http://www.asyura2.com/22/senkyo285/msg/277.html
Tweet |
元検事・郷原信郎氏が疑問視。森友裁判で国があえて認諾を選んだ「3つの理由」
https://www.mag2.com/p/news/525085
2022.01.18 『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』 まぐまぐニュース
先日掲載の「『安倍隠し』に血税1億。森友裁判“認諾”に怒らぬ日本国民の腑抜けぶり」でもお伝えしたとおり、森友問題で自死に追い込まれた財務省職員の妻が真相を知るために起こした裁判を、「認諾」で終わらせた国。損害賠償額が1億円を超えるこの訴訟において、なぜ国は争うことなく責任を認めるという選択を行ったのでしょうか。今回のメルマガ『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』では元検事で弁護士の郷原信郎さんが、考えうる3つの理由を専門家の目線で考察・解説しています。
【関連】「安倍隠し」に血税1億。森友裁判“認諾”に怒らぬ日本国民の腑抜けぶり
プロフィール:郷原信郎(ごうはら・のぶお)
1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。
赤木雅子氏国賠訴訟、「請求認諾の決裁権限」は法務大臣にある
森友学園への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題で、改ざんを強いられ、自死した同省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻雅子さんが、国と佐川宣寿・元財務省理財局長を訴えた訴訟で、国が「請求を認諾」した。
「裁判」というのは、「真相解明」を目的としてするものではなく、あくまで原告の請求の存否を判断する手続きにすぎない。
そうである以上、被告が、その請求権があることを認める「認諾」をしてしまえば、裁判所が請求権の存否を判断する必要はなくなる。それ以上裁判を継続する意味はなくなるので、裁判はそこで終了することになる。
佐川氏も、個人として損害賠償請求を起こされており、こちらの方は認諾の対象ではないので、訴訟としては残る。
しかし、公務員の不法行為による損害賠償請求については、賠償責任を負うのは国で、不法行為を行った個人は、故意又は重大な過失がある場合に国から求償を受ける立場に過ぎない。
一般的には、国賠訴訟の対象となる事案で、公務員個人への賠償請求が認められる可能性は殆どない。敢えて佐川氏も被告に加えているが、請求としては無理筋だ。証人尋問等による立証に入ることなく裁判は終了するものと考えられる。
結局、国が請求を認諾したことで、この訴訟は事実上決着することになる。
赤木雅子氏は「負けたような思い」と新聞でコメントしていた。
夫が改ざんを強いられ自殺に追い込まれた真相を明らかにすることが訴訟の目的だったのだから、請求の認諾は、まさにその思いを踏みにじるものだ。
原告代理人弁護士も、国側が認諾することができないよう、請求額を、何とか理屈のつく範囲内で増額し、通常の判決で認められるレベルを相当上回る金額にしていたはずだ。
ところが、国側は、それでも「認諾」によって、訴訟を無理やり終結させてしまった。
裁判の中で事実関係が明らかになることを、なんとしてでも避けたかったからだろう。
原告の請求を丸ごと認めることで、国が、その金額を原告の赤木雅子氏に支払うことになるが、その原資は国民の税金だ。
なぜ、こうまでして、国の側が、国賠訴訟で事実審理が行われることを避けようとするのか。
事件当時、理財局長だった佐川宣寿氏の証人尋問か、その際の官邸側とのやり取りが明らかになることか、いずれにしても、国民の負担で事実を隠蔽しようとしているとすれば、国民にとって到底受け入れ難いことだ。
この請求認諾について、財務大臣が、「いたずらに訴訟を長引かせるのも適切ではなく、また決裁文書の改ざんという重大な行為が介在している事案の性質などに鑑み、認諾するとの判断に至った」と説明しており、あたかも、財務省の判断で請求認諾が行われたように思われている。
しかし、国賠訴訟への対応の当事者は法務大臣であり、法務大臣が請求認諾の最終決裁権限を有している。
なぜ請求認諾が行われたのかを考える上でも、この点は重要だ。
国家賠償訴訟が被告の国側の請求認諾で決着するというのは極めて異例だが、比較的最近の例が一つだけある。
村木厚子氏が大阪地検特捜部に逮捕・起訴された事件で、一審無罪判決が出た後にフロッピーディスクの証拠改ざんの問題が明らかになり、検察は控訴を断念、一審で無罪が確定した。
