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※2022年3月20日 日刊ゲンダイ2・3面 紙面クリック拡大
※文字起こし
資源大国ロシアに対する経済制裁の影響で、原油や天然ガスは高止まり。加えて穀倉地帯で起きたウクライナ戦争の長期化懸念から小麦価格も高騰。日本もその影響は避けられず、あらゆる商品の値が上がっていく。
追い打ちをかけるのが、輸入物価高の打撃を増幅させる「悪い円安」だ。米国の利上げ見通しから、円相場はみるみる下落。市場は2016年2月以来、6年1カ月ぶりの120円台を意識しているが、円の実質価値はもっと低い。
購買力平価という統計がある。モノやサービスの値段を基準にした為替レートのことで、有名なのが「ビッグマック指数」だ。マクドナルドのビッグマックは、米国の価格が今や日本より7割も高い。海外で同じ商品を買うのに日本以上のお金がかかり、それだけ円の実力は激減してしまったのだ。
貿易量や物価状況を反映して円の総合的な価値を測る「実質実効為替レート」も1972年以来、実に50年ぶりの低水準。円の実質的な価値は、為替の固定相場で1ドル=300円台だった時代に逆戻りということだ。
第2次安倍政権以降、黒田日銀は異次元緩和による円安政策を実に9年も推し進めてきた。製造業の輸出を後押しする狙いのはずが、モノづくり大国ニッポンはもう過去の話だ。この間、日本の輸出を支えた家電メーカーは相次いで外資に取り込まれ、残った輸出の柱は辛うじて自動車産業くらいだ。
円安の恩恵でバンバン輸出して経済を潤す時代はとうに終わり、もはや円安は輸入物価高などのデメリットしかない。
5000円バラマキの前に小麦価格を下げろ |
それでも日銀は無策で、異次元緩和から延々と抜け出せない。岸田政権も無責任だ。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。
「輸入小麦の価格を決定しているのは政府です。この1年半で価格は1.5倍となり、ウクライナ戦争の影響で10月の価格改定時は、さらに跳ね上がるのが確実。岸田政権に国民の暮らしを守る気持ちがあれば、参院選の票欲しさに一律5000円を年金受給者にバラまく前に、その税金を小麦価格の抑制に投入すべきでしょう。よっぽど年金生活者も喜びますよ。燃油価格の高騰に庶民が苦しむ中、ガソリン税を一時的に引き下げるトリガー条項の凍結解除も、岸田首相は『検討する』を繰り返すだけ。“検討使”の庶民切り捨て政治は許されません」
不況下に緊縮に転じる最悪シナリオ |
このまま、インフレが過熱し、円の価値激減が続けば年金生活者の預貯金は今後、どんどん減っていく。指をくわえていたら、半分になりかねない。どうしたら虎の子の資産を守れるのか。経済評論家で独協大教授の森永卓郎氏はこうアドバイスする。
「資産を増やそうと、下手に価格変動のある投資に手を出すのは危険です。原油や小麦など、あらゆる市況が高騰する現状は2008年のリーマン・ショック直前とウリ二つ。米国もEUもインフレに対抗し、金融引き締めに動き、早晩、ジャブジャブと金融市場にあふれた緩和マネーがスーッと引くタイミングが来ます。都心の不動産もピークアウトを迎え、今、動くのはお勧めできません。残る手段は、円資産をリスクの低い米国債に切り替えるくらい。それも、よほど資金に余裕のある人に限った話です。年金生活者は輸入物価高の影響を比較的受けにくい国産の日用品に頼り、パンや麺類を避け、ご飯にお新香と和食中心の食事を心がけ、耐え忍ぶしかないのです」
前出の荻原博子氏も、「金銭面や金融知識にかなり自信のある人以外、年金生活者は投資に手を出さない方がいい」とし、こう続けた。
「日々スーパーのチラシを確認し、なるべく安売りの時に日用品を買いそろえておく。返せるうちに借金はなるべく返済し、家計を健全化する。それしか術はありません。特に40〜50代で住宅ローンを抱えている世帯は、余剰資金を投資ではなく、繰り上げ返済に回すべきです。本来なら利息が付いて140万円を返す必要があったローンが、うまくいけば100万円で済むかもしれない。差し引き40万円の儲けです。今の時代、投資額100万円で140万円に増えるケースはまずありませんから、よっぽど賢明な選択ですよ」
見るも無残な円安の国で、庶民の生き残る道は限られる。「日本経済は長期にわたり、さらに転落する」と、前出の森永卓郎氏は今後の最悪シナリオを指摘する。
「怖いのは岸田首相が、すごい勢いで財政と金融を同時に引き締めそうなことです。その兆しは見える。コロナ禍に大型補正予算を組み続けた結果、財政健全化の目安となる基礎的財政収支は、今年度に約41兆円の赤字となる。岸田政権はその赤字幅を来年度予算案の編成で約13兆円にすると閣議決定しました。実に30兆円近い財政の縮小です。さらに来年4月に任期が満了する日銀の黒田総裁を交代させ、金融の引き締めも図るつもりでしょう。日銀の次期審議委員の人事案で超リフレ派の片岡剛士氏の後任に、非リフレ派の高田創氏を起用したのが、その布石です。しかし、不況下で財政・金融の緊縮に転じれば、恐慌を招くのが歴史の教訓。日経平均が暴落に向かうタイミングで、相場の下落に応じて価格が上昇する『日経ダブルインバース上場投信』を購入し、一発逆転を狙うのが最も賢い選択かもしれません」
たった5000円ぽっちの支給では、この難局はとても乗り切れない。年金生活者は今夏の参院選で「1票一揆」を起こすしか生き残る道はないと覚悟すべきだ。
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