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※紙面抜粋
※2022年5月6日 日刊ゲンダイ2面
【もう戻れないぞ、戦争は】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) May 6, 2022
連休中に突き付けられた「日本の参戦」
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/KAmzmJA5lN
※文字起こし
米国のお先棒を担いだ岸田首相がこの大型連休に東南アジア・欧州5カ国を歴訪し、ウクライナから手を引かないロシアを力んで非難する中、プーチン大統領は新たな報復措置に打って出た。
「出禁」だ。ロシア外務省は4日、岸田と閣僚7人のほか、国会議員や官僚、学者、メディア関係者ら計63人に対し、ロシア入国を無制限に禁止すると発表。
選別の詳しい理由は明らかにしないものの、「中傷や脅迫を容認する前例のない反ロシアキャンペーンを繰り広げている」「専門家やメディアも西側の方針に同調し、ロシアの経済や国際的な威信への打撃を狙っている」と対象者を批判した。
戦前も国民は誰も泥沼戦争に巻き込まれていることを知らなかった
問題のリストに名前が挙がった筑波学院大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「ロシアについて、とりわけ日ロ関係について本当のことを言い過ぎたのかもしれません。安倍政権下の2016年に『経済協力プラン』が打ち出され、経済支援をテコに平和条約締結と北方領土の2島先行返還へつなげようという機運が高まった。しかし、私は一貫して北方領土はかえって遠のく、プーチン大統領に騙されてはいけない、と主張してきた。そうしたことから、警告の意味合いで入国禁止となったのでしょう。ただ、ロシアというのは法律で禁じられていない限り、何をやってもいい国。つまり、表に出ないこと、書かれていないことに物事の本質が潜んでいることがある。経済界で対象になったのは、経済同友会の桜田謙悟代表幹事ただ一人。企業は含まれておらず、安倍元首相も対象外です。将来的に経済協力を引き出すパイプは残し、関係者に恩を売る思惑も見え隠れします」
ロシアの侵攻後、岸田政権はG7主導の対ロ経済制裁を後追い。2月27日にはプーチンの資産凍結を発表し、ロシアから欧米とともに「非友好国」に指定された。4月に在日ロシア大使館の外交官ら8人を国外追放すると、ロシアも同様に日本の外交官8人を追放した。くしくも日本国憲法施行から75年となる憲法記念日の前後に、「日本は完全に戦争に組み込まれた」という冷徹な事実を次々に見せつけられている。
ロシア潰しの米国と一体化
出禁発表に先立つ3日、プーチンは政府機関や企業などに対し、「非友好国」でロシアの報復制裁の対象になっている企業や個人に対する物品や資源の輸出を禁じる大統領令に署名。穀物大国であり、エネルギー大国のロシアが輸出先を絞り込む可能性が出てきた。「プーチンの戦争」の資金源を断つため、お得意さまだったEUがロシア産石油の輸入を年内に禁止する方向へ舵を切ったことへの対抗措置ともされるが、日本もはじかれるリスクは決して小さくない。
石油の4%、天然ガスの8%をロシアに依存している程度ではあるものの、訪米中の萩生田経産相は「日本には資源に限界があるため、他の国々とすぐに歩調を合わせるのは難しいだろう」と言葉を濁していた。代替先を確保する前に蛇口を閉められかねない。口だけ岸田政権がごまかしていた天然資源の供給を向こうから遮断され、「63人リスト」で外交的解決の扉が閉ざされた今、米国隷従のこの国に歯止めがあるのか。答えは否だ。ウクライナに100億ドルもの軍事支援を実行し、ロシア潰しに躍起の米国との一体化をむしろ急ピッチで進めている。
コロナ禍からの正常化に向かうこの連休中、岸田や萩生田など閣僚11人が外遊。今月下旬に東京で開催される日米豪印4カ国による枠組み「クアッド」の首脳会談の地ならしで訪米した岸防衛相は、オースティン国防長官と会談し、日米それぞれが策定する国家安全保障戦略などの文書をすり合わせると確認した。
戦略文書を通じて日米の共通目標や戦略、軍事的な手段を検討する段取りを描くというが、要するに安保法制で容認された集団的自衛権を行使するため、米軍と自衛隊の一体運用を加速させるということ。岸田政権は年内に国家安保戦略などを改定するため、政権発足から1年あまりでこの国を米国と共に戦争ができる国にさらに変えようというのだ。
