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※紙面抜粋
※2023年4月28日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
こうして凋落と劣化が進んでいく(岸田首相)/(C)共同通信社
「プライム市場上場企業について、2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指します」
27日、首相官邸で開かれた男女共同参画会議で、岸田首相はこう宣言した。東京証券取引所の最上位市場「プライム」に上場する企業のうち女性役員の比率が30%以上なのは、昨年7月時点でわずか2.2%。これを1800社超あるプライム企業の全体に広げるのは並大抵のことではないが、高い目標を掲げることで、企業に女性登用を促す方針だという。6月をメドに策定する「女性版骨太の方針」とやらに盛り込むらしい。
「女性比率30%」という“数値目標”を聞いて、「あれ、ちょっと前にもあったよな」と思い出した人もいるのではないか。安倍政権の看板政策のひとつ「女性活躍」の目玉として掲げられていたのが、「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」だった。
安倍元首相がダボス会議の演説でもこれを掲げ、“国際公約”していたが、結局、目標年次になっても実現にはほど遠く、「2020年まで」が「2020年代の可能な限りに早期に」と曖昧な形で先送りされた経緯がある。
岸田の宣言も安倍時代と同じ「口先政治」の類いに聞こえてしまう。というのも、だったら政治の世界はどうなのか、という疑問が湧くからだ。
現在の第2次岸田改造内閣の19人の閣僚のうち女性はたった2人しかいない。自民党の国会議員に占める女性比率に至っては、わずか9%で1割に満たない。それなのに、「女性役員比率30%以上」とは、よく言うよ、だ。
自民党内には、男女の役割分担を求め、女性を個人として尊重しない「伝統的家族観」がいまだ根強く染み付いている。1996年の法制審議会の答申から30年近く経っても、いまだ選択的夫婦別姓制度の導入に後ろ向きだ。保守派のイデオロギーや“オッサン政治”が大手を振って跋扈している。
企業に高い目標を求めるのなら、まずは「隗より始めよ」だろう。政治が率先して女性登用を進め、社会の意識を変えていくべきで、岸田は党内の古くさい体質を変えることが先決じゃないのか。
少子化対策に2つの的外れ
こんな支持率アップ目的の“やってる感”では、「異次元の少子化対策」も全く期待できない。
26日に開かれた政府の経済財政諮問会議が公表した試算には目がテンだった。児童手当や住宅支援の拡充など、3月末に「たたき台」としてまとめられた対策にGDP比1%程度(約5兆円)を増やしても、合計特殊出生率(出生率)は0.05〜0.1%程度しか上昇しないというのだ。お情けのバラマキ政策では冗談のような効果しかないということだ。
同じく26日に厚労省の国立社会保障・人口問題研究所が発表した「将来推計人口」によれば、出生率は5年前の前回推計時の「2065年に1.44」が、今回「2070年に1.36」へと減少ペースが加速した。もっとも、21年の出生率は1.30なので、今後上昇するという推計には首をひねるしかないのだが、いずれにしても、この国の少子化問題は、小手先の弥縫策ではどうにもならないことをハッキリと示している。
経済評論家の斎藤満氏が言う。
「岸田政権の少子化対策は2つの面で的外れです。児童手当の拡充など分配政策を進めていますが、そのためには誰かが負担をしなければならない。まずは経済全体のパイを大きくしなければなりません。所得が増えていくという将来への期待が持てなければ、子どもは増えない。経済が成長しなければ問題は解決しません。
もう1つは、すでに子育てしている層より、非正規雇用などで収入が少なく、子どもが欲しくても持てない、結婚したくてもできないという層を集中的に支援すべき。現状のたたき台では、本当に必要な人たちを支援できていません」
国家の基本は経済力。軍拡優先の政治に未来はない
国会では防衛費増額に必要な財源を確保するための特別措置法案の審議が進んでいる。
2023年度からの5年間で43兆円という防衛費大増額のため、税外収入や歳出改革、決算剰余金といったありとあらゆる“余り金”が防衛費に充てられる。それらを貯める「防衛力強化資金」なる“別財布”までつくり、それでも足りないから増税するというのである。
野党の立憲民主党が、赤字国債を財源とする補助金の剰余金が「防衛力強化資金」に使われるのは、「財源ロンダリングで『隠れ赤字国債』だ」と批判したが、岸田政権は聞く耳持たずだ。剰余金は国庫に返して有効活用すべきだし、事実上の借金まで使って防衛費を増強するのは、どう考えても身の丈を超えている。
そもそも、1000兆円を超える借金を抱える財政逼迫国家なのだから、貴重な財源の使い道は、あらゆる経費を横に並べて優先度を検討しなきゃおかしい。なぜ防衛費だけが特別扱いされ、社会保障、教育、少子化、経済対策などは後回しにされるのか。
ソフトなイメージで「所得倍増計画」を掲げて自民党総裁選に勝利したため、最初は多くが騙されたが、岸田は「スキャンダルのない安倍」と言われるタカ派がその正体。「今日のウクライナは、明日の東アジアかも知れない」と台湾有事を煽り、バイデン米国が望むままに防衛費をGDP比2%という巨額に引き上げ、米軍と自衛隊の一体化を進め、「防衛装備移転三原則」の見直しで殺傷能力のある武器輸出も解禁する。
米国べったり首相が軍拡一辺倒に舵を切り、増税まで課せば、経済が成長するわけないのである。
国権の最高機関で低レベルの議論
政治家の劣化も著しい。象徴的なのが、自民党議員のパーティーでの谷国家公安委員長の失言だ。和歌山で岸田の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件をめぐり、視察先で警察庁から連絡を受けた後も「うな丼をしっかり食べた」と挨拶し、問題になった一件である。
警察庁を管理する組織のトップが緊張感ゼロでは資質に疑問符が付くが、その谷をめぐって参院本会議で野党が「うな丼大臣は即刻更迭を」と求め、岸田が「引き続き職務に当たってもらいたい」と答弁するやりとりを見ていると、国権の最高機関であまりの低レベルな議論が行われていることに情けなくなる。
岸田が衆院を解散しなければ、あと2年は政権安泰。こんな亡国政権が無風で続けば、この国は静かに沈没していくだろう。
今月発売されたばかりの著書「分断と凋落の日本」でこの国の劣化をトコトン総括した元経産官僚の古賀茂明氏はこう言う。
「国家の基本は軍事力ではなく、やはり経済力。軍拡優先の逆行した政治がこのまま行われていけば、戦争になろうが、戦争になるまいが、日本は破綻への道まっしぐらです。仮に戦争になれば、財政的にも厳しくなって敗北するだろうし、それ以前に、戦費調達のために国債を発行するような国は信用失墜で破綻する。
運よく戦争にならなかったとしても、あらゆる財源が軍事費優先で投入されていくので経済成長はなく、国民生活も再生しない。つまり、軍拡優先の政治では未来はありません。国が滅びるのかどうかの分かれ道にいるのに、ウナギだサルだの議論をしているこの国の政治は、その時点で終わっていると言うしかない。国民は危機感を持ち、早く目を覚まさないといけない」
もはや手遅れかもしれないが、座して死を待つぐらいなら、やれることがあるはずだ。
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