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ガザ軍事衝突 人質部分解放から見えたもの/出川展恒・nhk
2023年11月28日 (火)
出川 展恒 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/489959.html
■パレスチナのガザ地区で戦闘を続けているイスラエルとイスラム組織「ハマス」は、4日間の戦闘休止と引き換えに、合わせて50人の人質を解放するという先の合意を実行し、この合意がさらに2日間延長されることになりました。今回の戦闘休止と人質の部分的な解放から何が見えたのかを考えます。
■まず、人質の部分的な解放が実現した背景から見てゆきます。ハマスがガザ地区を実効支配した2007年以降、イスラエルとの間で、大規模な軍事衝突が起きたのは、今回で5回目です。事態収拾を非常に難しくしている要因は、先月7日、ハマスの奇襲攻撃で、イスラエルの一般市民が大勢殺害されたことに加えて、およそ240人とされる人質がガザ地区に拉致され、捕らわれたことです。人質には、子ども、女性、高齢者を含む一般市民と外国人が多く含まれています。
イスラエルのネタニヤフ政権は、徹底的な攻撃によってハマスに壊滅的な打撃と圧力を加えることが、人質の解放につながると主張し、当初、停戦はおろか、一時的な戦闘休止にも応じない姿勢をとっていました。しかしながら、人質の解放が一向に実現しなかったため、人質の家族や多くの国民が、戦闘よりも、人質解放に向けた交渉を優先すべきだと主張し、大規模なデモで政府に圧力をかけました。
さらに、ガザ地区の人道危機があまりにひどくなったことから、同盟国アメリカのバイデン大統領が、ネタニヤフ首相に繰り返し電話をかけ、ハマスとの間接交渉に応じるよう強く働きかけました。
ネタニヤフ首相は、内外の圧力に抗しきれず、ハマスとの間接交渉を受け入れました。仲介役は、アメリカのほか、ハマスに対し一定の影響力を持ち、アメリカ、イスラエルとも対話できるペルシャ湾岸のカタールとエジプトが務めました。ガザ地区にいるハマスの幹部が合意に向けた条件を示し、カタールで活動する別の幹部を経由して、カタール政府に伝達する形で、間接交渉が行われました。
ハマスにとっては、大勢の人質を、交渉カードにしたり、いわゆる「人間の盾」にしたりすることで、イスラエル側の攻撃を、ある程度抑止できる一方で、子どもや高齢者、外国人の人質を抱えておくのは、負担やリスクにもなります。さらに、戦闘休止の間に、態勢を立て直すこともできるため、人質の部分的な解放に応じたものと見られます。
合意内容は文書の形では発表されていませんが、各当事者の発表や声明を総合しますと、▼イスラエルとハマスは、4日間、戦闘を休止する。▼ハマスは、子どもや女性など合わせて50人の人質を、4つのグループに分け、毎日1グループずつ解放する。▼イスラエルは、収監中のパレスチナ人のうち、子どもや女性など合わせて150人を、解放される人質の数に応じて釈放する。▼戦闘休止の期間中、支援物資と医薬品を積んだトラック200台、13万リットルの燃料、および、調理用のガスを積んだトラックが、毎日、ガザ地区に搬入される。▼そして、ハマスが、さらに人質10人を解放するごとに、イスラエルは、戦闘を休止する日を1日ずつ延長する。こうした内容となっています。
■紆余曲折はあったものの、合意は全体として守られ、これまでに、イスラエル人50人、外国人19人、合わせて69人の人質が解放され、パレスチナ人150人が釈放されました。ハマスとイスラエルの双方が、合意の延長に前向きな姿勢を表明したことから、カタール、エジプト、アメリカの仲介で、間接交渉が行われ、27日、ガザ地区での戦闘休止と人質の解放を2日間延長することで合意が成立しました。この合意が守られれば、戦闘の休止は少なくとも29日まで延長されることになります。今後の交渉しだいでは、さらに合意が延長される可能性も残されていますが、長期にわたる戦闘休止や停戦に結びつくことまでは、期待できません。
ネタニヤフ首相は、これまで、「一時的な戦闘の休止と停戦は全く異なる」、「われわれは、ハマスを壊滅させ、すべての人質を取り戻すまで、戦争を続ける」と繰り返し強調してきました。また、ガラント国防相は、「今回の戦闘休止は短いものにすぎず、ハマスに圧力をかけるための激しい戦闘が、少なくとも、あと2か月は続くだろう」と述べています。イスラエル軍が、ハマスの重要拠点が残っていると見るガザ地区北部を中心に、激しい攻撃を再開させるのは確実な情勢です。
問題は、イスラエルのガザ攻撃が、いつまで続くのかですが、ネタニヤフ首相の政治判断次第ということになります。公約通り、ハマスを壊滅させることは、事実上、不可能です。ハマスはパレスチナ社会に深く根を張った組織であり、現在イスラエル領となっている土地も含めて、パレスチナのすべての土地を解放し、イスラムの教えに基づく独立国家を樹立するというハマスの思想を根絶することはできないからです。
また、一時的な戦闘休止の合意は、これからも成立する可能性がありますが、ハマスは、自らの身を守るため、人質全員の解放には応じないと考えられます。このため、ネタニヤフ首相は、国内世論が許容できるギリギリの線まで、軍事作戦を継続することになると思います。
現在、イスラエル軍は、史上最大規模の36万人の予備役を動員していますが、これはイスラエルの労働力のおよそ10分の1にあたり、基幹産業であるハイテク産業に従事する人たちの動員率が高いと伝えられています。このため、戦闘が長期化するにつれて、イスラエル経済への深刻な影響が指摘されています。膨張する戦費の問題もあって、現在の動員体制を維持できるのは、3か月程度が限界ではないかという専門家の指摘もあり、経済への影響も、ネタニヤフ首相の判断を左右する重要な要素となりそうです。
■最後に、ガザ地区での戦闘と連動する形で、パレスチナ暫定自治が行われているヨルダン川西岸地区でも、治安が著しく悪化し、大勢のパレスチナ人が命の危険にさらされている問題について触れます。
先月7日に一連の戦闘が始まって以来、イスラエル軍は、ヨルダン川西岸地区で、ハマスに関係していると見なしたパレスチナ人の一斉摘発を進めています。その中で武力衝突も起き、これまでに200人以上のパレスチナ人が犠牲になり、3000人以上が身柄を拘束されました。イスラエル軍は、裁判所の判断や法律上の根拠を示すことなく、パレスチナ人を刑務所に、無期限で収容することを可能にする「行政拘束」と呼ばれる措置をとっています。加えて、国際法に違反して、占領地で入植地建設を進めるユダヤ人入植者らが、パレスチナ住民を、武器を使って攻撃したり、暴力を加えたりする事例が急増しています。住んでいた場所を無理やり追い出される住民も増えています。違法行為であるにもかかわらず、入植者や極右政党を支持基盤とするネタニヤフ政権は、全く取り締まろうとせず、国際社会からは強い批判の声が上がっています。
見てきましたように、イスラエルとハマスの間では、一時的な戦闘休止と、人質の部分解放が当初の予定を超えて続いているものの、これが、長期的な戦闘休止や停戦に結びつく可能性は、ほとんどありません。このままでは、数日後、激しい戦闘が再開され、さらに多くの命が失われ、人道危機がいっそう深刻になることは避けられません。ヨルダン川西岸地区の治安悪化も今後どう拡大してゆくか、非常に心配です。戦闘休止をできる限り延長させ、停戦に向けた糸口を見出す関係国の外交努力が、今ほど求められる時はないと考えます。
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