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※紙面抜粋
※文字起こし
礒崎陽輔首相補佐官(=当時、右)は安保法制担当だった(代表撮影)
放送法の「政治的公平」に関する行政文書をめぐる問題。その本質は、憲法や放送法が保障する表現の自由に対する不当な政治介入だが、当時総務相だった高市経済安保相が「捏造だ」と言い張るため、岸田政権は調査に及び腰だ。総務省が10日に発表した途中経過も、「作成者が確認できていない」「実際にやりとりがあったかどうか内容を精査」などノラリクラリだった。
中でも驚いたのが、執拗に介入を繰り返した礒崎陽輔首相補佐官(当時=参院議員)について、「強要があったとの認識は関係者全員が示さなかった」としたこと。曖昧決着で収束させたい一心なのだろうが、行政文書に残された礒崎発言を読んで、「強要がなかった」に納得する人がどこにいるのか。「局長ごときが言う話ではない」「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。クビが飛ぶぞ」「俺を信用しろ。ちゃんとやってくれれば悪いようにしない」──。総務省から安倍官邸に出向していた山田真貴子首相秘書官の「今回の話は変なヤクザに絡まれたって話だ」という発言が文書に残っているとおりで、誰もが眉をひそめるような“ヤクザ”まがいの言動以外の何ものでもない。
「礒崎さんには、当時、自民党内の一部も冷ややかでした。失言を繰り返し、安倍政権の“アキレス腱”と報じられたこともあった。側近偏重で倒れた第1次の『お友達』政権の二の舞いかと危惧されたものです」(自民党関係者)
集まるのはゴマスリばかり
いま礒崎は、2019年の参院選で落選してタダの人だ。しかし、忘れちゃならないのは、礒崎が第2次安倍政権当時、首相補佐官として13年に成立した特定秘密保護法や15年の安保関連法制を担当し、安倍首相の“知恵袋”“懐刀”と呼ばれていたことである。東大法学部を卒業し、旧自治省(現総務省)に入省したエリート政治家が、虎の威を借って傍若無人なふるまい。
実は、今回の行政文書の件以外でもトンデモ発言を連発して問題になっていた。
憲法で権力を縛る「立憲主義」は憲法学の常識なのに、「この言葉は、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか」とツイッターでつぶやき、憲法改正について講演で「国民に一回味わってもらう」と言い放った。極め付きは安保法制をめぐって飛び出した「法的安定性など関係ない」という暴言。与党も問題視し、礒崎は国会に参考人招致され、発言を撤回、謝罪させられた。
ところが、補佐官辞任論も出たのに安倍がかばって辞めさせず、結局、有権者が選挙で良識を見せて落選させた形だ。こんなチンピラを重用したことに、安倍政権の体質が表れていると言える。
政治評論家の野上忠興氏がこう言う。
「安倍さんは『自分が一番かわいい』という人なので、自分のために働いてくれる者が“愛いやつ”になる。政治家としての能力や資質は二の次で、自分の主義主張を広めてくれればいい。だから、安倍さんの周囲に集まってくるのはゴマすりタイプばかりなのです。今回、渦中の人となっている高市さんもそう。『捏造』だとか『大臣も議員も辞める』とか、森友問題での安倍さんと同じ発言をすれば、安倍シンパが喜ぶと思っているのでしょう」
「類は友を呼ぶ」の格言通りの強権政権だった
自分のために働くならどんな人物だろうが重用するという意味では、安倍のインタビューを口述記録として出版した「安倍晋三 回顧録」に、目を剥くような話がいくつも出てくる。
安倍は戦後70年の節目に当たる2015年に、日本の首相としては初めて米国連邦議会の上下両院合同会議で演説した。これは安倍が誇る実績のひとつだが、「回顧録」によれば安倍の意を受けて米国でロビー外交を行ったのは、河井克行首相補佐官(当時)だったという。
<後に加重買収の罪で逮捕、起訴され、実刑が確定した河井克行首相補佐官は、足繁く米国の議員を回って人脈をつくってくれました>と安倍が語っている。そう、妻の案里元参院議員の選挙に絡む公職選挙法違反(買収、事前運動)の罪で、懲役3年、追徴金130万円の実刑が確定し、現在服役中の、あの河井元法相のことである。
河井の公判で証人として出廷した元広島県議が、こう証言している。
「選挙戦の演説会場でトイレの小便器の前に立つと、上着のポケットに突然封筒が入れられ、横に元法相がいた。会話はせず、元法相はすぐトイレを出た。現金は30万円だった」
トイレで有無を言わせず、金を掴ませる。国会議員と地方議員の上下関係は明らかで、「分かっているな」という無言の圧力。これもヤクザかチンピラの手口だ。
「回顧録」で安倍は河井事件についても話しているが、自民党本部が案里側に提供した1億5000万円の使途がウヤムヤになっている件について説明することはなく、<1選挙区で1億円以上出費した例はいくらでもあります>と涼しい顔。
安倍の順法意識の低さという点では、黒川弘務東京高検検事長(当時)が賭け麻雀で辞任した件について、<レートは1000点100円のテンピンだったんでしょ。普通のサラリーマンでもやっています。検察審査会は起訴相当という判断を下しましたが。過酷に過ぎる気がしますね>と言ってのけるのだからア然である。
その一方で、安保法制に反対し、国会前でデモ活動を繰り広げた学生たち「SEALDs」については、<私が子どもの頃にテレビで見ていた60年安保闘争に比べれば、正直、彼らの運動は大したことはなかったですよ>とバカにする。当時の世論は安保法制に反対が多数だった。平和憲法と相いれない集団的自衛権の行使容認で戦争のできる国になってしまうことを真剣に止めようとしているのに、為政者は火炎瓶を投げられなければ動じないのか。国民愚弄も甚だしい。
「選挙応援で『こんな人たちに負けるわけにはいかない』と演説したように、安倍さんには『敵か味方か』という分断の論理しかないのですよ。コンプレックスと劣等感から来るものですが、マスコミに対してもそういう手法でしたね」(野上忠興氏=前出)
アベ政治にからめとられた自民党では絶望的
つまるところ、親分がチンピラだから子分にも同類が集まる。安倍政権で官房副長官だった世耕弘成参院幹事長のアベノミクスをめぐる最近の発言もチンピラ同然だ。
日銀の黒田東彦総裁が推し進めた「異次元緩和」について、日銀前総裁の白川方明氏が「壮大な金融実験」と批判したことに噛みつき、「まずご自身の時代をしっかり総括していただきたい」とドーカツした一件のことである。
その世耕と安倍派の跡目争いをしている萩生田光一政調会長も安倍政権時代の官房副長官であり、党の役職でも総裁特別補佐を務めた。思い返せば萩生田こそ、選挙報道で政治的公平を事細かに求めるペーパーを出して放送局に圧力をかけた張本人である。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「『類は友を呼ぶ』という格言通りの政権でした。社会を分断して、敵をつくって攻撃。丁寧な手続きを軽視して、強権的に政策を遂行。そして、嘘もつき続ければ、真実になると考えている。そんな手法のとんでもない政権でした。ハト派の宏池会の岸田首相は、本来、安倍氏とは異なる方向性が出せるはずなのに、安倍氏なきアベ政治にからめとられた自民党には、もはや振り子の論理が働かない。安倍氏に乗っ取られた自民党は、多様性や柔軟性を失い、硬直化してしまいました」
安倍がいなくなったことで、安倍政権のデタラメの数々が改めて暴かれる。よくもまあこんな政権が8年も続いたものだ。
アベ政治と決別できない自民党政権では、この国は決して良くならない。
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