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備えなく迎えた第6波 抗原検査キットもPCRの試薬も足りず 感染爆発下で始まった棄民 下関の実情から見る
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/22648
2022年1月30日 長周新聞
年始よりオミクロン株の感染爆発が始まり、日本国内の1日の陽性者数も日々万単位で跳ね上がるなど、お手上げ状態のような様相を呈している。体制が万全でないことから感染者割り出しのためのPCR検査も追いつかず、抗原検査キットすら病院に足りておらず、目下、正確な疫病禍の実態を把握できないまま、第5波をはるかに上回る感染拡大が進行している。2年近くにわたって疫病禍にさらされてきたなかで、日本国内においては科学に基づいたまともな感染症対策が機能しないこと、何らの備えもしておらず、最終的には「なるようにしかならない」式に万歳降参で身を委ねていく体質が露呈している。山口県内の現実とともに、記者座談会で問題点を整理してみた。
A 山口県や広島県では年末あたりから米軍由来でオミクロンが持ち込まれ、そこから全国に先んじて一気に感染が広まっている。クリスマス時期に米兵が大はしゃぎしていたとかで、1月初旬は岩国地域の周辺で陽性者が見つかっていた。この月末まできて、それは岩国に限らず県内全域に広がっている。手が付けられないような状態だ。
下関では1月25日に170人もの陽性者が出て、過去最大の感染者数だったことから街全体に緊張が走った。いまやあっちにもこっちにも感染者が出て、恐らく身近な知り合いに1人や2人は感染者及び濃厚接触者がいるような状態だ。170人の発表に「うわぁ…」「どうしようもないな…」と身構えた市民も少なくなかったが、保健所の業務逼迫を知る人々のなかでは「PCR検査のキャパが170人なんじゃないのか?」という声も上がるほどで、まるで検査が追いついていないことも心配されている。
病院に行っても抗原検査キットすら足りておらず、PCR検査どころではない。街のドラッグストアでも抗原検査キットは売り切れだ。肝心なPCR検査も行政管轄の保健所なら結果も早くわかるが、民間病院で検査した場合は結果がわかるまでに3〜4日はかかる。なんでもPCR検査の試薬が足りてないようで、抗体が採取できたとしても検査そのものが滞っている。従って下関人は170人という数字に痺れているが、実際にはもっとたくさんのコロナ感染者が市中にいると見ておかしくない。保健所もてんやわんやで実態把握が追いついていないのだ。
B 2週間前あたりは下関市東部の保育園や小学校、老人施設でクラスターが起こり、軒並み閉園や学年閉鎖に追い込まれていた。子育て世代が多く、子どもがたくさんいる地域だ。そこからの滲み出しだろうが、スポ少の大会でクラスターが起こったり、中学生の部活の練習試合で感染が起きたり、成人式でもクラスターが発生したりで、2週間たった最近では西部、東部問わず各所で感染者が出ている。老人施設や病院でもクラスターが起きている。
学校では子ども1人の感染がわかると、その学級や学年は3日間の閉鎖となり、2学年が閉鎖している学校もあれば、3学年が閉鎖している学校もある。「○○小学校は2年生と4年生」「うちは4年生のみ」等々の情報が職場など親たちの間で盛んに飛び交い、戦々恐々とした心境だ。親としては仮にもらってきて濃厚接触者にでも認定されたら堪らないという思いがあるからだ。
ただ、連日の発表が人数のみに限定され、どこそこの学校といった具体的な固有名詞が出てこないため、一般的には身構えるといってもどうしようもないのが現実だ。少しでも感染地域や箇所に近づかないように気を付けようにも、まるで公式の情報がなく「どうしたものか…」とみなが話題にしている。確かにコロナ差別のようなことが起こるのは論外で、その配慮で固有名詞を伏せるのも理解できる。ただ、現状では友人知人のネットワーク情報のみが頼りで、自己責任で行動が求められる。だから、「○○(総合病院)でクラスターが起こった」「○○(スーパー)でも店員から感染者が出た」といった身近でリアルな情報を互いに共有するしかない。少しでも感染源から距離を置きたい一心なのだ。目に見えないコロナからそうやって逃げ回っている。