この事件で、「検察の起訴が不法だった」として村木氏が国に対して国家賠償請求訴訟を提起したのに対して、国は請求を認諾し、訴訟は決着した。
この事件は、証拠改ざん問題の発覚で、検察が国民の猛烈な批判に晒されている状況だった。
起訴した事件が無罪になった場合でも、起訴について広範な裁量権を持っている検察に国家賠償責任が認められることは極めて稀だ。
何か個人的な動機で不当な起訴を行った場合など、起訴自体が犯罪に当たるような場合でない限り、検察官の起訴が国賠法上違法となることはない、という判例があるからだ。
村木氏を逮捕・起訴した検察の不法行為を原因とする国賠訴訟も、それまでの裁判例に照らせば、村木さんが勝訴する可能性は必ずしも高くないようにも思われた。
実際に、検察は村木氏の事件の検証を行い、その報告書を、私も委員として加わった「検察の在り方検討会議」で報告しているが、そこでは、主任検察官による「証拠改ざん行為」と、それを隠蔽したとして検察自らが犯人隠避罪で起訴していた当時の大坪弘道特捜部長、佐賀元明副部長の行為については「弁解の余地なし」としており、村木氏の事件での検察官の取調べでも不当な対応があったことは否定しなかったが、大阪地検特捜部の起訴自体が不当で検察官の過失によるものとの判断は示されていなかった。
本来であれば、村木氏の国賠訴訟でも、請求棄却を求めて争っていたはずであり、その結果、従来の判例に照らせば、請求棄却となっていた可能性も十分にあったように思える。
そういう国賠訴訟を、村木氏が敢えて起こしたのは、なぜ、自分が逮捕・起訴されたのか、真相を知りたいということだった。
しかし、法務・検察としては、国賠訴訟の場で、真相解明に向けての審理が行われることは、何としても避けたかったはずだ。
証拠改ざん問題が発覚して、検察批判が吹き荒れており、「検察の在り方検討会議」等も開かれるなどして、検察問題に対して社会の関心が高まっていた時期だった。
それだけに、検察内部で検察幹部が捜査・起訴の判断に誰がどのように関わったのか、証拠改ざんやその隠蔽に誰がどのように関わったのかなど、事件の経過が国賠訴訟の場で具体的に明らかになることは絶対に避けたいと考えたはずだ。
そういう法務・検察の意向によって、請求を認諾することになり、それを法務大臣が最終決裁したのであろう。
この事件では、「請求認諾」の判断は、法務省内部で完結していたものと考えられる。
森友学園への土地売却に関する決裁文書改ざんについても、財務省の公文書・決裁文書の改ざん自体は、財務省も公式に認めているが、改ざんと赤木さんの自殺がどういう関係なのかということや、誰が赤木さんを追い込んだのかなどは、財務省の調査報告書でも十分に明らかにされていなかった。
だからこそ、赤木雅子氏は、真相解明を目的に国賠訴訟を提起したのだった。
本来であれば、国は、国賠訴訟の被告として自殺との因果関係や損害賠償額を争う余地は十分にある。
しかし、国は、請求を認諾し、事件の真相に蓋をしてしまった。
そういう意味では、財務省の決裁文書の改ざんを実行させられた赤木氏が自殺に追い込まれた経緯を明らかにしようとした赤木氏の国賠訴訟と、証拠改ざん事件での批判にさらされた検察にとっての村木氏の国賠訴訟とは、いずれも請求認諾で訴訟が決着した構図は共通していると言える。
しかし、この2つの国賠訴訟の請求認諾には、決定的に異なる点が2つある。
1つは、請求金額である。
村木氏の国賠訴訟での請求額は、約2,800万円と比較的低額で、ある意味では合理的な金額だった。
検察の起訴を問題とする国賠訴訟では、そのような金額の請求が認容される可能性は低いものの、それ程大きな金額ではなかったので、国としても、請求を認諾しやすかったといえる。
それに対して、赤木氏の国賠訴訟での請求額は1億円を超えており、従来の国賠訴訟の常識からすると、請求を認諾して請求額をそのまま国が支払うことなど、到底考えられない金額だ。それは、村木氏の国賠訴訟の事例を考慮し、国が簡単には請求を認諾できないようにするために、原告代理人が敢えて、請求額を高額にしたからだ。
特に、死亡による慰謝料の金額は、損害賠償訴訟における一般的基準があり、国を代表する立場の法務省として、それを大きく上回る金額の請求を認諾するというのは、理屈が通らない。
そういう意味では、請求を認諾することに対するハードルは、村木氏の国賠より、赤木氏の国賠の方が遥かに高かったはずだ。
もう1つは、国賠訴訟で請求を認諾する最終的な決定権限者と、その賠償責任の対象となる不法行為の当事者の省庁との関係である。
