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※紙面抜粋
2023年6月5日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
サミット効果は、あっという間に剥落(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
身から出たサビ、自業自得、因果応報──。高揚感に包まれていた岸田首相が有頂天から転落した要因を一言で表せばこのあたりになろうが、それにしてもぶざまだ。政権浮揚を狙い、地元・広島に引っ張ったG7サミットから2週間。期待通りに内閣支持率が爆上がりしたのはホンの一瞬で、ウクライナのゼレンスキー大統領のサプライズ来日などで盛り上げたサミット効果は、アッという間に剥落した。
それもそのはずで、「核なき世界」の実現をライフワークと言い、唯一の戦争被爆地ヒロシマに核保有国の首脳らを招いてやったことは、米国を中心とする西側の核保有と「核の傘」の正当化。よりによって核抑止論で結束したのだ。戦後一貫して核と戦争を否定し、平和を希求してきたヒロシマを軍拡の踏み台にしたわけで、被爆者ならずとも目を剥く欺瞞のイベントだった。首相になることだけが目的で、「聞く力」も「決断と実行」もポーズに過ぎないことは分かり切っていたが、いくらなんでも度が過ぎる。石もて追われなきゃおかしいくらいだ。
サミットの化けの皮が剥がれた途端、岸田に襲いかかったのが一族が公邸に集った忘年会問題である。スクープした「週刊文春」の続報によると、首相秘書官だった長男の翔太郎氏だけでなく、次男と三男も参加。「組閣ごっこ」にはバカ3兄弟で写っていたというから、開いた口が塞がらない。
「身内びいき」二枚舌が決定打
写真週刊誌「フライデー」は、岸田夫妻を中心に翔太郎氏を含む総勢18人が写った集合写真を掲載。スエットにダウンベスト、裸足という寝間着姿でニッコリ笑う岸田からはリラックスムードが漂う。年間1.6億円の血税が投じられ、セキュリティーも居心地も満点の公邸でさぞや楽しい宴に興じたのだろう。にもかかわらず、岸田はこの期に及んでも記者団に「公邸には私的なスペースと迎賓機能を持つ公的なスペースがある。私的なスペースにおいて親族と同席したものだ」「公的なスペースにおいて不適切な行為はない」などと釈明した。
政治評論家の野上忠興氏はこう言う。
「支持率は再び下落傾向に転じるでしょう。決定打は岸田首相の二枚舌。当初は〈私的な居住スペースでの食事の場に一部顔を出し、あいさつもした〉と国会答弁し、写真撮影に一切言及せず、翔太郎氏を続投させました。第一報の段階で撮影も含めてキチンと説明していれば少なくとも誠意は示せたのに、後手後手になった。岸田家4代目の政治家に育てるべく政務秘書官に引き上げた翔太郎氏を傷つけたくない一心で、身内びいき批判にさらされてもかばい、外遊同行中に公用車で物見遊山疑惑が噴き出てもかばい続けた。この手の醜聞に日本人はシビアで、自民党と統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着をめぐる問題とは性質が全く違う。衆院解散は遠のいたとみています。ここでヘタを打てば、政権だけでなく、跡取り息子も終わってしまう可能性がある。イチかバチか解散、破れかぶれ解散なんてのは、まずできない」
トバッチリにあっちもこっちも浮足立つ
そうでなくても、四半世紀にわたって連立を組み、選挙で支えあってきた公明党との関係には亀裂が生じている。衆院小選挙区定数「10増10減」で新設された東京28区(練馬区東部)を欲しがっていた公明は、断念に追い込まれた腹いせに都内の協力解消を通告。実行されれば、各選挙区に1万〜2万票ほどある公明票は自民候補に流れなくなり、現職数人がバッジを失う可能性がある。都内だけで収まればまだしも、こうした動きが全国に波及すれば、あっちもこっちも浮足立ちかねない。「ああ見えて、総理はやりたい放題。目配りなんか全くない。トバッチリを食らうのはゴメンですよ」(自民中堅議員)なんて、泣き言も聞こえてくる。
今国会の会期末まで2週間あまり。立憲民主党や共産党などが反対する入管法改正案をめぐる国会審議では、関係者の懸念が的中し、難民認定のズサン審査の実態が浮上。安全弁となるべき参与員に対し、入管が恣意的に再審査案件を割り振り、認定を回避していた疑いが強まっているのだ。送還や収容に関する入管当局の権限を強める法案の根拠に確たる裏付けを欠いたまま、自公与党はあす(6日)の参院法務委員会で採決する構えだ。
公金受取口座の別人登録、証明書誤交付、ポイント誤付与。問題だらけなのに、用途を無制限に拡大する改正マイナンバー法は先週成立した。2024年秋に現行の健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化するほか、マイナンバーの年金受給口座とのひもづけが進められる一方、セキュリティー向上などを理由に26年に新様式のマイナンバーカードの導入を検討しているという。アメとムチで人口の7割超に申請をさせておきながら、安全対策が不十分な代物を交付し、血税で差し替えるというのだから、デタラメの極みだ。
「サミット解散」敗北の歴史
一族は安全地帯で特権意識にどっぷり漬かり、下々の者の人権を平然と無視し、監視社会に押し込める。そんな岸田のやり方に、世論の怒りも沸騰している。これで解散は消えたともっぱらだが、この先、岸田政権に上がり目がないのも事実だ。野党第1党の立憲民主党、凌駕を狙う日本維新の会ともに候補者擁立にてこずっているが、時間が経てば臨戦態勢が整ってくるだろう。年3.5兆円を積み増した「異次元の少子化対策」の財源案は選挙対策で年末まで先送りしたが、時限爆弾のようなものだ。ガンジガラメの岸田政局。解散を打てずに野垂れ死にすることになるのか。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言った。
「永田町は相変わらずザワついていますが、どのツラを下げて解散を打てるというのか。国会審議はメチャクチャで、公明党とのいさかいは収まっていないし、自民党執行部も問題を抱えている。岸田首相の党総裁再選戦略で考えれば、どんなに早くても解散は9月以降でしょう。少なくとも8月に内閣改造・党役員人事をやってからでないと、再選戦略のプラスに働きません。野党の準備不足がチャンスだとか言われていますが、ちょっとやそっと時間をあけたところで、準備万端とはならない。そう踏んでいると思いますよ」
広島サミットを目前に控えた先月中旬、岸田は会長を務める宏池会の政治資金パーティーでOBの大平正芳、宮沢喜一両元首相も日本開催のサミットで議長を務めたことに触れ、「宏池会出身の首相として宿命を感じられずにいられない」と酔いしれていた。「自民で最も平和にこだわってきた宏池会の歴史と伝統を継ぐ者として、世界の平和と安定に貢献するために責任を果たす」とも強調していたが、大平、宮沢ともにサミット開催年に衆院を解散し、敗北している。グズ首相も同じ道をたどることになるのか。
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