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ロシア・トルコ関係:もはや拘束力を失った「不可分の安全保障」原則
リチャード・ヒューバート・バートン
2023年7月20日
Strategic Culture Foundation
一部のトルコ専門家が「取り引き関係」または「東バザール精神」と呼ぶものをトルコは示しているようだ。
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ビリニュスで開催され、ロシア・テレビで多く報じられた最新のNATOサミットを鮮明に覚えている。毎日ニュースを見たおかげで、欧米政治家、軍関係者、外交官の巨大な集まりを私は瞬時に視覚化できる。
あの大集団の中で、絶えず憂鬱そうに歩いていたエルドアン大統領を簡単に見つけられる。彼は休みなしで、いつものようにヘッドスカーフをかぶった妻が後に続いた。他で余り目立たないが、暗闇と孤立に圧倒されていたのはゼレンスキーだけだった。これは全て予見可能な将来NATO加盟を認められなかったためだ。実際、彼はイギリス国防相ベン・ウォレスに対し、不当に無礼だったため、「イギリスを含む同盟諸国を、まるであ欲しい兵器リストを持って出掛けるアマゾン倉庫のように扱う習慣があった」と述べウォレスは彼を短く叱責した。
しかし、エルドアン大統領は何をしていたのだろう? NATOビリニュスサミット前に、イスタンブールでのウクライナ大統領との共同記者会見でエルドアンが露骨にこう語ったのは注目に値する。「ウクライナがNATO加盟に値するのは確実だ」。
ビリニュス・サミットでのエルドアンの活動と会談は本質的に安全保障と経済問題を反映していた。彼はアメリカのF16戦闘機購入を想定していただけでなく、スウェーデンのNATO加盟承認と引き換えに、15年もの年月を待った後、欧州連合加盟国として受け入れられることも話した。この全て、一部のスウェーデン人がコーランをこれ見よがしに燃やしたにもかかわらずだ。
NATO資格を得るのとEU資格を得るのは全く別物で、あなた方が私のEU加盟のを認めれば、私はスウェーデンのNATO加盟を認めるという様な交換条件を適用するような問題ではないとエルドアンに説明するためNATOとEU当局者は精力的に努力した。厳密には、NATOスポークスマンが次の発言をしていた。
NATOとEUの拡大は「別の過程」だ。各候補国の加盟過程は各国の利点に基づく。この二つの過程を結びつけることはできない。
これは一部トルコ専門家が「取り引き関係」または「東方バザール思考」と呼ぶものの一例だったに違いない。
重要なのは、ウクライナがNATOに加盟し、スウェーデンのNATO加盟を認めるエルドアンに欠けていたのは、それがロシアなど他の国々の安全保障にどう影響するかということだった。なぜ彼はプーチンの「不可分な安全保障」の必須条件の原則を無視したのだろう? この原則は、1975年ヘルシンキ法で最初に使用されたが、1990年の新ヨーロッパ憲章や1997年のFounding Act on Mutual Relations, Cooperation and Securityにも登場した。これら全ての条約は欧米とロシア連邦にによって署名されたことに留意するのは重要だ。そのような原則は、トルコだけでなく他の全てのNATO諸国にとっても余り意味がないようだ。
そのような発言に対する欧米の反応は何だろう? おそらく欧米は不可分な安全保障の一種を推進する二つの(OSCE)文書、1999年11月にイスタンブールで署名された欧州安全保障憲章と2010年12月のアスタナ宣言を参照するだろう。アメリカは両文書に署名している。イスタンブール憲章は、各国は独自の安全保障の取り決めと同盟を、自由に選択できるべきだと述べているが、それは彼らが現在の宣言で故意に省略しているが、安全保障の取り決めを選択する際、各国は「他国の安全を犠牲にして安全保障を強化することはしない」と補足している。エルドアンやNATOの同僚連中はNATOブロックへのウクライナとスウェーデン加盟はロシアの安全を犠牲にしないと主張するのだろうか? もしそうなら、連中の主張を、正しい感覚をもった彼/彼女の一体誰が、穏やかに言って、信頼できると受け入れるだろう?
