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1回のPCR検査陽性で全員隔離は正しかったのか…京大医生物学研究所准教授に聞くA
https://hc.nikkan-gendai.com/articles/278894
2023年03月30日 日刊ゲンダイ
国は最後まで感度の高いPCR検査にこだわり続けてきたが…(C)日刊ゲンダイ
35年以上、動物ウイルスを研究し続けてきた学者の立場から、新型コロナウイルス感染症の流行初期からその性質と対策について持論を発信し続けている京都大学医生物学研究所の宮沢孝幸准教授。一部の人がコロナ禍で感じてきた「新型コロナは少し騒ぎ過ぎではないのか」という思いを、科学的に説明し続けたことでも知られている。その宮沢准教授が最近出版した「ウイルス学者の絶望」(宝島社新書)が話題だ。その中でも述べている通り、宮沢氏は抗原・PCR検査への無理解が騒ぎを大きくしたのではないか、と言う。
「ウイルスに対する無知が新型コロナ騒動を大きくした原因ですが、中でも問題だったのは、抗原検査やPCR検査といった検査のことを国民に理解させないまま、1回の検査で判断して陽性者を全員隔離したことです」
新型コロナウイルスの検査には抗原検査とPCR検査がある。前者はウイルスのRNAに結合しているNタンパク質を直接検出する。一方、後者はNタンパク質の設計図が書いてあるmRNAウイルスを調べる。
「どちらもウイルスのNタンパク質を直接あるいは間接的に検出することでウイルスの存在を証明しようとしているのですが、問題はそれが感染性のある生きたウイルスの存在証明には必ずしもならないことです。抗原検査は、他の病原体などに反応してしまうことがあり、PCRはコンタミネーションによる偽陽性がつきものです。また相当数のウイルス粒子がないと感染性を有しません。感染によって粘膜面で抗体が出来ていれば、ウイルス粒子は抗体に包まれて感染性を失います。にもかかわらず、1回のPCR検査で陽性となれば全員隔離して社会を混乱に陥れた。ウイルス研究者はこうしたウイルス検査の危険性を知っています。現場の声を知ってか知らずか、当時、上に立って指示する人たちがその認識がなかったことは残念でたまりません」
宮沢氏によれば、感染拡大を抑える目的であれば、検査は抗原検査で十分だったと言う。ところが、国は最後まで感度の高いPCR検査にこだわり続けてきたかのように見えると言う。
「一人の感染者も見逃さない、ゼロコロナの思想がそこにあったのかもしれません。新型コロナウイルスを過度に怖がる必要はなかった」
■「ゼロウイルス」政策に疑問
病原性のある新興ウイルスの発生は偶然の産物。変異や別のウイルスとの遺伝子の組み換えが生じると、人に感染するようになることがある。それも多くは免疫により排除されるが、ごく一部で「増殖性」と「病原性」を兼ね備えていることで新興のウイルス感染症になるに過ぎない。新興ウイルスの中でも急性呼吸器感染症は時間が経つにつれて弱毒化していくことがほとんどだ。
「動物ウイルスの研究から、コロナウイルスは1個のウイルスで1個の細胞を感染させるわけでなく、少なくとも1000個から1万個のウイルスを浴びなければ、感染することは難しい。新型コロナウイルスの主な感染経路はエアロゾルと呼ばれる、微小飛沫粒子(直径5マイクロメートル以下)ですが、計算上、微小飛沫のほとんどはウイルスを含んでいません。つまり、1万個のウイルスを吸い込むにはかなりの微小飛沫を吸い込まなければなりません。ですから、私は吸い込むウイルス量を100分の1にする対策だけで十分であり、ゼロウイルスのようなやり方は日本の経済を含めて人をも壊してしまいかねない、と言い続けてきたのです」
また、ウイルスの感染性を調べるには偽のウイルス粒子を作るなどして、特殊な設備や特殊な技能を用いた、手間と時間のかかる感染性の試験を行う必要がある。それなのにテレビなどで「感染力がどんどん上がっている」との話が出てくる。これにも宮沢氏は愕然としたと言う。
「その根拠は感染が広まったからウイルスの感染力が強まったということのようですが、その事実をもってウイルスの感染力が上がったと言ってよいのでしょうか? 病原性が低くなれば、人は外出して感染機会が増えるなど感染拡大にはさまざまな要素が絡んでくると思います。ウイルスの感染力の強弱だけが感染拡大の理由ではないでしょう。なのに従来のコロナウイルスも感染力が増して、どんどん凶悪になるというのはどうなのでしょうか」
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