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ウクライナ戦争、動き出す停戦へのモメンタム〜大統領選の米国はそろそろ限度、武器支援もあと攻勢1回分ぐらいの声も/現代ビジネス
河東 哲夫 によるストーリー • 金曜日
三つの根拠
「ウクライナは、西側からもらった新鋭兵器でロシア軍を領内から叩き出す。プーチンはクーデターで叩き落される」。これが今まで、西側で優勢な見方。見方と言っても希望的観測で、実際の情勢は今、戦線の膠着と暫定的停戦の方向に動き出したのではないか?
そう思う根拠は三つ。
一つはウクライナが「4月には大攻勢」とか「いやいや、5月には必ず大攻勢」と言っておきながら、実行できずに5月を過ごし、6月5日に攻勢に出たと報じられるも、成果を挙げたとは見えないこと。
もう一つは米国で停戦を求める声が増えており、7月11〜12日のNATOの首脳会議も、戦後のウクライナの安全保障に焦点を当てているように見えること。
そして三つ目に米国では大統領選が始まるので、民主党側としてはこのあたりで戦火を止めさせ、支援の拡大とその失敗が民主党候補の足を引っ張るのを防ぎたいと思うだろう、ということである。
「守る側」に回ったロシアは粘り腰
ロシア軍は昨年2月の開戦以降、ウクライナから新たに奪った地域のいくつかを、ウクライナに奪還されている。しかし残った占領地域は既に、ロシアに「併合」する国内手続きを取ってあるので、ここは死守しないといけない。
つまりロシアは、攻めるのではなく守る方に転じているのだ。守るのは攻めるのより簡単。ロシア軍は塹壕を掘り、前方に地雷原を作っている。ウクライナ軍が西側の最新の戦車を持っていると言っても、この守りは突破しにくい。
ウクライナ本土からクリミア半島への入り口は今、一本の地峡しかないが、この細い地峡は今、ロシア軍が固めている。一方、ウクライナ南部、東部からロシア軍を駆逐するには、ウクライナの現在の兵力ではとても足りまい。ウクライナ軍は全力をふりしぼって、やっとウクライナに入っているロシア軍、推定30万人以上と同等の兵力になる。
西側から「最新型の戦車」をもらったと言っても、ネジが一本外れれば西側から取り寄せねばならず、そういった戦車が何種類もあるから、訓練、メンテ、修理がとても追いつかない。それになけなしの西側戦車を(いま200両あるかないかだ)、意味のある戦力にするためには固めて使わねばならず、それはロシアにしてみれば一網打尽に破壊してしまうチャンスでもあるだろう。
リスクが高いロシア領内攻撃
つまり、ウクライナ軍は攻めあぐねる。今は「ロシアの極右勢力」とやらを抱え込んで、彼らにロシア領内を攻撃させている。多分、ロシア軍をこちらに引き付け、東・南ウクライナでの作戦を容易にしよう、あわよくばロシア領の一部を制圧させて、これからの停戦交渉で取り引き材料にしようという算段なのだろう。
しかしロシア領内への攻撃は気を付けてやらないと、ロシア国民を本気で立ち上がらせてしまうし、国境付近のベルゴロド、ブリャンスク両州には核兵器保管拠点があり、ここに危険が迫ると思えば、ロシアは何をするかわからない。
「ロシアの極右勢力」には、ロシア国内にいられなくなったスキンヘッド、ネオナチの類のならず者、2010年代からウクライナに移住してウクライナの右翼勢力と共同行動してきた、暴力とカネに飢えただけの者たちが多く、ウクライナ軍の意のままに動くとは思えない。ウクライナの右翼勢力と組んで停戦に暴力で抵抗するなど、攪乱要因となるだろう。
しかしそれも、戦線の膠着という基本的な状況を変えることはない。
「ジリ貧」は西側も
「戦線は膠着? そんなことはない。ロシアは戦車を1000両近くも破壊され、今や砲弾の生産も間に合わない。青年を動員しようとすると、みんな海外に逃げてしまう」と言いたくなる。しかし面白いことに、生産能力ではるかに勝るはずの西側が、兵器の補充テンポではロシアに敵わない。冷戦終結で軍需産業を大幅に整理してしまったからだ。
兵員も、ウクライナの青年はロシアの青年より数がはるかに少ないし、戦意に燃える若者は実はそれほど多くない。ロシアの方は、青年が動員を嫌うものの、高給で兵士、あるいは傭兵になろうとする者はいる。それに、囚人がまだ50万人以上いるだろう。傭兵会社というヌエのようなものを使って、囚人を戦場に叩き込めばいいのだ――統制できるかどうかは知らないが。
