<■105行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> AIに仕事が奪われる? 働く者たちの未来はどこへ 創作活動もデータ合成で…その対価は(東京新聞) 2023年5月13日 12時00分https://www.tokyo-np.co.jp/article/249633 生成AI(人工知能)の爆発的な進化で、仕事が奪われる懸念がささやかれている。単純作業にとどまらず、芸術分野や高収入の仕事に及ぶという見方もあるのが特徴だ。人口減少を補う労働力として政財界は推進に前のめりだが、働き手の未来はどうなるのか。(西田直晃、大杉はるか、山田祐一郎) 【関連記事】ChatGPTに潜む脅威 AIで世論操作は可能か?「はい、可能です」と即答 ◆どんな演技も技術的には合成可能 「AIに表現の技術を奪われると、不安定労働が加速してしまう」 8日の日本芸能従事者協会(会員5万2000人)の記者会見で、森崎めぐみ代表理事はこう懸念を示した。「AI音声による文学作品の朗読が商品化され、表現者としての矜持きょうじを問われている」(声優)、「危険だからAIに代用させるとなると、技術の継承ができない」(スタントマン)といった会員の声を紹介した。 協会によると、技術的にはすでに、声優や俳優の演技を数時間〜数日の収録や撮影でデータ化し、あらゆる年代、性別に合成することが可能。AIが顔や声質を合成し、架空の役者だけ登場する作品さえ世に出せる。森崎氏は「放置すれば、表現者の仕事がなくなる。韓国などでは芸能関係者の権利を保護する動きもあるが、現状の日本のAI戦略は不十分」と嘆く。 放送局でも、NHKが2018年以降、「多彩な演出と効率化」のため、ニュースなどで自動アナウンスを導入。人員削減につながるか尋ねたが、広報局は「将来的な番組制作や人員配置の方針は答えられない」とのことだった。 先月下旬には、イラストレーターや漫画家でつくる「クリエイターとAIの未来を考える会」も著作権制度整備を求め会見。文章による指示で自動的に新たな画像を創造する「画像生成AI」を使用する際、学習した画像を明示し、著作者への連絡や著作権料の支払いをするよう求めている。 ◆国内外で広がる危機感 「背景には、AI規制が緩い『データ天国』のような日本の現状がある」と語るのは、城西大の塚越健司助教(情報社会学)。実際、現行の著作権法ではどんな著作物でも、ほとんどの場合AIの学習自体は合法だ。「欧州諸国には著作権者の求めに応じ、AIの学習から除外できる『オプトアウト』という仕組みがあるが、日本にはない」 クリエーターは仕事が減っても、泣き寝入りするしかないのか。塚越氏は「生成AIが、何かを作る際には必ず指示を出す主体がいる。何らかの権利侵害が起きた場合、創作に寄与した人物は著作権法違反に問われる可能性がある」と述べる。 ただ、それだけで仕事を守るのは「厳しい」とも。「そもそも何をもってパクリと判断するかが難しい。誰でも知っている名作ならまだしも、あまり名を知られていない作品のパクリを認定するのはハードルがある」と説明する。 危機感を共有する動きは海外にも。今月上旬、労働組合の国際組織「UNIグローバルユニオン」が日本政府に対し、芸能従事者の法的保護を求める声明を発表。米ハリウッドでは全米脚本家組合(WGA)がストライキを決行し、「AIの原作への不関与」を要求項目の一つに挙げた。 芸能関係者の権利擁護に取り組む佐藤大和弁護士は「今後、ドラマや歌、アニメも自動で生成される可能性が高い。元データの実演者やクリエーターに対価が支払われる制度が必要で、AIの創作活動の規定を盛り込んだ新法があってもいいのでは」と訴える。 ◆AIで代替可能なら採用を停止 AIが雇用に与える影響については、特に米国で懸念が広がっている。 IT大手IBMのアービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は今月、米ブルームバーグ通信のインタビューで、AIで代替可能と考えられる職種について新規採用を一時停止する予定を明らかにした。クリシュナ氏は、人事などの事務管理部門で顧客に接しない業務にかかわる従業員約2万6000人のうち、「今後5年で、30%がAIや自動化に取って代わられる」とした。 共同通信によると、AI研究の第一人者でグーグル副社長を務めたジェフリー・ヒントン氏が米紙ニューヨーク・タイムズに「生成AIが奪う仕事は単純作業にとどまらないかもしれない」と語った。チャットGPT開発企業の研究者らは3月、影響が米国の労働者の80%に及び、高収入の仕事ほど影響が大きいと予測する論文を発表している。 ◆ChatGPTの登場で急変 日本では2015年に野村総合研究所が「10〜20年後、国内の労働人口の49%がAIやロボットなどで代替可能になる」と推計。ただこのときは、代替可能性が高い職業として事務や受付、データ入力などが挙げられ、映画監督やケアマネジャー、アーティスト、タレントなどが取って代わられる可能性は低いと考えられていた。 「チャットGPTの登場で急激に状況が変化した」と指摘するのは、AIと雇用について研究する中央学院大の小林和馬准教授(情報通信政策)。「言語や画像、映像までも生成できるAIの技術が一般の人でも扱えるところまでハードルが下がったことが大きい。ほぼ全領域の職種で、職が奪われるというほどではないが、一定の影響を与えることになる」 人間ができる仕事は何が残るのか。神戸大の大内伸哉教授(労働法)は「見通すことが難しくなっている」と話す。米国での動きについて「解雇の自由度が高く、大規模なリストラというわかりやすい形で出てきている」と説明。日本では、解雇は判例や法律によって制限されてきたが、「本質的には日本でも同じ。会社側が余剰人員だと判断すれば、必要な手続きを踏んだ上でリストラに踏み切る可能性は否定できない」と指摘する。 ◆活用に前のめりな岸田政権だが… そんな中、岸田文雄首相は、4月の「新しい資本主義実現会議」で、生成AIについて「人手不足への対応などの労働生産性の向上が期待される」と述べるなど利活用に前のめりだ。今月11日の「AI戦略会議」では「ポテンシャルの最大化とリスクへの対応」を指示。大内氏は、ここで言うリスクはプライバシーやフェイクニュースなど適正利用への懸念であり、「雇用面についての影響が考慮されているのか疑問だ」と危ぶむ。 労働者側の危機感はどうか。日本労働弁護団常任幹事の棗一郎弁護士は「当然ある」と話す。コロナ禍を経て、フードデリバリーなどAIによって仕事の割り振りが決まる「プラットフォーム労働」が拡大。フリーランスなど雇用関係によらない働き方が増える中、「労働者を守るための規制がない」と訴える。 ただ、大企業などの労働組合で警戒する声は広がっていない。そもそも労働人口の減少が顕著な日本では、AIが雇用を奪うことへの法的規制を求める動きが少ないという。 前出の小林氏は指摘する。「政府は生成AIの利活用で、世界でリーダーシップをとりたいと考えており、企業も次々と導入を表明している。一方で労働者を守る仕組みがまだまだ不十分。新しい技術によって活躍できる場が広がる可能性があるが、法制度だけでなく実際の労働環境が整っていなければ意味がない」 ◆デスクメモ AI開発で先行し、偽情報やサイバー攻撃のリスク対策も進める欧米に追いつこうと、必死の日本政府。だがブレーキもハンドルも整備不良のスポーツ車でアクセルを踏み続けるようで、危なくて仕方ない。「走る、曲がる、止まる」の基本がそろわないと、結局速く走れないのでは。(本)
|