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"ロシアの中のアジア"と戦争/石川一洋・nhk
2022年09月06日 (火)
石川 一洋(専門) 解説委員
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/472992.html
ロシアには主要な民族スラブ系のロシア人以外にもモンゴルやトルコ系のアジア系の人々も住み、ロシア人とは異なる文化、宗教、言語を保ってきました。「ロシアの中にあるアジア」が、ウクライナへのロシアの軍事侵攻の中で揺れています。
石川専門解説委員に聞きます。
Q “ロシアの中のアジア”、アジアがロシアの中に存在するのですね?
A そうです。ロシアの歴史とかかわっています。
13世紀、モンゴル帝国がユーラシアを支配しました。その中でモスクワがモンゴル帝国に従属しつつ中で台頭し、そして15世紀に自立し、かつてのモンゴル帝国の領土を自らの領土に取り込んでゆきました。そのためモンゴル帝国の成り立ちともかかわる多くのアジア系民族がロシアの中に住んでいるのです。
ロシアの民族の数は180と言われています。形の上では連邦制をとっていて、21もの民族共和国が存在しています。例えばボルガ流域のカルムイク共和国は実は、今のモンゴルや中国の新疆のあたりに住んでいたモンゴル系の民族が17世紀ボルガ川流域に移住した民族でダライ・ラマを信奉するチベット仏教を信じています。
東に目をむけるとバイカル湖近くにあるブリヤート、そしてトゥヴァ、ここもモンゴルと深いつながりのある民族で宗教もおもに仏教です。
同じシベリアでも例えばサハやアルタイやハカシアのようにチュルク系の言葉を話す民族もあります。中央アジアからトルコにかけて広がるチュルク系の民族はもともとシベリアから移動したといわれています。
さらに中部ロシアや南部のコーカサスにはイスラム教を信じるタタルスタンやダゲスタンのような民族共和国があり、イスラム教徒もロシアには大勢います。
Q 「ロシアの中のアジア」と言われる人々はどのように今のロシアを感じているのでしょうか?
A ロシアの中のアジア人を自覚する若者たちが4年前に「ロシアの中のアジア人」Азиаты России を造り、インスタグラムなどで自らの伝統や文化を発信し始めました。
創立者の一人のワシーリーさんは、自身はシベリア出身のブリヤート人で、発信を始めた理由として「ロシアではロシア人が全体の80%、国語もロシア語で、少数民族は自らの文化や伝統、言語が徐々に失われていると感じています。またアジア系の少数民族について、ロシアの人々があまりに知らない。まるで外国人のように扱う。そうした意識を変えるために、民族の文化を発信しようと思った」と述べています。
ロシアは形の上では連邦制をとっているものの、プーチン大統領のもと中央集権を強めて、民族の文化がないがしろにされてしまうという危機感もありました。
インスタグラムでは当初は政治的な目的ではなくそれぞれの民族の文化を紹介しました。
たとえばトゥヴァ共和国、遊牧して暮らす少年の生活の様子
海のないアルタイでは貝が貴重品で、貝を使った装飾の民族衣装。そして民族衣装を生かしたハカシのファッションショー、裏声を使った民族歌謡なども紹介されています。
賛同者が増えるとともに貧富の格差や官僚の横暴、汚職など社会問題も人々から寄せられるようになり、社会政治問題も取り扱うようになってきました。
Q このロシアの軍事侵攻について“ロシアの中のアジア人”のグループはどのような立場をとったのでしょうか?
A はっきりと反対の立場を示しました。インスタグラムにも戦争反対と明示しています。
先日私はズームでワシーリーさんにインタビューしました。
「我々にとってウクライナ人は決して敵ではない。1万キロも離れたウクライナとの間で何の対立があるというのだ。プーチンとその側近たちは、自分たちの戦争を押しつけているのだ」
戦争をテーマにした投稿の中には、
「ロシアは近代的な武器を装備した最強の軍隊と述べるショイグ国防相、しかし少数民族出身者の名前が並ぶ戦死者名簿、戦死した若者たちと葬式の様子」などを伝えるものもあります。公式のプロパガンダでは伝わらない戦争の実態を知らせ、戦争反対を呼び掛けています。
Q ロシアでは厳しい情報統制が行われる中で活動家は大丈夫なのでしょうか?
A 戦争反対を表明する、戦争という言葉自体を使うことは法律で禁止され、ワシーリーさん自身はジョージアに逃れて無事でしたが、仲間の中には警察に拘束され、裁判にかけられた仲間もいるということです。
危険を冒しても戦争反対を訴え続けているのは、少数民族の共和国からの死者の割合が、モスクワなど大都市に比べるとものすごく多くなっているからです。
ロシアでは戦死者の公式発表は3月以降ありませんが、ロシアの独立系のメディアが、各地の地方紙での死亡広告や葬式などの情報などから8月末までにまとめたところでは、全体の戦死者は把握できただけで5801人、そのうちモスクワは15人、サンクトペテルブルクは43人、これに対してもっとも戦死者が多いのはコーカサスのダゲスタンで272人、次にシベリアのブリヤートで246人、そしてトゥヴァ共和国も94人と多くなっています。モスクワの人口は1200万人に対してブリヤートの人口は100万人未満、人口は10分の1以下なのに戦死者は16倍となっています。(独立系メディア Mediazonaまとめ)
ワシーリーさんは貧しさとプロパガンダが原因だとしています
「若者はプロパガンダの影響で貧しさから抜け出すために志願兵として戦場に行く。しかし十分な訓練を受けていないので、2週間から1ヶ月で戦死してしまうことが多い」
この団体では、アジア系の若者に軍隊に志願しないよう呼びかけています。またあるいは早く除隊する支援をしています。
Q こうした戦争反対の声は広がるのでしょうか?
A ワシーリーさんは、ロシアのプロパガンダの影響は強く、まだ自分たちの声は小さいと感じています。今ロシアの少数民族をロシア人という一つの民族に統合するかのようなプロパガンダが進められていることを懸念しています。一方ロシア兵が残虐行為をするのはアジア系だからだと差別的な報道をされることもあります。
ワシーリーさんは日本などアジア諸国に「ロシアの中のアジア」の存在に関心を持ってほしいと訴えています。こちらがインスタグラム、YouTubeのアカウントでこうしたアカウントを通じて、ワシーリーさんらと連絡や支援を送ることができます。
※クリックするとNHKのホームページからはなれます
https://instagram.com/asiansofrussia?igshid=NmNmNjAwNzg=
https://youtube.com/channel/UCHNkp0tgKUYQA4BJOz-SLIw
ワシーリーさんはロシアの中のアジアは決して戦争を望んでいないと訴え、兵士からの除隊を求める訴えも増えているということです。
今後ウクライナでの戦争で若者の棺が民族共和国の故郷に次々と戻り、戦場の実態を経験した兵士が故郷に戻ってきますと、戦争の実態が隠し切れなくなりそれぞれの民族の自意識を目覚めさせ、ロシアを揺さぶることになるかもしれません。
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