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※紙面抜粋
※2023年5月17日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
メディアセンターで広島名物「オタフクソース」をPR(視察する岸田首相=代表撮影)
「核なき世界」のお題目と矛盾した「世界分断宣言」を確認する舞台となるのか。19日開幕の広島G7サミットで「成果」として発表する声明の原案が明らかになってきた。
中心議題となるウクライナ情勢の討議にはゼレンスキー大統領もオンラインで出席。首脳宣言とは別にこの問題に特化した声明を発表する方向で各国と調整を進めている。原案では、ロシアによる侵攻を「国連憲章を無視した、いわれのない侵略戦争」と指摘し、制裁を強化。「最も強い言葉で非難する」としている。
中国に対しても、共同声明に「特化した項目」を盛り込む方向で調整中だ。「力による一方的な現状変更」や「経済的威圧」など懸念事項を列挙する見通しで、いずれも過去のG7声明よりも踏み込んだ内容になる可能性がある。
ウクライナ侵攻を続けるロシアや覇権主義的な行動を強める中国と対峙し、G7の結束を強調。これまで以上に中ロとの「対立」が際立つサミットとなりそうで、議長国として両国とは隣国である日本の岸田首相がその旗振り役を務めるのだ。
ゼレンスキーは広島サミットに先駆け、13日から15日までG7メンバーのイタリア、ドイツ、フランス、イギリスを歴訪。各国首脳との会談では、さらなる武器供与や人道支援の継続を訴えた。広島サミットを大規模反攻に向けたセレモニーの場にしようとする意図は明白だ。
12〜13日に開かれたEU外相理事会では、見直しを進めている対中国戦略文書の原案を各国に配布。「台湾有事」への危機感が盛り込まれ、「緊張が高まるシナリオに備える必要がある」と初めて明記された。
「自国を中心とした新しい世界秩序の構築を試みているのは明らかだ」と強い言葉で中国を批判し、インド太平洋地域での軍事的覇権行動やロシアへの接近に対する懸念も羅列された。対中関係はEU内で温度差があるとはいえ、バイデン米政権が進める「中国包囲網」に呼応するような動きだ。
いつにも増してキナ臭いムードが漂う
そして日本にはアジア初のNATO(北大西洋条約機構)の連絡事務所を開設する計画が判明。地理的に近い場所で台湾有事の情報を収集するのが目的とされる。さらに、岸田が米誌「タイム」の表紙を飾り、「長年の平和主義を捨て去り、自国を軍事大国にすることを望んでいる」と紹介されたばかりでもある。
いつにも増してキナ臭いムードが漂う中、間もなく各国首脳が広島に結集。まるで“軍事同盟”を確認し合うかのように、自由や民主主義、法の支配など共通の理念を持つ国同士が、専制国家の中国とロシアに対する敵意を隠さず、深刻な懸念を表明するのである。ここまで外交・安全保障を全面に打ち出すサミットは異例だ。
サミットの議題は本来、経済が軸である。1975年にパリで初めて開催した目的も、西側の主な先進国が第1次石油危機後の経済的混乱に協調して対処することだった。
「反グローバリズムを掲げる抗議デモが過激化し、暴徒から逃れるため、各国ともサミットの警備にはリトリート(隠れ家)方式を採用。日本での開催地も沖縄、北海道、伊勢志摩と続き、下界から遮断された風光明媚な地で実施されるサミットは、首脳の物見遊山のようでもあった。
『自国第一主義』を掲げたトランプ米政権下には首脳宣言を採択できず『不要論』さえ噴出したのに、ウクライナ侵攻を機に一変。再び結束が強まったとはいえ、G7の枠外にいる中ロとの対立を軸にまとまっているだけ。特に今回のサミットは世界を二分し、軍事的緊張を高める場になりつつあるのが気がかりです」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
G7が国際秩序を主導する時代は終わった