C JC(青年会議所)の関係者も何人か感染しているようで、「15日の新年会でクラスターが起きたんじゃないのか?」「シーモールパレスで開催していたが、前田晋太郎(市長)も参加していたぞ」「この時期に人を集めて新年会をやるかね…」などとヒソヒソと語られている有り様だ。
某大手の工場では「恐らく成人式でもらってきている」と話になっていたが、20歳の若手がバタバタと感染し、そこから濃厚接触者に至るまで休みになるため、「まだ持ち堪えているが、これ以上広がるとラインがもたない…」と危惧されていた。各職場では感染者はもちろんのこと、濃厚接触者の広がりで人手不足に陥ったり、堪らない状況に直面しているところも少なくない。
現状では、保育園や小学校など、ワクチンを打っていない子どもたちが風邪のような症状で反応し、検査したらコロナだったというケースも多いわけだが、その親たちも濃厚接触者として休職しなければならない。しかも、発熱症状が出て指定された民間病院で検査しても、陽性・陰性の結果が通知されるのは3〜4日後で、その検査通知を受けて以後10日の自主隔離がよぎなくされる。しかも、濃厚接触者は感染者本人よりも多く隔離生活を強いられる。これが厄介で、濃厚接触者になったら堪ったもんじゃない…といわれる所以だ。
自宅療養時に保健所から届けられたパルスオキシメーター
自主隔離者増え 社会的機能への影響大
D 知人の子どもが先週の金曜日に発熱して、土曜日に病院でPCR検査をした。そして、水曜日になってようやく陽性の知らせがあった。その後、親である知人も濃厚接触者として保健所から連絡が入り、保健所での検査は即日結果がわかって陰性だったが、濃厚接触者として自主隔離になった。自宅療養の場合、同じ屋根の下で幼い子どもの世話もするわけで、実質的には感染者として扱われるようだ。
ただ、子どもが10日間の自主隔離生活を終えたとしても、発症のない濃厚接触者の場合、さらにそこから10日間の隔離をよぎなくされる。PCR検査をして陰性だったらいいではないかと思うが、PCR検査はせずにプラス10日となる。そうなるとほぼ20日間近く職場を休むことになる。保健所の職員も「むしろ濃厚接触者の方が大変なんですよ…」と漏らしていたが、本当に大変だ。社会人としては職場への負い目もあるし、本当に堪らないだろうと思う。
恨むならコロナを恨め――だが、一人抜けただけでも業務が逼迫する職場だってある。そうやって1日の感染者数×数人の濃厚接触者たちがゴロゴロといるのだ。170人が感染すると、その何倍もの濃厚接触者がいるわけだから、それはもう社会的にも影響は大きい。
一方で驚いたのは、発熱した子どもに病院で処方されたのは解熱鎮痛剤のカロナールで「え? ただの風邪じゃん」と拍子抜けしていた。幸い症状も軽く1日で子どもの熱も落ち着き、家族で巣ごもり生活を頑張っている。学校からは学習範囲の連絡もあって、親子で勉強の時間、体を動かす時間等々メリハリを意識して過ごしているみたいだ。大変なのは買い出しで、自宅療養者への行政からの支援(食料など)は感染者本人のみで、濃厚接触者には何もない。「なんだよそれ」とも思うが、そうなっている。一家4人が丸ごと自宅監禁みたいになっているのに、1人分だけ届けられる。だから、友人や知人が買い出ししては届けないと、食料の確保すらままならない。実質的に感染者として本人以上に隔離生活をよぎなくされるわけで、そこへの支援も必要なのではないかと思う。
保健所から届いた一人分の食料
あと、10日間の隔離開けは特にPCR検査もなく、「勝手に社会復帰して下さい」となっている。散々隔離しといて、最終確認はいらないんだ…と驚いていた。軽症者の場合、症状があまりにもたいしたことがない割に自主隔離が重くのしかかり、そのギャップへの戸惑いもあるようだ。疫病なので仕方がない側面もあるが、それで大量のエッセンシャルワーカーが戦線離脱して社会的機能が維持できないという問題にもなる。病院などは大変だ。
