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2024年5月27日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/329587?rct=tokuhou
地方自治法改正案だけじゃない―。「有事」の際の感染症対応で司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁」がまとめた政府行動計画の改定案に危うさが漂う。「危機」に乗じて国の権限を強化し、国民の自由を縛りかねない内容が盛り込まれているからだ。国民の危機感も根強く、パブリックコメントは延べ19万件もの意見が集まった。改めて問題点を振り返りたい。(木原育子)
◆GW中にパブコメ募集「国民の議論がよほど困るのか」
「有識者の推進会議は議論するふりで、最初から改定案は出来上がっていたのでは…と勘繰りたくなるほどだ。現場の叫びが全く反映されていない」。元大学教授の千田忠さん(81)=札幌市=が憤慨した。
千田さんは、2020年2月に新型コロナの集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者。当時の対応の検証を求めている「全国連絡会」の共同代表だ。
千田さんが特に啞然(あぜん)としたのがパブリックコメントだ。募集期間はゴールデンウイーク中の14日間で、土日祝日を除けばわずか7日間。推進会議の喫緊の議事録も公開されない中、改定案は200ページを超える。「国民に議論してもらうのがよほど困る内容なのか。あまりにひどい」と訴えた。
統括庁は首相と官房長官の直轄組織。元警察庁長官、元国税庁長官、現職の厚生労働省医系技官トップの構成で昨年9月に発足した。
当の統括庁はどう考えているのか。同庁の唐戸直樹・企画官は「パブコメは省庁などが行政上の命令などを制定・改正する際に実施するが、今回の改定案は『命令等』に該当せず、あくまで感染症対策の選択肢を整備するもの。ただ、国民の関心も高いので、あくまで任意で実施した」。今後起き得るパンデミックの際の「重要な基本的対処方針」との位置付けなのに、国民は関われない立て付けだった。
◆地方自治法だけじゃない「国の権限を強化するものばかり」
だが、改定案の内容は国民の行動に直結する。NPO法人「医療ガバナンス研究所」の上昌広理事長は「国の権限を強化するものばかりだ」と指摘する。
例えば改定案では、「感染症有事に際して迅速に対処」などと、あくまで政府が「危機」であるか否かを判断する。情報の扱いも「国民等が正しい情報を円滑に入手できるように」「誤情報の拡散状況のモニタリングを行う」とした。
上氏は「何が正しく、何が偽情報かを国側が判断するのは言論統制につながる非常に慎重さを伴うもの。国の主権を強化するほど、合理的ではなくなるのがこの国なのに…」。
◆政府に都合のいい学者を重用するだけでいいのか
改定案は来年4月に設立される、米疾病対策センター(CDC)をモデルにした専門家集団の「国立健康危機管理研究機構」との連携強化もうたう。これについても上氏は「コロナ禍当初、日本の専門家は現状をつかめず、主権を手放すように世界保健機関(WHO)にただ従い、世界で最も影響が長期化した。政府に都合のいい学者を重用するだけで本当に機能するのか」と懐疑的だ。
こうした危機感は市民レベルでも強く、パブリックコメントは短期間にもかかわらず、統括庁によると、延べ19万件の意見があった。当初は5月下旬に改定案をまとめ、6月の閣議決定を目指したが、「意見を精査中で、今後の予定は言えない」(統括庁)という事態に陥っている。
東京大の金井利之教授(自治体行政学)は「国は偽・誤情報の拡散を監視し、科学的に正しいワンボイスを提供するという。確かにデマは有害だが、危機の際は何が正しいかすぐには判明しない。国も間違えるかもしれない可能性を踏まえていない危うさがある」と指摘。地方自治法改正案も、国が正しいという前提に過信がある。「危機のときこそセカンドオピニオンが大切だ。改定案は戦時下の大本営発表を再現しかねない」と疑問を投げかける。
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