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※紙面抜粋
※2023年7月13日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
何もかも米国の言いなり(岸田首相とバイデン米大統領=右)/(C)ロイター
そういうことか。豪雨災害に苦しむ国民を置き去りにして、リトアニアで開催された「NATO」首脳会議に出席した岸田首相。本人は本気で“支持率アップ”につながると思っているらしい。しかし、ネットでは、支持率アップどころか<九州北部や中国地方の豪雨被害を無視して、本日出発ですか>などと批判の声が噴出している。
出発の前日、予定通り欧州を訪問するかどうかは「明朝(11日朝)、被害状況を見極めた上で判断する」と口にしておきながら、平然と外遊に出掛けたのだから批判が殺到するのも当然である。雨はやまず、死者まででていたのに、よくぞ出発できたものだ。
そもそも、日本は加盟国でもないのに、米欧の軍事同盟であるNATOの首脳会議に出席する必要があったのかどうか。日本が首脳会議に招待されたのは、アメリカの都合だ。中国を抑え込むために、アメリカの同盟国である日韓にNATOとの協力を拡大させようとしていた。要するに「呼ばれたから行った」といった程度なのではないか。
外交通を気取る岸田は、就任以来、やたらと外国に行きたがり、8月以降もアメリカ、インドネシア、インド、さらにアメリカと外遊日程を詰め込んでいる。
異様なのは、これだけ外交を重ねても、この国をどうしたいのか、まったく見えてこないことだ。中身ゼロの外交をくり返している。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「岸田外交の大きな問題は、理念、哲学、メッセージがまったく見えないことです。たとえば、アメリカがウクライナへクラスター爆弾を供与することに対して、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリアといった国々が一斉に反対の声を上げているのに、岸田首相は沈黙したままです。賛成なのか、反対なのか意思表示しない。
クラスター爆弾は、非人道的兵器として『オスロ条約』で製造や使用を禁止されている。日本はオスロ条約に加盟しているのに、なぜ反対しないのか。さらに、NATOの連絡事務所を東京に開設する構想についても、賛否を明確にしない。フランスのマクロン大統領は、中国を刺激することになる東京事務所の開設には、ハッキリと『ノン』の意思表示をしています。東京事務所を開設するかどうか、日本は当事者でしょ。なぜ、意思表示しないのか。アメリカに忖度しているのは明らかです」
各国が自分たちの考えを堂々と表明しているのに、アメリカの顔色をうかがっているだけの岸田外交を、世界はどうみているのだろうか。軽蔑しているに違いない。本人は外交に自信を持っているらしいが、“空っぽ首相”が外遊を重ねるたびに、国益を損なっている格好だ。
どの国も国益を最優先しているぞ
こんな主体性のない外交をやっているのは、世界中で日本くらいのものだ。海外諸国は国益を最優先し、シタタカな外交を展開している。
今回、外交巧者ぶりを見せつけたのがトルコだ。エルドアン大統領はスウェーデンのNATO加盟を巡って、巧みに交渉を進め、しっかりと「果実」を引き出している。スウェーデンの加盟に難色を示し続けて、NATO加盟国をジリジリさせながら、首脳会議の直前、加盟容認に転じることで、見返りとして、長年求めていた「EU加盟」に一歩近づけている。10日のスウェーデン首脳らとの会談後の声明には、「スウェーデンはトルコの加盟交渉を活発化させる努力を支援する」との文言が盛り込まれた。
さらに、渇望していたアメリカのF16戦闘機の売却についても、バイデン大統領から「支持」を取り付けている。NATOへの新加盟は、既存メンバーすべてが容認しないと認められないルールを巧みに利用した格好だ。ある意味、アメリカまで手玉に取ってしまった。
イスラエルもアメリカからは「厄介な同盟国」と見られている。アメリカを巻き込み、イスラエルを取り囲むアラブ、イスラム諸国を分断させ、自分たちの優位な状況をつくっている。
フランスだってシタタカな外交路線を貫いている。NATOの一員でありながら、経済的なつながりが強い中国と親交を深め、台湾問題を巡っても、マクロン大統領は「欧州はアメリカに追従すべきではない」と発言。NATOの東京事務所開設構想についても、中国を刺激することを避けるために反対している。
同盟国といっても、どの国もアメリカと駆け引きをしているのが実情である。ただただアメリカに隷従しているのは日本だけだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「日本はトルコやフランスよりも経済力があるのだから、本来、その強い立場を利用し、独自外交を展開できるはずです。なのに、アメリカ追従が染みつき、いまだに『アメリカに従っていれば何とかなる』という発想です。そのため、自分の頭で外交方針を考えることができない、思考停止状態に陥っている。だからか、外国訪問を重ねているのに、岸田首相には独自外交がない。首相就任後にやったことと言えば、海外バラマキくらいでしょう」
アメリカ追随の時代遅れ
このまま、“空っぽ首相”に外交をやらせていたら、いずれ日本は、アメリカの戦争に巻き込まれることになるのではないか。
実際、岸田政権の誕生後、アメリカに要求されるまま日本の軍拡は急ピッチで進んでいる。敵基地攻撃能力の保有に、5年で総額43兆円という防衛費の倍増、さらに、殺傷能力のある武器輸出の拡大──と、日本は米中対立の“先兵”役を買って出ている状態だ。
日本がNATOの首脳会談に出席したことも、中国を相当、刺激したはずである。事実、中国は「アジア太平洋版NATOは必要ない」と怒り狂っている。後から訂正したが、バイデン大統領の「私が彼(岸田首相)を説得し、日本は防衛費を飛躍的に増やした」という発言も、本当のことなのではないか。前出の五野井氏はこう言う。
「すでに国際社会ではアメリカ1強時代は終わりかけています。いまや、アメリカ一国では世界の秩序も保てない。グローバルサウスも含めて、世界は多極化し始めている。『アメリカか中国か』『アメリカかロシアか』といった二元論は、もはや通用しません。必要なのは、どちらか一方に付くのではなく、シタタカに実をとることです。
アメリカとも中国とも対話できる関係をつくるべきです。フランスは米、中のみならず、グローバルサウスにも目くばりし、多元的な外交を展開しています。それに引き換え、アメリカベッタリの岸田政権は戦略性に欠けている。今のままだと、最悪、アメリカの使い走りになり、日本だけが中国と戦争することになる可能性もあるでしょう」
首相になってやりたいことを問われた岸田首相は「人事」と答え、子どもに「なぜ首相になったのか」と質問されると戸惑いながら、「一番権限の大きい人なので」と回答。この男には、対策も理念もない。中身のない男に、国益が複雑に入り組んだ外交などやれるはずがないのだ。即刻、クビをかえなければダメだ。
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