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2024年5月9日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/325895?rct=national
開催まで1年を切った大阪・関西万博の防災計画がまだ整っていない。会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)は交通手段が限られる。万が一、開催期間中に南海トラフ地震などに見舞われたらどうなるのか。夏までには具体的な計画を作るというが、本当に安全は確保できるのか。(宮畑譲)
◆液状化や津波の被害は?
日本国際博覧会協会が昨年末に発表した防災基本計画(初版)によると、自衛の消防体制を敷き、常駐の医療従事者を確保するが、具体的な避難計画は別途定めるという。今年4月に大阪府の吉村洋文知事が「具体的な計画を夏までに作りたい」と話したように、現段階では具体的な防災計画は完成していない。
協会が発表した防災基本計画は、南海トラフ地震が発生した際、会場の予想最大震度は6弱と見立てる。懸念するのが液状化や津波による被害だが、粘土質のしゅんせつ土砂で埋め立てるなどの対策で、「会場の大部分は液状化が起こらない」とする。津波も予想の5.4メートルを超える11メートルのかさ上げをしているため、「浸水被害は夢洲周辺部に限られる」と結論付ける。
◆会場は埋め立て地、被害想定は難しく
しかし、基本計画を読んだ防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏は「埋め立て地で怖いのは、どんな被害が現れるのか、ボーリング調査などで調べてみないとなかなか分からないところ。津波にしても、常に想定外の顔を見せる」と話し、被害想定や対策の難しさを指摘する。
住民らが府に意見を寄せる「府民の声」には基本計画発表後、南海トラフ地震でも万博会場の安全が確保されるなら「日本中の原発を大阪に集めて何十基も建てればいい」といった突っ込みもあった。
夢洲には他のリスクも潜む。大阪湾に浮かぶ立地のため、地震などで交通アクセスが遮断され、孤立する危険性がある。
◆同じ海の上…関西空港は台風で孤立
行き来できるのは北側の橋、東側にあるトンネル、そして地下鉄のみ。いずれも一定の震度や風速になると通行止めや運休を余儀なくされかねない。
夢洲と同じように大阪湾にある関西空港もかつて苦難に直面した。2018年9月には、近畿地方に大きな被害をもたらした台風21号の影響で、空港島の連絡橋にタンカーが衝突。道路と鉄道が寸断され、一時は空港島に最大約8000人が取り残された。恒久施設である空港と違い、仮設の万博会場には、多くの人が雨露をしのぐ設備はない。
万博は1日最大約23万人の来場者を見込む。協会は帰宅困難者が最大で約15万人発生することを想定し、場内に数日程度とどまれるように水や食料などを備蓄することも検討している。
◆「起きないことを祈るしかない」
広報担当者は取材に「パビリオン内や協会の催事施設の屋根の下などで過ごすなど、一時的に滞留できるよう計画を進める。(防災計画の)具体化を引き続き続けていく」と話す。
しかし、先の渡辺氏は海に囲まれた夢洲において、万全な防災計画の策定には困難が伴うと言う。
「万博開催中、会場にはちょっとした自治体クラスの人口が集まる。外からの救援は難しく、ぞっとするような被害想定になる。そんなリスクに備えた防災計画を作ることは現実的には難しい。巨大地震が起きないことを祈るしかない」
万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、サブテーマは「いのちを救う」だ。大阪市内在住で帝塚山学院大の薬師院仁志教授(社会学)はこう皮肉る。「計画時点から『ここでやるのか』と防災の観点で批判はあった。大阪には他に防災工事をするべき場所がたくさんある。住んでいる人の防災を後回しにして万博をやるのか。これでは誰の命も輝かない」
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