NATO拡大へのトルコ参加は、最近ロシア連邦に対し示された唯一の敵対行為ではない。たとえば、2022年2月以降、トルコは特別軍事作戦をしているロシア軍に対し使用される無人戦闘航空機(UCAV)バイラクタルTB2ドローン工場建設をウクライナで進めている。更にBaykar社は既にそれらのいくつかをウクライナに売却しているだけでなく、ウクライナでのトルコUCAVのための共同訓練および保守センター設立も約束した。
別の例で、つい最近、ロシアとの合意に反し、アゾフスタリ司令官連中を解放し、ゼレンスキーの人気低下を穴埋めするため、彼と一緒にウクライナに戻るのをトルコは可能にした。当初の合意によると、彼らはウクライナでの軍事紛争終結後に解放されることになっていた。あたかも、それでは十分ではないかのように、エルドアンは彼の危険な決定についてロシアに相談も通知もせずに、意図的に無礼を働いた。
ロシアとトルコの関係:簡単な軍事的概要
2017年、ロシアによるトルコへのS-400移動式地対空ミサイルシステム販売は欧米で大騒動を引き起こし、当時のトランプ大統領にトルコを制裁するよう促したにもかかわらず、両国(ロシアとトルコ)の反対の権益や側面や事業を示す相当な数の国際的な動きを列挙できる。そもそも2015年、トルコはシリアに向かう途中のロシア戦闘機を撃墜した。それは一時的外交凍結につながった。シリアではトルコとロシアは、秘密裏とは言え、外国傭兵を配備し、公然と軍隊や軍事装備を配備し、敵対する側を支持している。リビアはその種のもう一つの例だ。
しかし2020年のアルメニア・アゼルバイジャン紛争は、ある程度詳細に検討する必要がある。結局それはトルコとロシアそれぞれの支持者間の単なる代理戦争ではなく、おそらく彼らの間で直接軍事衝突になる可能性があったのだ。この文脈で、第一次世界大戦中最大150万人が殺された大量虐殺行為だというアルメニアの主張をトルコが否定していることを想起すべきだ。エルドアン大統領はアルメニア人犠牲者の子孫に哀悼の意を表し、彼らの大量虐殺を「大量殺戮」と呼び、アフメト・ダウトオール外相は1915-16年の出来事を「過ち」と呼んだ。ロシアはジェノサイドという言葉に固執している国の一つだ。
トルコの緊密な同盟国アゼルバイジャンはロシアの圧力の下、ナゴルノ・カラバフに関しアルメニアと合意すると約束しているにもかかわらず、時折アルメニアとアルメニア人に対し、公式に制裁されている大量虐殺の恫喝をすることがある。2005年、訪問中のドイツ代表団に語ったバクー市長ハジバラ・アブタリボフの声明に衝撃を受けない人がいるだろうか。
我々の目標はアルメニア人を完全に排除することだ。あなた方ナチスは、既に1930年代と1940年代にユダヤ人を排除した。あなた方は我々を理解できるはずだ。
また15年後、カラバフFKサッカークラブのヌラン・イブラヒモフの声明は次のように書かれていた。
我々は全てのアルメニア人、子供、女性、高齢者を殺さなければならない。無差別に殺す必要がある。後悔はない。思いやりはない。
イスラエルとアゼルバイジャン間の新しい合意に照らすと、アルメニアとアゼルバイジャン間の敵対行為は新次元のものとなる可能性がある。簡単に言えば、イスラエルがイランの核計画拠点を軍事的に攻撃すると決めた場合、アゼルバイジャンのエネルギーとアゼルバイジャン飛行場利用の引き換えに、アゼルバイジャンは5億ドル相当のイスラエル兵器と爆弾を入手したのだ。2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でイスラエル・ドローンはアゼルバイジャン勝利に役立ったことに注意する必要がある。
そのような秘密協定は、イランやアゼルバイジャンの緊密な同盟国トルコだけでなく、地域全体や、おそらくアルメニアにとっても壊滅的結果をもたらす可能性がある戦争に巻き込む大きな可能性を秘めている。アルメニア領土侵略の場合、紛争はアルメニアと防衛協定を結んでいるロシア連邦を無傷のままにすることはない。
トルコはロシアと欧米の唯一の接点のようだ
