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※紙面抜粋
※2022年9月3日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
いま頃、岸田首相は「やっぱり慣れないことはするものじゃない」と後悔しているのではないか。珍しく自ら「決断」したことが完全に裏目に出ているからだ。
総理に就任して以来、なにを聞かれても「検討したい」としか口にしてこなかった優柔不断な岸田が、初めて「決断」したのが安倍元首相の「国葬」だった。7月10日、自民党が参院選に大勝した当日、誰にも相談せず国葬の実施を決めたという。本人にとっては電光石火の決断だったらしい。
しかし、安倍が統一教会と“特別な関係”だったことが発覚したこともあり、国民に説明もせず「国葬」を決めたことに批判が殺到し、支持率が急落。
とうとう、月刊誌に「岸田政権“短命”への暗転」などと報じられる状況になっている。実際、支持率は危険水準に突入した。
焦った岸田は、8月31日、突然、記者会見を開き、「初心に返る」などと釈明してみせたが、もはや支持率は回復しないのではないか。政治ジャーナリストの山田恵資氏はこう言う。
「もともと岸田首相は、典型的な“リアクション型”の政治家です。確固たる自分があるわけではなく、世の中の流れが右なら右、左なら左というタイプです。恐らく、参院選で大勝して自信を持った岸田首相は、決断する“ニュー岸田”へ変身を図ろうとしたのでしょう。でも、国葬の決断は大失敗だった。再びリアクション型に戻る可能性が高い。しかし、もとのスタイルに戻っても支持率は簡単には回復しないと思う。
これまでは、リアクション型が、国民の声に耳を傾けているように見えたかも知れないが、この2カ月間で岸田首相に対する国民の視線は非常に厳しくなったからです。以前と同じようにリアクション型に戻ったら、後手に回っていると判断され、愚鈍な政治家だと見られかねない。このままでは支持率アップは難しいでしょう」
安倍「国葬」の費用は、トータル70億円とも、100億円以上だとも試算されている。なのに、岸田政権は「全体像が確定しないと数字は示せない」などと、国葬が終わるまで総額を明らかにしないつもりだ。これでは支持率が回復するはずがない。
アベノミクスとどこが違うのか
安倍・菅政権と、2代続けて国民の声を聞かない強権的な政権だっただけに、“聞く耳”を自慢する岸田政権がスタートした時、国民の間に「これで少しはマトモな政治になるかも」という淡い期待があったのは間違いない。
ハト派である「宏池会」政権に対する期待もあっただろう。
しかし、もはや国民の多くは、岸田政権に対して失望感しか持っていないのではないか。淡い期待は、ものの見事に裏切られた。
なにしろ、政権の一枚看板だった「新しい資本主義」さえ、1年たっても具体的な中身が出てこないありさまだ。安倍一派が推し進めた「防衛費2倍」もあっさり受け入れている。
「国民が岸田首相に期待したのは、アベ政治からの転換だったはずです。新自由主義に疲れ切った国民は“令和版所得倍増”を掲げる『新しい資本主義』にも期待したはずです。ところが“所得倍増”は、いつのまにか“資産所得倍増”に姿を変え、その目玉は、金持ち優遇との批判もあるNISAの拡充です。安倍さんが『バイ・マイ・アベノミクス』と投資を促したように、岸田さんも同じように『インベスト・イン・キシダ』と投資をあおっている。アベノミクスは“貧富の格差”を拡大したと批判されているのに、どうして金持ち優遇策を拡充するのか。岸田政権に期待されたのは、かつて日本が誇った分厚い中間層の再建であり、弱者救済だったはずです。岸田首相は、記者会見で“初心に返る”と強調していましたが、政権が発足した時、国民が岸田首相になにを期待したのか、それすら分からなくなっている印象を受けます」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
岸田は本当に宏池会のトップなのか。本来「保守本流」の宏池会は、「保守傍流」の安倍派とは、理念も政策も正反対のはずだ。
保守本流の自覚があるなら、統一教会のような“反日”“反社会”のカルトのような組織が自民党に深く浸透していることが分かったら、先頭に立って一掃に動くはずだ。なのに、問題の核心である安倍と統一教会との関係についてさえ、「ご本人が亡くなられた今、十分な把握には限界がある」と、調査さえしようとしないのだから話にならない。わずか1年足らずで、この男のバケの皮は完全に剥がれている。
物価高にも打つ手ナシ
国民にとって最悪なのは、これから年末にかけて食品の「値上げラッシュ」が襲ってくることだ。
民間調査会社「帝国データバンク」によると、今年に入ってから8月までで、すでに2万品の食品が値上がりし、さらに9月に2424品、10月には6532品の価格が上がるという。
しかも、円安が急ピッチで進んでいるだけに、物価高はさらに加速する可能性がある。食品の値上がりは、庶民をモロに直撃する。とくに貧困層ほど打撃が大きい。いまから手を打たないと、生活が立ち行かなくなる恐れがある。
ところが、岸田政権は、世界的なインフレにまったく対応しようとしないのだから、どうかしている。このままでは10月以降、大慌てするのは目に見えている。
「岸田首相は、なにをやらせても後手後手です。コロナ対策にしても後手に回り、今年冬の第6波も、足元の第7波も、病床が逼迫し、第7波の死者は過去最多を更新してしまった。新型コロナは、冬と夏に流行することが分かっているのだから、いくらでも事前に対策を打てたはずです。岸田首相は、いつも動きが遅い。その一方、原発の新増設といった重要な問題を、国民に説明もせず唐突に決断している。決断すべきを決断せず、決断すべきではない問題を勝手に決断している。安倍国葬も同じです。あまりにもピントがずれている。恐らく、本心からやりたいというよりも、政権維持のために、安倍政権の岩盤支持層をつなぎ留めようという計算なのでしょう」(政治評論家・本澤二郎氏)
岸田の最大の問題は、一国のトップとして、実現したい政策がなにもないということだ。「総理になったらなにをしたいか」と問われたら、具体的な政策ではなく、「人事」と即答したような男だ。
これ以上、中身が空っぽの男にトップを任せていたら、この国は取り返しのつかないことになってしまう。
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