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※2022年3月5日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年3月5日 日刊ゲンダイ2面
【この戦争はそう簡単には終わらない】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) March 5, 2022
ハッキリしてきた 日本経済にも凄まじい返り血
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/N9cy5O1AAM
※文字起こし
ロシア軍のウクライナ侵攻から1週間。プーチン大統領は、ウクライナが降伏するまでトコトン戦争を続けるつもりのようだ。
3日、フランスのマクロン大統領と電話会談し、ウクライナの「非武装化」と「中立化」という目的を達成するまで軍事作戦を続けると明言してみせた。
ロシアとウクライナの2回目の停戦協議も、結局“不発”に終わり、戦闘地域から民間人を避難させる「人道回廊」の設置で合意しただけだった。その数時間後、ロシア軍はウクライナ南東部にある欧州最大の原子力発電所を攻撃している。
「人道回廊」で民間人を避難させた後、ロシア軍は「もう残っているのは軍人だけのはずだ」という理屈を持ち出して、首都キエフを無差別攻撃するのではないか、という解説も飛びかっている。もはや、狂ったプーチンの暴挙を誰も止められない状況だ。
深刻なのは、この戦争は、いつどんな形で終わるのか、まったく見通せないことだ。当初、ロシア軍は短期間でキエフを陥落させ、ゼレンスキー政権を転覆させ、傀儡政権を樹立するのではないかと予想されたが、ウクライナ軍の強い抵抗に阻止され、キエフに向けた進軍は北25キロ地点で足止めされている。焦りを募らせたプーチンは、とうとう核兵器の使用までにおわせる始末だ。このままでは、戦争は長期化、ドロ沼化しかねない。
軍事ジャーナリストの前田哲男氏はこう言う。
「心配なのは、停戦するための条件というか、ロシアとウクライナとの間の妥協点が見当たらないことです。お互い、相手がのめない条件を突きつけている。しかも、適した“仲介者”もいない。永世中立国であるスイスまでが、ロシア制裁に賛成しています」
この戦争は、そう簡単に終わらないのではないか。
欧州で金融危機の恐れ |
この先、世界はどうなってしまうのか。もはや世界経済の混乱は避けられそうにない。
産油国、農業大国、さらにレアメタルの産出国でもあるロシアに“経済制裁”を科したことで、すでにあらゆるモノの価格が急騰している。原油価格は13年半ぶりの高値となる1バレル=116ドルまで高騰。ロシアが輸出量世界1位の小麦(2021〜22年度)も約14年ぶりの高値を付けている。世界生産の4割を占める希少金属・パラジウムも7カ月半ぶりの高値を付けた。
さらに、石炭、アルミ、半導体製造に必要なネオン──と、キリがない。ロシアからの輸出が止まり、需給が逼迫するとの疑念が広がり、何もかもが値上がりしている。世界的な狂乱インフレが発生しかねない状況だ。仮に戦争が終わっても、ロシアへの経済制裁はすぐには解除されないだろう。
さっそくアメリカは、中央銀行に当たるFRBが3月中旬に0.25%の利上げに踏み切ると表明。金利を引き上げてでも、何としてでもインフレを抑えるつもりだ。
とくにヤバいのが、ただでさえ天然ガス供給の4割をロシアに頼っている欧州だ。物価高のみならず、金融危機を起こしかねない。デフォルト懸念が高まっているロシア国債を大量に抱えているからだ。
欧米の格付け大手3社は、ロシア国債の評価を投資に適さない「投機的水準」に大幅に引き下げている。ロシア国債がデフォルトとなるのは時間の問題とみられている。
「国際決済銀行(BIS)によると、イタリア、フランスの金融機関が保有しているロシア向け債権は昨年9月時点でそれぞれ約250億ドル。オーストリアも約170億ドル持っています。これらがすべて焦げ付く恐れがあります」(金融業界関係者)
1998年にロシアがデフォルトを起こした際も、その後、ルーブルの切り下げによって大手ヘッジファンドが巨大な損失を出したことが判明し、「ルーブル・ショック」といわれる金融危機に発展している。
ロシアに進出する日本の自動車大手各社も、現地の生産拠点を続々と操業停止にする予定だ。
このままでは世界恐慌が起きる恐れも捨てきれない。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「最悪のシナリオは、インフレを抑えるために金利を上げ、その結果、景気が冷え込み、物価高が続くというケースです。物価高騰と景気悪化が同時に進行するスタグフレーションです。今回、FRBのパウエル議長はインフレ抑制を鮮明にしています。利上げは、インフレ退治のみならず、ルーブル安を招きロシアに打撃を与えることになる。“通貨戦争”の様相です。しかし、ただでさえウクライナ危機で各国経済の先行きは不透明です。一歩判断を間違えると、世界経済は大ダメージを受けることになりかねません」
日本企業も大打撃 |
日本経済も無傷では済まない。ロシアに経済制裁を科した返り血を浴びるのは間違いない。
帝国データバンクの「緊急調査:日本企業の『ロシア進出』状況調査」(2月24日付)によると、ロシアに進出している日本企業は347社だった。
リポートは〈ロシアに拠点を置き、多くの部品・製品をロシア国外から調達してきた製造業のほか、市場開拓を進めてきた日本の小売・卸売といった流通産業などもダメージが避けられなくなる〉と分析している。今後、多くの企業がロシアからの撤退を余儀なくされるはずだ。
ロシア極東サハリンの石油・天然ガス開発事業から撤退するかどうか、大手商社はアタフタしているが、もはやロシアでのビジネスは諦めるしかないのではないか。欧米企業は次々とロシアからの撤退を表明している。
「急激なルーブル安で、これまで各企業がロシアで投資してきた資産は著しく目減りしている可能性があります。手をこまねいていると、ルーブルが紙屑同然になる危険がある。企業は早期に撤退すべきです。逃げ遅れれば取り返しがつかないことになる可能性があります」(斎藤満氏=前出)
国民生活も苦しくなる
国民生活も一気に苦しくなるはずだ。
このまま原油価格が平均1バレル=110ドルで推移したら、22〜23年の家計負担は計4万円も増えるという。足元の原油価格は1バレル=116ドルを付けているから、負担増は4万円を軽く突破する恐れがある。狂乱インフレによって庶民のなけなしの資産も紙屑になりかねない。
「庶民にとって誤算なのは、これからはじまる春闘には期待できそうにないことです。ただでさえ、コロナ感染と資源高に直撃され、企業経営者は賃上げに二の足を踏んでいた。そこにウクライナ危機が加わってしまった。企業防衛に走り、賃上げを渋るのは間違いないでしょう。庶民は給料は増えないのに物価高によって支出だけは増える最悪の事態に直面しかねない。暮らしは相当、苦しくなるはずです」(経済ジャーナリストの荻原博子氏)
アベノミクスの失敗によって、ただでさえ日本経済は低迷している。2021年の経済成長も、アメリカは5.7%、イギリス7.5%なのに、日本は1.7%という惨状である。体力を失った日本は“世界不況”にのみ込まれる恐れがある。
もう世界は“ウクライナ危機”以前には戻れない。世界も日本も、その覚悟が必要ということだ。
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