米国がウクライナにテロやらせてプーチンを強化 2022年10月11日 田中 宇 10月8日、クリミア大橋で爆破テロが起きた。クリミア半島とロシア本土をつなぐこの橋は、2014年に米国が政権転覆によってウクライナを傀儡化してロシア敵視国に転換し、対抗策としてロシアが、重要なセバストポリ軍港を擁するクリミアを自国に併合した後、2015-18年に建設した。クリミア半島はウクライナと陸続きだが、ロシアとは海を隔てており、ロシア併合後の流通の円滑化に橋の建設が必要だった。クリミアはもともとロシア領で、ロシア系住民が多いが、1950年代に権力者だったフルシチョフが策略の一つとしてウクライナに編入した。ソ連時代はロシアもウクライナもソ連国内だったため、クリミアがどの共和国に属しているかは大した問題でなかった。ソ連崩壊後、ロシアは、外国となったウクライナがクリミアを領有することを認めたが、その条件は、ウクライナがロシア敵視の国に変質しないことだった。 (Large Explosion Destroys Part Of Key Bridge Linking Russia To Crimea; Zelensky: This Is "The Beginning")ウクライナは、冷戦後の当初、ロシアとの関係がわりと良好で、セバストポリ軍港をロシアに貸与していた。だが、2014年の政権転覆でロシア敵視の米傀儡国になった後、ロシアへの軍港貸与をやめると発表した。ロシアは、クリミアをウクライナ領のままにしておく条件が失われたと判断し、ロシアへの編入を問う住民投票を経てロシアに併合した。その後、クリミア大橋が建設された。米傀儡のウクライナ政府はクリミアが自国領であると主張し続け、クリミアを武力で奪還する、クリミア大橋を破壊する、と言い続けてきた。今回の爆破直後、ゼレンスキー大統領の側近(Mikhail Podoliak)が「これは始まりにすぎない」と英語でツイートし、ウクライナ当局が橋を爆破したこと、今後もロシアに対して似たような攻撃を続けることを示唆した。 (Observers: Crimean Bridge Attack Takes Ukraine Crisis to New Phase Where Infrastructure is Fair Game) (Putin Decries "Act Of Terrorism" On Crimean Bridge, Identifies Ukraine Secret Services As Culprits) これとは別に、米国の報道によると、匿名のウクライナ高官が、大橋の爆破がウクライナ当局によるものだと認めている。また、ウクライナ政府は爆破の数時間後、爆破を祝賀する記念切手の発行を発表している。発表のタイミングからみて、ウクライナ当局は大橋の爆破を計画・挙行し、記念切手の発行まで事前に決めていた可能性が高い。ロシア政府は10月10日、クリミア大橋の爆破はウクライナ(内務省)の秘密警察(諜報機関)によるテロ行為だと発表した。これらの状況からみて、大橋を爆破したのはウクライナ当局である。ロシア軍は10月10日、クリミア大橋へのテロ攻撃への報復として、ウクライナ国内20都市のインフラをミサイル攻撃して破壊した。 (Senior Ukrainian Official Confirms Ukraine Orchestrated Truck Bomb Attack On Crimean Bridge; NYT Reports) (Ukraine unveils stamps celebrating Kerch bridge explosion - hours after the attack) ウクライナのゼレンスキー政権は米国の傀儡だ。ウクライナの軍事行動は、米諜報界(とその傘下にいる英諜報界)の指示で行われている。ウクライナは、米英がやれと言った作戦をやり、米英が反対する作戦はやらない。クリミア大橋の爆破も、米英の指示もしくは許可のもとで行われたはずだ。米諜報界は2014年にウクライナを政権転覆してロシア敵視の米傀儡国に変質させた後、CIAや米軍特殊部隊などの諜報要員・軍事顧問が多数ウクライナに駐留し、東部の露系住民との内戦を激化してロシアを怒らせる策略をやり続けてきた。米国の軍事諜報要員たちは今年2月のウクライナ開戦前にいったん引き揚げたが、その後戦争の長期化とともに再びウクライナに戻り、今では開戦前より多くの米要員がウクライナに駐留し、ウクライナの軍や極右民兵団、内務省などのために、戦闘やプロパガンダの戦略を練っている。