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プリゴジンの乱・1か月 強硬姿勢を強めるプーチン大統領/石川一洋・nhk
2023年07月24日 (月)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/486047.html
ロシアを震撼させた“プリゴジンの乱”から一か月、ロシアはウクライナのオデーサなどへのミサイル攻撃を連日続けています。“正義と公正”を求める社会の欲求が強まるなか、プーチン大統領は来年3月の大統領選挙に向けて事態の収束を急ぐとともに、さらに強硬な姿勢を示しています。
プリゴジンの乱がプーチン大統領とロシア社会に与えた影響を考えてみます。
先月24日、ロシアの民間軍事会社ワグネルとその代表プリゴジン氏は、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任を求めて、ロシア南部の大都市ロストフ・ナ・ダヌーにある軍事侵攻の指揮をとる南部軍管区司令部を占拠、さらにプーチン大統領に正義を訴えるとして、モスクワに進軍を始めました。プーチン大統領はテレビで演説し、プリゴジン氏とワグネルの行動を「反逆」であり、裏切りだとして、厳格に処罰するとしました。
プーチン 「これは裏切り行為にほかならない」
ワグネルは、モスクワまで200キロの地点まで進軍、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介を受けて撤収に同意。刑事捜査は中止される一方ワグネルは武器、弾薬はロシア国防省に返還、ベラルーシへ拠点の移動を始めました。
▼まず今のプリゴジン氏とワグネルはどこで、何をしているのでしょうか。
プリゴジン氏は刑事罰に問われず、またベラルーシに追放されたわけでもなく、私の情報では今もロシアとベラルーシの間を自由に行き来しています。ワグネルはベラルーシで新たな拠点を築いています。その拠点でのプリゴジン氏のものとみられる映像がワグネル関係のテレグラムチャンネルで公開されました。この映像で注目されるのは、プリゴジン氏とともにワグネルの軍事部門のトップ・ウトキン司令官の音声が公開されていることです。
ウトキン司令官「これは終わりではない。これからもうすぐ最大の仕事が始まる。地獄へようこそ」
ウトキン氏は、ロシア軍の軍諜報局GRU(ゲーエルウー)の特殊部隊出身で、ワグネルというコードネームを持ち、モスクワへの進軍も指揮したといわれています。
ウトキン氏の存在はワグネルの軍事部門の中核はプリゴジン氏に従っていることを意味します。軍事的にウクライナにとっても脅威であるとともに、プーチン大統領は危険な武力集団をいまだに完全には制御できていないことを示しているのです。
▽プーチン大統領個人にもこの事件は大きな衝撃でした。なぜプーチン大統領は反乱5日後にプリゴジン氏を含むワグネル幹部と3時間にわたって会談をしたのでしょうか。
ロシアの有力紙コメルサントがこの会談についてプーチン氏自身の取材に基づき、非常に興味深い記事を発表しています。
会談では新たな指揮官の下、ウクライナの前線で戦い続けるというプーチン大統領の提案をプリゴジン氏がダメだと拒否したと書かれています。
私が注目した表現は記事の最後の部分、「大統領自身は同意しないだろうがワグネルの事件はプーチン大統領に強い衝撃を与えた」という文章です。ロシア語では、ペレパハチперепахать という動詞で表現しているのですが、この動詞は、鍬で畑を耕す、土をひっくり返すという意味で、プーチン大統領自身に何らかの変化を起こすほどの衝撃だったということです。どのような変化かは、記事では書いていませんが、以前のプーチン大統領なら一度裏切り者と切り捨てた部下と会うことは決してありませんでした。かつてはなかった弱さを見せたということを指すのかもしれません。
プーチン大統領としては、この事件による動揺を一刻も早く収束させたいと思っているのかもしれません。
▽“プリゴジンの乱”は、米ロのチャンネルの重要性も明らかにしました。
バーンズCIA長官は直ちにナルイシキン対外情報庁長官に電話をして、アメリカは無関係であることを伝えました。
米ロ間の非公式接触に参加しているロシアのスースロフ高等経済学院教授は「仮定の話だが、もしもアメリカがロシアの内乱に関与すれば米ロの直接衝突の原因になりかねなかった」として次のようにのべました。
「バーンズとナルイシキンのチャンネルは米ロのエスカレーションを避ける意味で非常に重要だった」
米ロのチャンネルが厳しい対立にもかかわらず、活きていることを図らずも示しました。アメリカとしても核大国ロシアが内乱のような混乱に陥ることは望んではいないのです。
▽プリゴジンの乱後の社会と軍の動揺に対して、プーチン大統領はどのように対応しようとしているのでしょうか
プリゴジンの乱は、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長ら軍の主流派と現場の将校らの支持の強い反主流派の対立の中で“君側の奸”の主流派に軍事侵攻失敗の責任があるとして更迭すべきだという“正義”を皇帝プーチンに訴えるという形を取っています。
「この戦争に大義はない、ずさんな作戦指揮で多くの将兵が無駄死にしている」というプリゴジンの訴えには真実があるとロシア社会と軍の一部は考えました。
プリゴジンの乱への一定の支持は、ロシア社会の中で“正義や公正”を権力に求める欲求が強まっていることをしめしています。
「正義と公正」といえば美しい言葉に聞こえますが、“プリゴジン的な正義”への一定の支持はウクライナへの軍事侵攻が行き詰まる中で、ロシア社会の中にたまる行き場のない鬱屈した気分や怒りなどが“プリゴジンの乱”をはけ口として噴き出しているようにも見えて、私は非常に危険な側面があると感じています。
プーチン大統領は事件後、公的な活動を活発化させ、国民と対話する姿勢を強調しています。国民の不満や不安を取り除こうとして、事実上の大統領選挙に向けたキャンペーンが始まっています。
ただクレムリン周辺では、社会は大統領を中心に結束し安定は揺らいでいないと強調しつつも、プリゴジンの乱で明らかになった正義、公正を求める社会の欲求に大統領は答える必要があるとしています。
ムーヒン政治情報センター所長「この正義、公正を求める欲求は台風のようなものだ。この秋には反汚職キャンペーンを始める必要があるだろう」
ロシアにとっては“正義”、“公正”という大義は重要でプーチン大統領も「正義は我々にある」と述べて戦争に踏み切りました。正義、公正さ、ロシア語ではすべてプラウダ(真実)という言葉から派生する言葉なのです。これだけ汚い戦争を行っていてどこに正義があり、どこに公正があるのかと私は思います。この正義と公正を求める世論がプーチン大統領に影響を与え始めているのです。
▽「正義」や「公正」を求める社会の欲求、一方では戦争の大義への疑念を広め、戦争反対の世論を広める可能性もあるでしょう。しかしその欲求は、戦争を止める方向ではなく、プーチン政権をさらに強硬な手段で戦場での勝利と対決の道に歩ませる恐れがあります。残念ながら私は危険な方向に向かう可能性のほうが強いように思います。
“プリゴジンの乱”の非常に危険な側面は、ロシアの正義を旗印とした愛国的な層の意見を反映していることです。
事実乱の後、ウクライナからの穀物輸出の合意の効力を停止、プーチン政権はますます強硬な手段で戦争遂行を続ける泥沼に向かっているように思います。
行き場のない正義と公正を求めるロシア社会の欲求が、プーチン政権をどこに導こうとしているのか、注視する必要がありそうです。
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