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が2022年6月、セルビアへの飛行を阻止されたのを我々全員覚えている。結局のところ、ラブロフはニコラ・セラコビッチ外相とセルビア正教会総主教ポルフィリエに会う予定だったが、モンテネグロ、北マケドニア、ブルガリアなどのNATO加盟諸国は彼の飛行機に対して空域を閉鎖した。飛行禁止を考え出したかどでラブロフはNATOを非難した。
おそらく、セルビア訪問が失敗した後のラブロフ自身のオンライン発言ほど、この地域の一般的な地政学的状況を良く説明しているものはない。
「考えられないことが起きた。主権国家が外交政策を実施する権利を奪われたのだ。ロシアの路線に沿ったセルビアの国際活動は阻止されている。欧米の観点からは、セルビアはパートナーを選ぶ際、いかなる選択の余地も、いかなる自由もないのだ。欧米は、圧力をかけるため、あらゆる基本手段を使用することをはっきりと示している。」
それとは対照的に、欧米制裁とは相反して、ラブロフだけでなく何百万人ものロシア市民がトルコ旅行を許されている。昨年の公式データによると、5万人のロシア人観光客がトルコを訪れた。トルコ当局は、2023年末までにロシアから約6万人の観光客が同国を訪れると予想している。トルコ経済が不調なため、これは国際収支と失業緩和という点で大きな後押しだ。トルコは経済的利益を得ており、ロシア観光客は日当たりの良い地中海沿岸で余暇を享受している。ウクライナでの紛争がすぐ終結したとしても、この交換様式が損なわれる可能性は低い。
観光や、穀物取り引きや、アックユ発電所、トルコがガスハブになるかどうかに関係なく、欧米の経済制裁を無視していると欧米が非難した際、エルドアン大統領は何を言うべきか知っている。彼の説明は、彼の文化的背景の一部、永続的自家製哲学の一部だと言える。彼の主張には明白な論理がある。彼自身の言葉で全てを正当化してみよう。「ロシア・ガスなしで国民を凍えさせるわけには行かないので、トルコ当局は対ロシア制裁に参加できない。天然ガスだけ取っても、使用する天然ガスの約半分はロシアから来ている。それに加えて我々はロシアとアックユ原子力発電所を建設している。」
エルドアン首相の断固たる親ムスリム政策に沿って巨大な増加しつつある人口(8500万人+)から、ロシア天然資源、食料、技術へのトルコの依存が将来増加するばかりなのは確実だ。トルコの野党は、たとえ5年後に権力を握ったとしても、ロシアに対し大きな政策変更を導入する立場になく、その意図もない。現職のレジェップ・エルドアン大統領の主な挑戦者のトルコ大統領候補ケマル・クルチダルオールは、2023年5月に大統領選挙に勝った場合、ロシアとの友好関係を断ち切るつもりはなかったと認めた。
ロシア・トルコ関係が細心の注意を払って取り扱われるべきもう一つの理由がある。モスクワを拠点とするフリーランス政治評論家ケリム・ハスが主張するように「トルコは事実上、ロシアと欧米の唯一残るつながりなのだ」。一部ロシア企業が制裁を回避するためトルコ経由でヨーロッパとの取り引きを再開したのは明らかだ。トルコのビジネス日刊紙Dünya(ドゥーニャ)は「再輸出」メカニズムが、過去数カ月間で、トルコをロシア向け商品の忙しい輸送ハブに変えたと主張している。この方法で2022年3月から8月までに、ロシアに送付された全ての商品価値は、既に約4億ドルに達している可能性がある。
2022年8月うトルコのレジェップ・エルドアン大統領とウラジーミル・プーチン大統領がソチで会談したのは驚くことではない。両首脳は非公開でマラソン会談をした。欧米制裁回避に関する言葉はなかった。そう、その後相互に有益な協力を強化するための、いくつか賢明な方針もあった。「世界はソチ首脳会談を見ていた」とエルドアン大統領が言った際、大げさでさえあった。確かに欧米はそれを見ていた。
記事原文のurl:https://strategic-culture.org/news/2023/07/20/russo-turkish-relations-the-indivisible-security-principle-is-no-longer-binding/
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