この戦争の実体は、米国がウクライナの皮をかぶってロシアと戦争している(米国が直接ロシアと戦争すると核戦争になってしまうので、低強度にするために皮かぶり)。 (CIA, US Special Forces Presence Now "Far More Extensive" In Ukraine: Report) (UN: Ukraine nuclear power plant loses external power link) ウクライナの皮をかぶった米諜報界は最近、ロシアに対するテロ攻撃や越境攻撃を激化している。8月中旬には、露軍が占領しているウクライナ北部のザポロジエ原発をウクライナ軍が攻撃し始めた。米ウクライナ側は、露軍が原発を攻撃しているかのようなウソを流布し続け、多くの人がそれを軽信してしまっているが、攻撃しているのは米ウクライナ側だ。最近、ウクライナ戦争をめぐるウソを暴露し続けている米教授のジェフリー・サックスが、ザポロジエ原発を攻撃しているのはウクライナ軍だし、ノルド・ストリームのガスパイプラインを爆破したのは米国だと事実を暴露し、番組を降板させられたりしている。ザポロジエ原発は、米ウクライナからの攻撃で電源を失い、大事故の一歩手前の状況だ。対策として、ロシア政府は原発をウクライナから没収してロシア政府の資産に転換し、本格的な管理と対抗策を開始している。国連IAEAは、米国のプロパガンダに逆らわず、誰が原発を攻撃しているかを言わないまま、問題解決のために露政府と話し合っている。 (Professor Sachs: "Ukraine Needs To Stop Bombing Nuclear Power Plant And Blaming It On Russia") (悪いのは米国とウクライナ政府) 8月20日には、ロシアのユーラシア覇権拡大の運動を支援してきた評論家アレクサンドル・ドギンの娘で、父の広報担当者だったダリア・ドギナ(ダリア・ドゥギナ)がモスクワ郊外でウクライナ諜報機関によって爆殺されるテロ攻撃が起きた。ウクライナ政府は自分たちの犯行でないと言っていたが、今月に入って米諜報界が、ウクライナ当局がダリアを殺したことを認めた。ウクライナは米国の許可なしにこの手のことをやらない。米諜報界がウクライナにやらせたテロだろう。最近起きた事件としては、ロシアのガスをドイツに送っていた独露共同建設のノルドストリームの海底パイプラインを爆破して同盟国のドイツを困らせたのも米国だった。 (US Intelligence Places Blame For Dariya Dugina's Assassination On Ukraine) (Kiev terror tactics nothing new, Putin says) 米ウクライナは8月ごろから、大砲やドローンを使ったロシア国内への越境攻撃を激化している。米国がウクライナに提供した大砲による越境攻撃は9月末から急増した。露政府は軍事作戦の中身や戦況をすべて極秘の機密にしており、当初この越境攻撃は(世論の反発を懸念して?)報じられなかったが、露議会の議員が情報の非公開に不満を表明したため露側で報道された。この越境攻撃や爆破・爆殺のテロなど、米ウクライナがロシア国内への攻撃を激化していることに対応するために、露政府が最近、国民を動員する新体制を組んだと考えられる。 (Number of Ukraine’s attacks at Russian bordering regions grows significantly - FSB) (Top Russian MP blasts Defense Ministry over Ukraine) 露政府が国民に動員をかけ、徴兵逃れをしたいロシアの若者たちが国外逃亡を企て、これを米国側のマスコミが「ロシアは負けつつあるので必死で動員をかけている」と喧伝した。露国民から政府への不満も増え、プーチンの支持率は82%から77%へと5ポイント低下した。だが、このままプーチンの支持率が落ち、露国民の厭戦機運が強まるとロシアの敗戦もあり得る、と米国側が喧伝する中で、米諜報界がウクライナにクリミア大橋を爆破するテロをやらせた。このような劇的なテロ事件の発生は、テロ対策を担当するロシア政府への国民の支持率を高める。911テロ事件が米国を一変させたことが象徴だ。 (Putin Approval Dips For First Time After Ukraine Invasion) (特殊作戦から戦争に移行するロシア) 今回、米ウクライナが大橋を爆破し、ウクライナ政府が歓喜し、米マスコミがロシア敗北への道を喧伝した。この「テロ攻撃」に対する報復として、プーチンがウクライナに大規模な攻撃を行った。露政府は、テロ対策として露国内の有事体制を作りやすくなり、米ウクライナと戦うプーチンへの露国内からの期待が強まる。米諜報界は、ウクライナにクリミア大橋を爆破させることで、ロシアにおけるプーチンへの支持を高め、露政府が有事体制を作りやすい状況にしてやった。米諜報界は、プーチンのロシアを強化している。隠れ多極主義的だ。 (世界を多極化したがる米国) (Russia, Having 'Run Out Of Missiles', Launches Barrage On Ukraine) 米諜報界がウクライナにロシア攻撃を強めさせて戦争が激化するほど、プーチンのロシアは、優勢が確実でなくなり、ゆっくり展開しようとしていた米覇権を潰す経済戦争の策略を早回しする傾向を強める。先日、露ロシアとサウジアラビアが共謀してOPEC+が石油の減産を決め、石油価格の高騰によって米欧のインフレが悪化する流れになったことがその一例だ。以前のように、ロシアが優勢の中でウクライナ戦争をゆっくり展開していられた時期(米国側がロシアの劣勢や敗北を間違って思い込んでいた時期)が今後もずっと続くなら、ロシアが経済戦争の分野であまり動かなくても、米国側が勝手に石油ガスの輸入を止めてエネルギー危機を起こし、米英中銀群もQE終了QT拡大と利上げで金融崩壊も起こり、2-3年以内に米覇権が自滅していく流れだった。 (米英覇権を潰す闘いに入ったロシア) (産油国の非米化) だが、ゆっくりやっていると米覇権が(QE再開などで)延命してしまう可能性が増す。そのため、多極派が牛耳る米諜報界は、ウクライナをけしかけて爆破テロや越境攻撃をやらせて戦争を激化させ、プーチンが以前のようなゆっくりさでなく、もっと急いで米覇権を潰す経済戦争を加速するように仕向けていると考えられる。米諜報界は多極化のために、プーチンをけしかけるだけでなく、欧米の労働組合を動かして賃上げ要求のストライキをやらせ(左翼活動家の中に米諜報界の要員・傀儡がいる。たぶん日本でも)、フランスの製油所を2週間止めてガソリンなどの供給を大幅に急減させて、欧州のインフレを悪化する動きも展開している。長引く米国の流通網の詰まりも、インフレを激化させるための米諜報界の策略の「成果」と考えられる。 (With A Third Of French Gas Stations Experiencing "Supply Shortages", Energy Giant Seeks Urgent Wage Talks) (資源の非米側が金融の米国側に勝つ) ロシアと米諜報界の「協業」によって米欧のインフレが悪化し、米英などの中銀群が利上げやQTを続行し、債券の金利が上昇して金融危機がひどくなっている。英国では国債が暴落し、長期国債の金利が5%になろうとしている。9月28日に英中銀が介入し、英国債を無限に買い支えると宣言して、いったん金利が下がって危機が遠のいたものの、10月10日に再び国債が急落し、長期金利が再度5%を越えそうになっている。英国はもう中央銀行が救済策を打っても金融崩壊を防げない状態になっている。 (破綻が進む英米金融) (BoE's New Support Plan Fails As UK Gilt Yields Explode Higher) 英国が崩壊したら、次は米国だ。米英は、金融バブルが猛烈に拡大した状態なので、長期金利が5%以上の状態が長引くと利払いの増加によって金融システムが確実に破綻する。米金融界がそう言っている。ドル崩壊が目の前まで来ている。このような事態の中、隠れ多極派の米諜報界がプーチンをけしかけ、インフレをさらに悪化させてドルや米覇権にとどめを刺そうとしている。そんな状況が、クリミア大橋の爆破攻撃の背後にある。 (米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化) (Are Central Banks Going Bankrupt? Morgan Stanley Makes A Striking Observation) https://tanakanews.com/221011russia.htm
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