「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」では、「国を当事者又は参加人とする訴訟については、法務大臣が、国を代表する」とされているので(第1条)、国賠訴訟について国を代表するのは法務大臣であり、訴訟対応を担当するのは法務省(所管部局は「訟務局」)である。
つまり、国賠訴訟において、原告の主張に対して反論や反証を行うのは法務省であり、請求の認諾も、法務省内での検討を経て、最終的には法務大臣が決裁をする。
そういう意味では、検察不祥事で社会から厳しい批判を受けていた検察庁は、もともと、法務省と一体で、「法務・検察」と呼ばれ、法務省の幹部の多くは検事なのだから、法務省として検察の意向に従い村木氏の国賠訴訟の請求を認諾するというのは、ある意味では自然な流れで行われたと考えられる。
しかし、赤木氏の国賠の方は、それとは異なる。
決裁文書の改ざん問題の当事者は、財務省であり、法務省とは別個の組織だ。
本来、法務省では、国賠訴訟への対応は、原告の請求の当否や立証の可能性など、訴訟代理人としての検討結果に基づいて対応すればよいはずであり、必ずしも財務省側の「意向」に従う必要はない。
しかも、赤木氏の国賠訴訟の認諾は、上記のとおり、かなりハードルが高い。
では、なぜ、法務省は、そのようなハードルの高い赤木氏の請求を認諾したのか。法務大臣は、なぜ、そのような請求認諾を最終決裁したのか。
そこには、3つの理由が考えられる。
第一に、赤木氏の自殺の動機になった決裁文書改ざん当事者である財務省の事情だ。この場合、法務省は財務省の要請を受けて、法務大臣が請求認諾を最終決裁したことになる。
財務省としては、決裁文書の改ざんに関しては調査報告書も公表しており、それ以上に、改ざんに至った経緯や、佐川氏などの当時の財務省幹部の関与等の事実関係が明らかになるような証人尋問等が行われることを回避したいと考えた可能性はある。
第二に、内閣の意向によって請求認諾が行われた可能性だ。岸田政権側の政治的判断によって、内閣に属する法務大臣が請求認諾を決断し、法務省内の担当部局に指示したということになる。
そのような政治的判断を岸田首相が行ったとすれば、それは、決裁文書改ざんとの関係が取り沙汰された安倍元首相への配慮から、国賠訴訟で決裁文書改ざん問題の真相が明らかになることを阻止したことになる。
もう1つ、第三に考えられるのは、国賠訴訟への対応を決定する権限を有する法務省の組織内の事情だ。赤木氏の自殺に関して真相が明らかになることを回避したい動機があった可能性というのもあり得る。
赤木氏の自殺の直前まで続いていた検察官の取調べが、赤木氏の大きな心理的負担になっていたこと、その際の検察官の対応にも問題がなかったとは言えないこと、そもそも、赤木氏がそのような状況に追い込まれる原因となった決裁文書改ざんが表面化したのが検察からのリークである疑いも指摘されていることなど、赤木氏の自殺の原因と検察とは無関係ではない。
そして、決裁文書改ざんに関するすべての刑事事件を不起訴処分で終わらせて批判されたのも検察だ。そういう検察にも、赤木氏の国賠訴訟を請求認諾で終わらせたいとする動機はある。そういう検察と法務省とは組織として一体の関係にある。
このような財務省側の事情、内閣の政治的判断、法務省内の組織である検察に関連する事情の3つが重なり合って、法務大臣の最終決裁によって、国賠訴訟での請求の認諾による訴訟の決着が行われたものであろう。
赤木氏の国賠訴訟で1億円余の請求を認諾するという前代未聞の国の対応が行われた経緯が明らかになれば、それによって、赤木氏が自殺に追い込まれた経緯についての真相に迫ることができるはずだ。
image by: Gil Corzo / Shutterstock.com
郷原信郎 この著者の記事一覧
1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事として独禁法運用強化の枠組み作りに取り組む。東京地検特捜部、長崎地検次席検事等を通して、独自の手法による政治、経済犯罪の検察捜査に取組む、法務省法務総合研究所研究官として企業犯罪の研究。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。同大学コンプライアンス研究センターを創設。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK285掲示板 次へ 前へ
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK285掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。