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「日本は世界中の投資家たちから今後も見捨てられ続ける」―ジム・ロジャーズ
日本は高インフレで没落する 日本国の競争力が低下する中で、どう行動するか
https://toyokeizai.net/articles/-/655244
東洋経済2023/03/02号
日本は世界中の投資家たちから今後も見捨てられ続ける」――著名投資家のジム・ロジャーズ氏はこう語る。
同氏が見抜いた恐怖のシナリオとは? 最新著書『捨てられる日本』より、同氏を取材したファイナンシャルプランナーの花輪陽子氏が紹介する。
シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。
コロナ禍は峠を越えたものの、ウクライナ侵攻の影響などが残り、世界はなおインフレに苦しめられています。IMF(国際通貨基金)によれば、昨年の消費者物価の平均上昇率はアメリカでは約8.1%、私のいるシンガポールでも約5.5%でした。例えば私が住むシンガポールでも、家賃が一気に20%超上がった物件も珍しくありません。
日本のインフレは今のところ収まる気配がない
他の先進国では中央銀行が金利を引き上げたり、保有する資産を圧縮するなど、インフレを抑えようと必死です。そんな中、日本では昨年末に実質的な利上げはあったものの、依然として金融緩和が続けられており、円安とインフレは収まる気配が見えません。
帝国データバンクの調査によると、昨年、日本で値上げされた飲料や食料品は主要メーカーだけでも2万品目以上と、過去30年で前例のない多さとなりました。もちろん今年も値上げは進行中です。すでにポテトチップスなどは昨年から3回目の値上げとなっています。また光熱費も高騰しています。例えば東京電力は、家庭の多くが契約する規制電力料金について、6月以降3割程度値上げする申請をしています。
そんな中、2018年から親交を重ねている世界的投資家のジム・ロジャーズ氏に昨年から数カ月取材を行い、『捨てられる日本 世界3大投資家が見通す戦慄の未来』 (SB新書) にまとめました。
この本では、「日本が抱えている構造的な問題」と「日本人が厳しい時代を生き抜くサバイバル術」に焦点を絞りました。日本経済は「インフレ」や「円安」などで厳しくなるばかりですが、そんな中で「個人がどのように対処し、富を築いて成功するか」という知恵がぎっしり詰まっています。
今回は、この本から「インフレの行方」に絞ってお伝えします。
ロジャーズ氏に先日、日本も含めたインフレの行方について聞いたところ、同氏は次のように述べていました。皆さんの疑問に沿った形でお伝えしたいと思います。
世界経済はスタグフレーションへ
「日本の物価は、コロナ禍の影響がまだ残っており、ロシアによるウクライナ侵攻、さらには近頃の円安傾向によって、急速に上昇している」
同氏は続けます。「中央銀行の関係者は常套句として『国の経済を成長させるためには、多少のインフレは必要だ』などというが、本当に正しいだろうか。例えば原油の産出国にとっては、インフレがもたらす価格上昇は歓迎すべきものだ。だが、日本人を含め、大半の人々にとってはよくないことだ」。
「41年ぶりの物価高騰」といった言葉が使われますが、1970年代〜1980年代前半には2度のオイルショックに見舞われたこともあり、世界中で厳しいインフレが続きました。今回もインフレは継続するのでしょうか。ロジャーズ氏は断言します。
「1970年代以降、中央銀行は高いインフレを抑え込むために合計で20%以上も金利を引き上げる必要があった。今回、アメリカは利上げを継続しているが、まだインフレを抑え込むのには十分ではないだろう。インフレ率は昨年と比べると鈍化しているように見えるが、途中で浮き沈みがあることは普通だ」
確かに、アメリカは金融引き締めを継続中です。しかし、そうすると景気が悪化していき、インフレも少し落ち着きそうなものです。しかし、ロジャーズ氏は言います。
「経済が減速し始めると、政府は再度お金を刷る可能性が高い。それは結局、長期的に状況を悪化させる。日本を含む多くの国ではインフレを抑えることができず、世界経済を停滞させ、スタグフレーション(景気が悪化する中でのインフレ)を起こすだろう。リーマンショック後から2021年までの約13年間は、金融緩和で記録的な低金利が続き、世界経済は好調だった。それは歴史的にはまれなことで、長くは続かない」
しかも、ロジャーズ氏は「どの国の政府もインフレについては真実を語っていない。インフレ率は政府公表よりもずっと高い可能性もある」と訝ります。
確かに日本の1月の消費者物価指数は前年同月比で4.2%上昇しましたが、皆さんの実感はそれ以上のはずです。日本がこのまま金融緩和政策を続ければ円安が続きそうです。これに対して、アメリカなどでは金利を引き上げ、輸入インフレをなんとか抑え込もうと躍起です。これには通貨が強いことに越したことはありません。
ロジャーズ氏は指摘します。
「昨年のロシアによるウクライナ侵攻で、多くの国々が食料安全保障の重要性を再認識した。とりわけ日本は食料やエネルギーの自給率が低いことに加え、急激な円安なども重なり、それを痛感しているはずだ」
アメリカではレストランのパート従業員の年収が1000万円前後になる場合もあるとも聞きます。シンガポールもそこまでではないものの、似たような状況です。つまり、多くの先進国では物価も給与も上がっていますが、日本では一部の大企業などを除いて、なかなか賃金が上がりません。こうした事態をロジャーズ氏はどう見ているのでしょうか。
「食料やエネルギーは海外価格に影響されやすい。たとえばシカゴで銅の価格が上がれば、東京を含めた世界各地でも上昇する。だが賃金は違う。日本はアメリカやシンガポールに比べ、移民の受け入れに対して消極的だ。海外の優れた人材を迎え入れるために高額な給料を支払うという習慣もあまりない。だから企業は賃金を上げなくても、問題視されないのだ」
日本にとどまらず、海外に向け一歩を踏み出すとき
すでに、アジアを中心とした高度な技能を持つ人材が日本を捨てて久しいと聞きます。日本よりもっと高い給料を提示する国が多いからです。最近、ファーストリテイリングなどがようやく大規模な報酬改定に乗り出しましたが、人材が確保できない日本企業は国際競争力の低下を招くだけでしょう。
「日本には外資系企業に転職する人が、それほど多くはない。国内だけで転職を完結することが一般的だ。このように人材の流動性が低く、企業側もそれを理解している。日本はこうした状況を変えていく必要がある」
一方、ロジャーズ氏は、現状を逆手にとって、安い賃金を武器に日本人が海外に出稼ぎにいくことだって十分に考えられるとも言います。確かに最近は寿司職人などが外国企業に行けば、若くして年収1000万円を手にするのも珍しくありません。
もし「いきなり海外の会社に就職をするのはハードルが高い」と感じたら、まずは日本国内の外資系企業に転職をしたり、日本企業の社内公募で海外と関係のある仕事に手を上げてみるのも手でしょう。
住む国と働く先の両方をいきなり変えることは大きな変化ですが、まずひとつだけならなんとかなる可能性も高いからです。日本ではコロナ禍が残り、内向きなままの人も多い中、他の人と違う行動をすれば優位性が増すはずです。
次回は厳しい経済環境の中、どのようにして日本人が資産を防衛するかをお伝えする予定です。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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