉だったゼレンスキーとの会談はドタキャンされた。岸田は「NATOの会合が大幅に長引いたため」と取り繕っていたが、今年の日本はG7議長国だ。ゼレンスキーが切望したNATOへの加盟時期の具体化が見送られた代わりに、G7が長期的な安全保障を約束する共同宣言を発表してお墨付きを与えた上、日本は総額76億ドル(約1兆円)超の支援を表明している。それなのに袖にされた格好だ。強いて言えば、米国のバイデン大統領に「彼が立ち上がり、ウクライナを支援し、日本の防衛費を増額すると思っていた人はほとんどいなかった」「彼は日本を強化した」などとおだてられたが、それは米国隷従を極めていることと同義。戦後日本が守ってきた平和憲法を骨抜きにする所業である。
そうして岸田はタッチ&ゴーで中東へ。14日、帰国。16日からサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを3泊4日の日程で歴訪する。あすにかけて東北で大雨が予測されているにもかかわらず、だ。
イケイケ右派世論におもねる考え違い
日本気象協会は特に秋田県で記録的な雨量となり、災害リスクが急激に高まるおそれがあると警鐘を鳴らしている。16日までの48時間の降雨量が多いところで400ミリ前後に達すると予想。この20年ほどに県内で観測された最多雨量の1.5倍を超えるところもある見込みだという。原油を値切り倒してエネルギー高騰分の穴埋めでもしない限り、中東歴訪に世論の関心は高まりっこない。8月末に訪米して臨む予定の日米韓首脳会談は「連携強化」という名目の3国軍事同盟化の加速にほかならず、論外だ。その後もインドネシアでASEAN関連の首脳会議やら、インドでG20サミットといった外遊が目白押しだが、政権浮揚につながる要素は見当たらない。
支持率が2割台寸前の岸田政権は国民の声に耳を傾けるどころか、相変わらず反国民的政治を続けているのである。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「支持率は下落傾向といっても、足元の政治状況や国民生活に照らせばまだまだ高い。岸田首相がおもねっているのは、イケイケどんどんの右派世論。自民党最大派閥の安倍派、それを支える右派カルトの日本会議や統一教会(現・世界平和統一家庭連合)などの強権的かつ保守的世論に媚びへつらっているのです。好戦的な保守層の機嫌を取ることが支持率挽回につながると考え違いをしている。そんな姿勢だから内政で打開策を講じることができず、政権は行き詰まり、八方塞がりになる。外遊で“やってる感”を演出してごまかそうなんて、国民をとことんバカにしています。この政権に上がり目はない」
年内解散はなし、来夏案浮上
右派ウケする防衛費倍増や、子育て世代に寄り添ったかのような異次元の少子化対策を打ち出したものの、国民の負担増があらわになる財源確保策の具体化は先送り。防衛増税の開始時期を決めるための関連法案提出も事実上、先延ばしになった。自民党税制調査会の非公式幹部会合は、今秋の臨時国会への提出は難しいとの認識で一致。当初想定された2024年度開始は消え、25年度も見送られ、26年度に着地する公算が大きくなっている。安倍派の萩生田政調会長らが盛んに横やりを入れていたのもあるが、最大の理由は税収増だ。22年度の国の一般会計の税収は71兆1373億円で、初めて70兆円を突破。消費税、所得税、法人税の主要な3つの税収がいずれも伸び、防衛費に一部回す計画の剰余金が前年度より1.2兆円多い2.6兆円に膨らんだためだ。物価高の影響で消費税収が膨らんだというカラクリである。国民無視の暴政に国民は何重にも虐げられているのだ。
政治評論家の野上忠興氏はこう言った。
「この時期の首相は、外遊中に人事案を練るのがお決まりのパターン。首脳外交となれば事務方が普段以上にお膳立てをし、台本通りに動くだけですから、実質やることはない。内政では批判にさらされていても、ひとたび国外に出れば、下にも置かないもてなしを受けて気分は上がる。異国の空気を吸ってリフレッシュし、後半政局に備えようとでも考えているのでしょう」
厄介事は先送りし、内閣改造・党役員人事の目くらましで国民を騙せると思っているのだとしたら、岸田はオメデタさでも歴代最低だ。9月前半を軸としたスケジュールが飛び交っているが、「統一教会問題で大揺れした昨年は政権幹部らの予想を1カ月前倒しして改造を断行した。今年も局面転換を狙い、マイナンバー総点検の中間報告を取りまとめる8月上旬以降の実施もあり得る」(与党関係者)との見方もある。どうなるか。
自民党内では「局面が変わった。年内の衆院解散は困難かもしれない」と弱気の虫が鳴き始めた。支持率低下に右往左往。この調子だと、解散・総選挙も増税もできない死に体へまっしぐらだ。
「年内に解散は打てない。来年の通常国会が閉じた後、来夏案が浮上している」(官邸事情通)
そこまで岸田政権が持つのか。それは世論の動向にかかっている。
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