あからさまな敵意を示せば、中ロの反発は必至だ。中国外務省は広島サミット前日の18日から2日間、陝西省・西安で「中国・中央アジアサミット」を開催すると発表。カザフスタンやキルギスなど5カ国の首脳を招き、習近平国家主席が議長を務める。間違いなくG7に対抗する動きだ。
「G7が結束を固めるほど、皮肉にも世界の分断は加速してしまうのです」と言うのは、元外務省国際情報局長の孫崎享氏だ。こう続けた。
「日本人の多くは、まだG7が世界を動かしていると思い込んでいますが、そんな時代はとうに終わっています。GDPを購買力平価ベースで比べればG7の計38.8兆ドルに対し、非G7の上位7カ国(中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ)の合計は46.1兆ドル。経済成長率も非G7の方が上回っています。特に『グローバルサウス』と呼ばれる中東、アフリカ、アジア、中南米の新興・途上国は、経済面での中国との結びつきが強い。圧力一辺倒の『中国包囲網』では非G7の理解は得られず、世界の分断を深めることになりかねないのです」
岸田は広島サミットに、インドやブラジル、ベトナムなど「グローバルサウス」の国々を招待。G7の結束に巻き込もうともくろむが、対ロ制裁と対中牽制への支持を得られる見込みは薄い。ウクライナ侵攻から1年を迎えた2月23日。国連総会はロシア軍の撤退や戦争犯罪の調査・訴追などを求める決議を採択したが、インドとベトナムは投票を棄権した32カ国に含まれる。
「G7の経済力が圧倒的だった時代ならいざ知らず、いくら持ち上げたところでグローバルサウスの多くは中立の立場を崩さないでしょう。逆にG7と同じ価値観を押し付ければ、反発を招くだけ。ましてや中東諸国はG7の『力による現状変更を許さない』との主張に強い不信感を持っています。米国のイラク戦争をはじめ、西側の力で現状を散々変えられてきたのが中東の歴史です。広島サミットに招待する8カ国のうち中東からはゼロです。G7の価値観だけに染まった岸田首相の外交姿勢は危うい。もっと広い視座に立つべきです」(孫崎享氏=前出)
ご当地グルメで定見なき対立姿勢を糊塗
もはやG7が国際秩序を主導するという感覚自体、時代遅れ。「民主国家VS専制国家」なる2項対立の短絡思考では、世界は捉えきれない。多様性が求められる時代にも逆行する。
それなのに、G7のド真ん中に立とうとし、ロシアと中国との対決姿勢をあおるだけの岸田の無定見にはあきれる。世界分断のお先棒を担いでいるようなもので、どれだけの覚悟と意思があるのか。
前出の五野井郁夫氏はこう言った。
「外交・安全保障に前のめりで、中国とロシアとの対峙ばかりが目立ち、肝心要の『核廃絶』に向けた議論は後景に退きかねない。そもそも、日本がNPT(核拡散防止条約)体制を維持し、『核の傘』に頼り続ける以上、インパクトのある成果は望めません。被爆地『ヒロシマ』の地の利を生かせず、2009年にプラハでオバマ元大統領が行った『核なき世界』演説の再確認にとどまる程度がオチです。
ところが、定見なき分断への加担という危うさを糊塗するように、外務省は広島サミットの広報動画で牡蠣や瀬戸内レモンなどご当地グルメをアピール。いざ本番を迎えれば、メディアも夫人外交や、各国首脳の夕食会メニューなどに目を向け、お祭りパフォーマンスに明け暮れるのは目に見えています。こんな形で被爆地『ヒロシマ』を世界平和から遠ざかるようなサミットの舞台にしてしまっていいのでしょうか」
かつて原子爆弾が投下された街に各国リーダーが集まり、核廃絶の一歩目を記す歴史的転換点を目指すどころか、世界が決定的分断に向かう歴史の分水嶺になりかねない広島サミット。平和都市ヒロシマにふさわしくない皮肉な巡り合わせは、亡くなった人々を含む被爆者への冒涜以外の何ものでもない。
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