B 軽症者はほぼ自宅療養という扱いで、入院やホテル療養は限られている。下関の場合、医療現場の逼迫を避けるために行政が消防署界隈と駅界隈に二つのホテルを確保しているが、軽症者はほとんど自宅療養となっている。その他に入院するほどでもない人がホテルに回されているようだ。ただ、ホテル療養に回された知人がビックリして電話で連絡してきたのだけど、当初高熱が出て3日間は自宅療養、そこから病院に移されて2日間は入院して点滴治療し、3日目にホテルに移った際に外出許可も出て、普通に周辺のコンビニで買い物ができるという。えっ? と一瞬言葉を失ったのだけど、隔離といっても随分緩いもんだな…と思った。そんな状況みたいだ。界隈のコンビニ店員は堪らないだろうけど、恐らく気付いていないのだろう。
第5波収束から2カ月 国は何をしていたのか
A とにかく連日のように過去最大の感染者数が発表されはじめ、保健所はパンク状態だ。下関市内にある各保健センターを休館にして本部に人員を集約したり、市役所の各課から応援職員の派遣もあるが、それでも業務が逼迫している。感染拡大のスピードが急激で、人員的にも手に負えるレベルではなくなっている。この2年で10`c痩せた職員とかもざらにいるが、濃厚接触者への連絡であったり、一人一人への対応をこなし、日夜火の車になって走り回っている。
しかし、初期のように1日の感染者10〜20人というレベルをこえているため、最終的にお手上げ状態にならざるを得ない。ガンガンPCR検査ができるのならまだしも、ここにきて試薬が足りないとか抗原検査キットすら足りないなかで、どうしろというのか! が現場の本音だろう。迎え撃つ備えがなかったことが露呈している。これは下関に限らず全国的に共通している。
D 第5波が収束した秋口からの2〜3カ月で、国はいったい何をしていたのかと思う。専門家は必ず第6波がくると早くから指摘していたし、備えあれば憂いなしで、第六波に備えてせめてPCR検査の体制であったり確保くらいに動いておかしくないのに、今になって抗原検査キットの増産をメーカーに求めたり、全てが後手後手だ。オミクロン株の感染力がすさまじいのもあるが、最悪に備えた体制を事前に整備しなければならないし、いざ感染爆発して「たいへんだ〜!」とサイレンだけ鳴らせばいいというものではない。
「まん延防止」措置もまん延してから後手後手でやるのではなく、まん延初期に大胆に措置を講じて補償するなり、しっかりと打つべき手段だろうに、すっかりまん延してから仕方なしに出すような風だ。タイミングとしても遅すぎる。緊急事態宣言も補償したくないものだから出し渋って、結果として毎回まん延を招いているではないか。
飲食店なども生殺しのような状態が延々続いて、相当に弱っている。コロナ関連の借り入れの返済が始まったらバタバタいくのではないか…と地銀の関係者も心配していた。かつがつ持ち堪えているようなところは、下関のような田舎の地方都市を見ただけでも少なくない。
C 第1波からこの方、とにかく日本政府としてはPCR検査抑制に動き、そのために感染の真の実態がつかめないし、つかもうとしないのが特徴だった。東京五輪もあるし、感染者数を少なく抑えたいという意図もあったのだろう。その度に、理由は分からないけれど収束を迎え、第5波も「なぜか理由はわからないけど収束しました」になった。いつも為す術なく、「たいへんだ〜!」の緊急サイレンを鳴らすだけか、最終的には「神様、仏様お願いします」みたいな祈祷式スタイルに逃げ込んでいくのだ。いくら天皇家があって国家神道でございといっても、祈るだけではなくて科学的に疫病対策をしろよ! と思うのだが、検査体制すら整備しない状況は2年経っても何も変わっていない。そこに第6波が襲いかかっている。
