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プーチン大統領 対欧米戦略の内幕/石川一洋・nhk
2023年04月03日 (月)
石川 一洋 専門解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/481562.html
ウクライナへの軍事侵攻を続けるプーチン大統領は中国などとユーラシアの統合を進めることで欧米と対峙する戦略を強めています。しかし政権内部は、戦争の泥沼化の中で必ずしも一枚岩とは言えません。これまでの取材に基づきプーチン大統領の対欧米戦略の内幕を考えてみます。
プーチン大統領は先週、新たな外交戦略を承認しました。欧米のリベラリズムを否定する保守色の強い外交戦略です。中国などと連携してアメリカ中心の世界秩序を転換するとして欧米と対抗する姿勢を明確にしました。そのキーワードとなるのがユーラシアの統合です。
かつてプーチン大統領はリスボンからウラジオストクまでの経済統合を唱え、ヨーロッパとアジアを繋ぐユーラシア国家として欧米とも協調した形でロシアの発展を目指しました。しかしウクライナへの軍事侵攻で、プーチン氏は自ら葬り、この道を閉ざしました。
今、プーチン大統領が掲げるのは全く異なる、中ロを軸とした反欧米のユーラシアの統合です。「自由と民主主義」という欧米の価値観を受け入れず、それぞれの国の独自の道を選ぶというプーチン大統領の言うところの“主権を持つ国”の連携を強化したいという戦略です。権威主義国家の連合ともいえ民主主義国家の団結を唱えるバイデン大統領の戦略の裏返しとも言えないこともありません。
こうしたプーチン戦略を体現しているのが、経済学者のセルゲイ・グラジエフ氏です。かつては改革派の経済学者でしたが、次第に国家主導の経済政策への転換を唱え、政治的には欧米に対抗する保守強硬派の理論家となりました。プーチン政権では、ユーラシアの統合を担当し、反欧米のユーラシア統合の理論的な支柱とも言える存在です。
彼はウクライナでの戦争はアメリカが中ロなど主権国家に仕掛けたグローバルな戦争の一段階ととらえています。
「アメリカはまずロシアとヨーロッパ、特にドイツをパイプラインの破壊で切り離した。次の段階はロシアへの支配を確立する。そしてイランを破壊し、最終段階は中国を屈服させる。この最後の中国の屈服がアメリカの主要な目的だ。アメリカの仕掛けたハイブリッドな戦争でロシアでは革命を起こそうとしている」
アメリカと中ロとのグローバルな対立だとするきわめて強硬な考え方です。
ロシアは中国とともにアメリカ抜きのユーラシアの統合を実現し、アメリカの覇権を覆すべきだとしています。この戦略に基づけば、戦争は長期にわたって続くことになるでしょう。ウクライナへの侵略戦争を始めたのはロシアであることを忘れたかのような身勝手な論理ですが、グラジエフ氏の考えがプーチン大統領に最も近いように思えます。
この戦略の眼目はグローバルな対立とすることで、中国をいわばロシアの側に巻き込もうという戦略です。中国もこうした戦略で一致するのかどうか。中露の間では「ロシアの敗北は中国にとっても利益にならない」ということでは一致するものの、中国と相談することなく戦争を急いだプーチン大統領に対して、アメリカとの覇権争いを中国はより長い時間軸で考えているように思います。今の時点では、中露の思惑・戦略のズレも露見しています。
ロシアでは戦争が続く中、来年の大統領選挙に向けてテロ事件が起きる可能性があります。昨日、サンクトペテルブルクのカフェで爆弾テロがあり、軍事侵攻を積極的に支持してきた軍事ブロガーが殺害されました。ロシアの捜査当局は反体制活動に参加していた若い女性を容疑者として逮捕しました。しかしテロの背後に誰がいるのか、ウクライナか、ロシア内部か、まだ分かりません。
ロシアではアメリカのWSJの記者が先週スパイの疑いで逮捕され反米と国内の締め付けを強めています。
去年、ノーベル平和賞を受賞したロシアの人権団体メモリアルについてもロシアに残った幹部のオルロフ氏に対して、先月軍を侮辱したとして、刑事捜査を始めました。ただオルロフ氏は私の取材に対して、プーチン体制の内部は、混乱していると分析しています。
「プーチンは非常に困難な立場に立たされています。自分で解決することのできないことに首を突っ込んでしまいました。しかし手を引くことはできない。クレムリンでは彼の側近の間でこの戦争をどうするのか議論が行われています」
オルロフ氏は根っからの反体制派でいわばプーチン大統領の政敵です。ただ長年、体制と対峙してきただけに、「クレムリンの中で戦争の終わり方について議論が行われている」という分析には根拠があり、傾聴すべきだと私は思っています。確かに体制の内部には、私の取材でも混乱が見られます。
戦争目標について取材したプーチン体制と繋がりの深い2人の政治学者の間でも意見が分かれます。
1人はプーチン氏の大統領選挙にも深く関わる政治情報センターのアレクセイ・ムーヒン所長、もう1人は強硬な対欧米戦略の策定に関与している高等経済学院のドミトリー・スースロフ教授です。
2人のうちより強硬な見通しと分析を示しているのは内政専門のムーヒン所長です。
「勝利まで戦うという社会的な合意がある」とした上で次のように述べました。
「どちらも停戦を望んでいない。ロシアにとって停戦すれば、欧米によるウクライナの軍事力強化が進むだけだ。したがってロシアの唯一の選択肢はウクライナの“非ナチ化、非武装化、中立化“という特別軍事作戦の目標達成だけだ」
ムーヒン氏は、プーチン氏自身は決定していないとしたうえで、「川を渡るときに馬を替えるな」というロシアの諺を引用して、欧米との厳しい対立の中で大統領を替えるのは得策でないとして、プーチン再選に向けての基本プランが動き出していると証言しています。
一方スースロフ教授は、来年初めまでは激しい戦闘が続くとした上で、全く別のシナリオを考えています。
「おそらく今年の終わりから来年の初めに紛争の凍結について交渉が始まるだろう。解決ではなく凍結だ。朝鮮戦闘の停戦のような形だ。新たな国境を認めることもなく、ロシア制裁が解除されることもなくそもそも和平ではない。が無期限の停戦だ」
朝鮮戦争方式とはウクライナとロシアの戦争状態はそのままだがある境界線を境に停戦するということです。その理由としてスースロフ教授は、「ロシアも、欧米の支援するウクライナも、どちらも完全な勝利は不可能だ」としたうえで、「ロシアもウクライナに勝利するには経済的、軍事的、人的な資源が足りない」と認めています。またどちらかが一方的な勝利に近づくことは、逆にロシアとNATOの直接的な衝突の危険を増して、状況をエスカレートする恐れがあり、紛争の凍結のほうがましだとしています。
2人の認識の違いはクレムリン内部の混乱を反映していると私はみています。
ただ朝鮮戦争方式の紛争の凍結を唱えるスースロフ教授の分析も、領土の奪還を目指すウクライナ、そしてロシアに利益を与えてはならないとするアメリカには現段階では受け入れ難いものでしょう。あくまで正義と公正な平和を求めるのがウクライナの立場でしょう。
しかし今後の戦闘の状況によっては紛争凍結に向けた交渉が浮上する可能性は排除できません。
プーチン体制の内部も一枚岩ではなく、また中国とロシアの間にも思惑の違いがあります。それを冷静に分析し、圧力を含めて外交に活かすことが日本を含めて欧米にも求められています。
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