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※2022年4月29日 日刊ゲンダイ2・3面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
7月10日投開票が有力視される夏の参院選は、公示まで2カ月を切った。止まらない円安と、ロシアによるウクライナ侵攻。日本がどう対応していけばいいのか難題を抱える中での国政選挙なのだが、有権者の関心は高まっていない。
ひとつには、与野党対決の構図が見えないことにあるだろう。何が選挙の争点になるのか、与党も野党も示そうとしないのだ。
自民、公明の与党は例によって、選挙前のバラマキを決めた。物価高騰の緊急対策という名目で、補正予算案を今国会中に成立させることで合意。今年度予算の予備費を活用し、約1兆円の燃油高騰対策を加えた2兆5000億円規模になる見通しだ。
通常国会終盤に補正予算成立のための衆参予算委員会が開かれるから、野党は参院選直前に岸田政権追及の機会を手にすることになる。だが、本予算の審議も低調で野党は岸田政権を追い込めず、内閣支持率は高めで安定しているのが現状だ。参院選もこのまま無風で自民党が勝利するシナリオでは、選挙戦が盛り上がるはずもない。
「岸田政権は何もしていないとよく言われますが、それどころか、コロナ対策などで失策続きなのが実態です。それでも、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻で求心力が高まり、支持率が上昇している。昨年末の時点では、自民党が改選議席を少し減らすとの予測が大半でしたが、今では上積みする可能性も囁かれている。自民党は安泰ムードで、対する野党は1人区での共闘も進まず、勝つ気があるのかどうかさえ分からない。政権与党と戦う気迫を見せているのは、その手法には批判もありますが、衆院議員のバッジを外して参院選に挑むことを表明したれいわ新選組の山本太郎代表だけという状況です。本来は最大野党の立憲民主党が、与党との対決姿勢を鮮明にすべきなのに、まったく存在感を示せていない。野党不在で、自民党内の力学だけで物事が進んでいく危険性が高まっています」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
防衛費や敵基地攻撃の議論は憲法改正につながる
ウクライナ危機に乗じて、自民党は防衛費のGDP比2%への引き上げや敵基地攻撃能力の保有などを言い出している。安倍元首相が口火を切った核共有や核保有論は、自民党だけでなく日本維新の会や国民民主党からも、非核三原則の見直しを議論すべきだとの声が上がっているのが現状だ。エネルギー価格の高騰で、原発推進の声も大きくなってきている。日本の政策、針路を決する大きなテーマだが、これらが参院選の争点になるのか。
「自民党がウクライナ危機に乗じて防衛予算の拡大をことさらに主張するのは、憲法改正につなげたい思惑があるからでしょう。だったら、そんな姑息なことをしないで、参院選で正面から堂々と改憲の是非を問うべきです。それに対抗して、野党もあるべき国の形を示し、平和主義を捨てるのか否かを国民に問う。そうでなければ争点が見えず、投票率も低くなって、組織票に勝る自公両党が有利になるだけです」(山田厚俊氏=前出)
ロシアの蛮行がメディアを席巻している現状では、プーチン大統領に対する怒りが先行し、国民の批判は岸田政権に向かわない。
もちろん、プーチンを擁護する余地などないから、野党もロシア批判を繰り広げる。
目下、国民の最大の関心事がウクライナ危機であれば、野党が攻勢を強めるチャンスはない。参院選は勝負にならないということだ。
日本にとっても東アジアにとっても戦後最大の危機
「野党が総崩れになり、自公が堅調で日本維新の会が議席を増やすようなことになれば、予算案に賛成して与党に接近する国民民主党も合わせて、国会は大政翼賛化してしまう。一気に憲法改正に突き進んでいく懸念が高まります。ロシアや中国の危機を煽って、軍拡も進んでいくでしょう。円安の加速で国民生活が危機にひんしているというのに、防衛費の増額なんて常軌を逸しているとしか思えない。その分の予算を捻出するには社会保障費を削るしかありません。防衛費の増額とは米国から武器を買うことであり、財閥と米国の軍事産業を喜ばせるだけなのです。そのうえ周辺国との緊張を高め、戦争の危険性が増すのだから、参院選で与党を勝たせても、国民生活にとって良いことは何ひとつありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
米国産の武器を大量に購入したところで、悪性インフレで国民生活が破綻してしまえばどうしようもない。エネルギー資源も食料も輸入に頼っている日本には、武器を買っている余裕などないはずなのだ。
「現実にロシアとの戦争が起きている今こそ、冷静に歴史の教訓を思い返すべきなのに、軍拡に舵を切る日本はおかしな方向に進もうとしているように見えます。第2次安倍政権で特定秘密保護法や安保法、共謀罪などが成立し、戦争をするための素地が整った。安倍元首相が韓国や中国を敵視してナショナリズムを煽り、それを菅政権も引き継いで戦後の平和主義がなし崩しにされてきたところへウクライナ危機が起きたことは、日本にとっても東アジアの安定にとっても戦後最大の危機と言えるでしょう。敵基地攻撃能力を反撃能力と言い換えたところで実態は変わらず、日本発の戦争が起きてもおかしくないし、米国の戦争に駆り出されるリスクもある。停戦や平和を求めるより『ウクライナ頑張れ』と応援する世論を見ていると、過去の歴史に重なって空恐ろしくなります」(本澤二郎氏=前出)
歴史は繰り返す。旧日本軍は、当時の国際社会から今のロシアのように見られていたに違いない。国家の誇りを守る、正義のための戦争などという大本営に感化されやすい国民性では、いつまたロシアのように転んでもおかしくないのだ。
軍拡で本当に国民を守れるのかという議論もないままで、この戦時下の参院選はろくでもない結果になる予感しかない。
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