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日銀総裁候補者所信聴取と質疑
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2023年2月24日 植草一秀の『知られざる真実』
日銀の次期総裁、副総裁候補者に対する所信聴取と質疑が衆院議員運営委員会で実施された。
3名の候補者の所信陳述ならびに質疑への答弁は安全運転に徹したものだった。
通常の国会審議では事前に質問が通告され、事務方が答弁を用意する。
これに対して所信聴取ならびに質疑では、質問を受けてその場で答弁しなければならず、回答者の力量が直接反映される。
この意味で候補者にとって気の抜けない場面である。
日銀総裁に求められる資質が三つあると考える。
これはFRB議長も同じ。
第一は適正な専門知識。
経済学、金融政策理論についての高度の専門性が要求される。
第二は現実の経済金融変動を的確に捕捉し、適切な政策対応を示すことができる洞察力と現実適応力。
第三は望ましい政策運営を円滑に執行するための折衝能力と対話能力。
とりわけ、日銀の業務運営は政治からの風圧に晒される。
政治過程のなかで最適な政策運営を貫徹しなければならない。
政治からの風圧に左右されない突破力と市場の混乱を回避する対話能力が求められる。
第一の要件を満たす上では経済学の専門家であることが望ましい。
あらゆる質問に対して即時に適正な見解を示すためには高度の専門能力が必要不可欠になる。
この意味で経済学者を総裁に起用することは妙案である。
米国のパウエル議長のように弁護士出身者でも高度な専門能力を体得できる例もあるから必須ではないが、高度で正確な専門能力を保持する者が担うべき職責である。
しかしながら、学術的な業績を保持していても、現実の経済金融変動に対する鋭い洞察力がなければ現業である日銀幹部の職責を担うことは適切でない。
さらに重要であるのが折衝能力と市場との対話能力である。
米国の場合、パウエル議長もイエレン議長も三つの要件を兼ね備えていた。
米国人材の層の厚さが際立っている。
この基準に照らしたときに、植田和男氏は三つの要件を満たす希有な人材であると判断できる。
24日の所信聴取と質疑応答では安全運転に徹するとともに、回答が難しい質問に対しては相手を煙に巻く芸当も示した。
金融政策運営は今後、軌道修正されることになると考えられるが、政策運営において重要なことは政策運営の連続性である。
現行の日銀法にはこの点で根本的な欠陥があると言わざるを得ない。
日銀政策委員会メンバーの人事権が内閣に付与されていることだ。
真逆の考え方を持つ内閣が政権を引き継ぎ、日銀人事が行われると、日銀の政策運営が激変してしまう。
内閣が金融政策運営の独立性を尊重し、政策運営の連続性を考慮して人事を行えば問題が顕在化しないが、内閣が極端な人事を断行すれば政策運営に大きな混乱が生じる。
安倍内閣発足後の人事において、この問題が顕著に表れたと言える。
この点で岸田内閣は良識の範囲内で人事を遂行しつつあると言える。
市場が強い関心を有しているのは
1.現在の金融緩和政策が維持されるか
2.YCC(イールドカーブコントロール)が修正されるか。
3.2%インフレ率目標が維持されるか。
4.国債売却があるか。
5.日銀保有株式の市場売却があるか。
6.賃金上昇に日銀がどう関与するか。
などである。
植田和男氏は原則として、これまでの政策運営を継承する方針を示した。
このことによって、まずは金融市場が過剰反応する事態は回避された。
国民経済的視点から最重要問題であると考えられる実質賃金上昇と金融政策との関わりについては植田氏が明確な回答を示さなかった。
「煙に巻いた」と表現したのはこの部分である。
実は金融政策のあり方を論じる上で最重要になるのがこの点だ。
国会質疑ではこの点が掘り下げられなかった。
今後の最重要の考察対象になる。
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