今になって抗原検査キットすらないというのは弛緩しているとしかいいようがないし、どうかしている。そして、最近ではPCR検査もせずに医師が様子を見て陽性判断するなどといい始めた。もう、こうなると科学的対応云々のレベルではなく、陽性でも陰性でも構わないから、疑わしきは家にすっこんでろ! という対応なのだ。神奈川県では自ら検査して「自主療養」し、食料調達も自己責任でやれといっている。何もしないよ! を宣言しているようなものだ。初期にはまだ感染症対策もどきもできるが、感染爆発したらお手上げとなる。本来なら感染爆発しているからこそ、行政や政府の本気の疫病対策が実施されなければならないのに、その逆をいっている。まさに万歳降参の姿そのものなのだ。
A 第5波では、五輪開催と同時進行で自宅療養という名の実質放置もやられ、救急搬送もままならず自宅でなくなった感染者だっていた。オミクロン株はデルタ株より重症化リスクは低いとはいえ、それでも1日に何十万人という感染者が発表されているアメリカでは1日で2000人が亡くなったりしている。感染者の母数が増えれば、それだけ重症者の数も相応に出てくるわけで、「オミクロンなんてただの風邪」ともいえない恐さがある。また、現実には変異株置き換わりの渦中でデルタ株も混じっていて、厄介さを伴っている。
D 世間全体の空気としては、いうといわずと「オミクロン、たいしたことないじゃん」みたいなものも一方で醸成されていて、それは確かに軽症者がほとんどであることとも関わっているのだろうが、疫病であることには変わりない。弱毒化して終息に近づいているのなら朗報だが、最近ではステルス・オミクロンなる株も発見されて、第七波がこないとも限らない。日本社会で死者数が第5波に比べて少ないのはオミクロン株の性質のおかげなのかも知れない。これがデルタ株以上の変異株だったら、現行の第6波はもっと悲惨なものになっていたことは疑いない。だって、為政者としてはそもそも検査する気すらないし、野放しが実態なのだ。「なるようにしかならない」式で第1波からこの方ずっときている。検査・隔離があくまで防疫の基本だろうに、検査も隔離も自己責任となると、それは何もやらないといっているのに等しい。
B 軽症者が多いということと、カロナールとか葛根湯で治る程度の病気であれば、感染者全員を入院させるのも確かに非現実的で、自宅療養を十把一絡げに批判するのもまた違うのかもしれない。中等症及び重症者を確実に治療できる体制を守り、第5波のように自宅で急変みたいな事態だけは避けるような体制がベストなのだろう。ただ、その場合に、ほとんどが自宅療養になるかわりに濃厚接触者に認定される陰性の家族等への影響が絶大すぎる。そのギャップは解決すべきものがある。このまま万単位で日々感染者が増大すれば、その濃厚接触者も含めて相当数が社会活動を制限され、社会機能が維持できなくなることも十分にあり得ると思う。現実的な対応が問われている。
A いずれにしても検査・隔離を徹底しないことには疫病禍は抑えようがない。政府対応の後手後手が意図的なものなら、それは「感染力が強いけど軽症がほとんどだし、アフリカだってワクチン打ってないのに収束したんだから、最終的には集団免疫を獲得したらいいんじゃない?」という本音も見え隠れしているように見えてならない。第6波はまだまだ爆発過程でピークがいつになるのか、どう収束するのかは誰にもわからない。「楽観視はできない」と専門家がいう以上、引き続き警戒しなければならないのが現実だ。
そして、社会生活が制限されて生活に困っている国民がわんさかいるなかで、現金給付や補償を間髪入れずに実施することが必要だ。国会も、維新と立民のヒットラー騒動とかやっているが、そんなものは平時にやりやがれ! と思う。今もっとも熱を注がなければならないのは、疫病対策とそのもとで疲弊している国民生活の底上げだ。オマエら、どこ見て政治をやってんだ! と思う。
政府の分科会が何らのイニシアチブもとれていないが、やはり科学者や専門家の有用な判断や発言こそが求められているのではないか。
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