「ロシアの経済はエネルギー価格の下落と西側の制裁で崩壊寸前」と見る人も西側に多いが――筆者も似たようなことを書いてきた――、外貨(人民元を含め)の流れが途絶えたわけではない。インドや中国へは割り引き価格でエネルギー資源を売っており、それなりの収入はある。半導体を初めとする先端技術を止められたのは痛いが、中国の国産技術でも使えるものはいっぱいある。
西側では、プーチンがクーデターで追い出されると本気で思っているが、そうはなるまい。エリツィンが、ソ連を分解して自分がロシアの大統領になるという妙手を繰り出した1991年12月、という実例は確かにある。だが当時は、今のロシアの状況とは違う。1991年のロシアの国内は割れていて、大衆レベルでさえ、インテリ崩れのゴルバチョフより、ロシア的な荒っぽさを持つエリツィンに期待する向きが増えていた。今のロシアには、エリツィンに匹敵する人物がいない。
天王山=NATOヴィルニュス首脳会議
そうした中で7月11〜12日、リトアニアの首都ヴィルニュスでNATO首脳会議が開かれる。同じバルト三国のエストニアとラトビアの首都タリンとリガが中世ドイツのハンザ同盟の息吹を受けてドイツ的香りを漂わせるのに対して、ヴィルニュスは、長らく連合王国を形成していたポーランドのスラブ文化の香りを残す美しい街だ。そしてNATO首脳会議は毎年開かれる、一種のお祭り。しかし時に、ホットな時事問題にぶつかる。今年はそれがウクライナ問題で、扱いを間違えばNATOの存続に関わる。
ウクライナ戦争に決着が訪れない中で、NATOは加盟国でもないウクライナにいつまでもずるずる支援を続けるわけにはいかない。ドイツ、フランス、イタリアなどは最初から後ろ向きだし、アメリカも来年は大統領選挙なので、ウクライナ戦争が共和党・民主党の間の係争事項になって対応を捻じ曲げられることは避けたい。年内にも停戦のめどをつけておきたいことだろう。
4月中旬、アメリカのForeign Affairs誌は外交問題評議会議長リチャード・ハースと有数のロシア問題専門家チャールズ・クプチャンの連名で、停戦を呼び掛ける論文を掲載した。
これは、米国はあと一回くらいの決戦ができるほどの兵器を供与するが、それで決着がつかないことがわかったら、ウクライナはロシアと停戦交渉を始めるべきだ、2014年以前の国境を回復することは不可能だから、ロシア領内に非武装地帯を設け、境界に国連の平和維持団を派遣、NATOは並行してロシアと軍備管理、今後の欧州安全保障について話し合う、ロシアが停戦条件を真摯に守れば制裁を限定的に解除する、というものだ。外交問題評議会は米国の政策形成層の意見を集約するもの。
その議長による論文を、同評議会の機関誌格であるForeign Affairsが掲載した意味は大きい。
NATO首脳会議でウクライナへの兵器支援をどうするかについては、内々の話し合いがウクライナと行われていて、まだリークはない。おそらく米国が中距離射程のミサイルを供与する程度が関の山。財政赤字の限度額拡大を議会に認めてもらったばかりのバイデン政権が、ウクライナ支援を拡大できるはずもない。
潮目が変わる、すっきりしない決着が待っている
NATO首脳会議をめぐってメディアに出てくるのは、停戦後どうするかについての話しだけだ。「ウクライナを直ちにNATO加盟国とするわけにいかない。しかし停戦が実現すれば、NATOは数年にわたってウクライナの安全を保証する」案などがフロートされている。
つまり、ウクライナ戦争をめぐる西側の対応には、潮目の変化がうかがえるのだ。このままだと、ロシアは「2014年のクリミア占領の固定化と東ウクライナでの占領地域拡大」の線での停戦にこぎつけるかもしれない。停戦ラインを固定してしまう協定類への署名は、ウクライナ、ロシア双方ともしないだろうが、合意を発表する程度のことはするだろう。
その上で、少なくとも米国大統領選挙が終わるまでは、大きな戦闘は再開しない。トランプが大統領選で勝てば、米国はウクライナから手を大きく引くことになるだろう。ただし、ロシアがクリミア、東ウクライナの占領(ロシアは「併合」と称している)を続ける限り、ロシア制裁は残るだろう。
そしてNATOは日本、韓国、豪州などもかたらって、ウクライナに対する膨大な戦後復興援助パッケージを打ち出し、それでもってウクライナ指導部を宥めようとするだろう。ウクライナの右翼、野党(今、戦時で活動を抑えられている)はここぞとばかり、ゼレンスキー政権批判を開始する。これを停戦レジームと戦後復興建設ブームの中にどうやって絡め取るかが、ウクライナ政府の課題になる。
このような、すっきりしない、気持ちの悪い決着が、我々を待っているのであるまいか。
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