「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に呼びかえ、敵のミサイル拠点を叩く能力の保有も既定路線として報告された。右派の連中は「抑止力を高める」と口を揃えるが、周辺国との軍拡競争を煽り、対立を深めるだけだ。
憲法公布勅語にソッポ向いた「2022年危機」
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「安倍元首相ら自民党などの連中は皇室を敬い、天皇を尊敬しているように見せながら、その実、ソッポを向いて動き回っている。日本国憲法が公布された1946年の貴族院で昭和天皇が朗読した勅語の内容を知らないのでしょうか」
勅語にはこうある。
〈日本国民は、みずから進んで戦争を放棄し、全世界に、正義と秩序とを基調とする永遠の平和が実現することを念願し、常に基本的人権を尊重し、民主主義に基いて国政を運営することを、ここに、明らかに定めたものである。朕は、国民と共に、全力をあげ、相携えて、この憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化国家を建設するように努めたいと思う〉
あれから76年。「自由と平和とを愛する文化国家」は押しやられ、連休中に突き付けられたのは「日本の参戦」という現実である。
「憲法9条の精神から言えば、どんな事情があれ、戦争当事国に肩入れするようなことはあってはならない。平和憲法を順守する国のトップとして岸田首相はモスクワに乗り込み、停戦を強く働きかけるべきところが、バイデン大統領の忠犬丸出し。本当にみっともない男です。戦前を美化し、ナショナリズムを煽る政府・自民党がたき付け、テレビなどが無責任な戦争報道をまき散らすことで世論のナショナリズムにも火がつき、軍拡に傾いていく不気味な雰囲気を感じます。まさに2022年危機、戦後最大の危機と言っていい」(本澤二郎氏=前出)
軍産複合体をバックに、ウクライナ戦争の長期泥沼化を望むバイデン政権の手先が独自外交を展開できるわけがない。大国の思惑でエネルギーや穀物価格は高騰し続け、日米金利差の拡大で円安は進行。輸入物価高に苦しむ庶民は「ロシア憎し」に誘導され、それが改憲論議に結びつきつつある。
「戦争起きる不安」8割
マスコミ各社の世論調査でもそうした傾向は顕著に表れている。朝日新聞の調査(郵送)では、日本周辺の安全保障をめぐる環境への不安を「大いに感じる」との回答が60%、「ある程度感じる」が36%を占めた。ウクライナ侵攻を受け、日本と周辺国との間で戦争が起こるかもしれない不安を以前よりも「感じるようになった」は80%。憲法改正の必要性について「変える必要がある」は56%で、「変える必要はない」の37%を上回った。参院選で憲法改正に前向きな勢力が3分の2以上を「占めたほうがよい」が57%に上り、「占めないほうがよい」の35%をさらに上回った。本当にそれでいいのか。
戦前も国民は泥沼戦争に巻き込まれていることを知らなかった。NHKスペシャル「新・ドキュメント太平洋戦争」(21年12月放送)で紹介された東京・四谷に暮らす主婦の金原まさ子さんの育児日記。1940年2月に生まれた長女の成長記録が次第に愛国色に染まっていく。
〈四月十八日。おっぱいを出そうとして この暖かいのに昨日も今日も「すきやき」。住代ちゃん あくびをするときの甘い甘い息の匂い ママは大好きなり〉
半年余りで書きようは様変わりする。4年目に入った日中戦争の影響で戦時体制が強化され、政府が食料を統制したためだ。
〈八月十一日。外米になってから子供の腹こわしが増えた。今月からは麦が入る。7割外米の麦入りときては大変なり。大人は我慢するが子供はかわいそうだ〉
〈今こそ日本の歴史の大転換期であり、住代の育児日記も母の目に映った世の有様を書き記していこうと思う〉
〈世界戦争も実現するかも分かりません。住代ちゃんも食べるものも不満足ですが、でもしっかりやっていきましょう。大東亜建設のため、次の日本を背負って立つのは、住代ちゃん、あなたがたなのです。丈夫に育って、立派にお国のために尽くしなさい〉
いつか来た道にならないために、今こそ頭を冷やす時だ。
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