アヘンの謎とギリシャ神話 驚くべきことだが、紀元前から使われていた薬草や生薬が、今なお医療現場で欠かせない薬として活躍している例は多くある。 例えば、ケシの果汁を乾燥させたものが、痛みをやわらげ、精神を落ち着ける作用を持つことは、古代エジプトの時代から知られていた。のちに依存性が問題になり、戦争の原因にまでなったこの生薬は、「アヘン」の名で知られている。 かつてイギリスの東インド会社は、中国の清にアヘンを輸出し、莫大な利益を得ていた。18世紀末のことだ。だが、アヘン依存者の増加と貿易赤字の拡大に悩まされた清は、1796年以後、アヘンの輸入を禁止する。これを契機として、イギリスが清に仕掛けた戦争が「アヘン戦争」である。 だが、一体アヘンに含まれる何が、強い鎮痛、鎮静作用を生むのかは、長らく知られていなかった。その謎を解いたのは、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーである。 ゼルチュルナーは実験を重ね、1804年、努力の末ついにアヘンの有効成分の抽出に成功する。ギリシャ神話に登場する夢の神「モルフェウス」にちなみ、彼はその物質に「モルヒネ」と名付けた。その時彼は、弱冠21歳であった。 モルヒネは、今も医療現場で重要な医療用麻薬として使用されている。適切に使用すれば依存性の心配はなく、がんによる痛みなどに有効に使える薬剤である。 医療用麻薬は「オピオイド」とも呼ばれ、オキシコドン、コデイン、トラマドール、フェンタニルなど、さまざまな種類がある。飲み薬だけでなく、貼り薬や坐薬、注射薬など、用途に応じて使い分けることができ、利便性の高い薬である。 モルヒネの暗い歴史 実はモルヒネにはもう一つ、暗い歴史がある。 世界的なメガファーマ、バイエル社の研究者ハインリッヒ・ドレーザーは、かつてモルヒネの改良を目指していた。 もっと効果が強く、かつ安全性の高い薬を作りたい。彼が目をつけたのは、モルヒネの化学構造を少し変化させた「ジアセチルモルヒネ」であった。ジアセチルモルヒネは、一見すると素晴らしい薬に思えた。モルヒネより効果は高く、持続時間は短く、切れは良い。 のちに、その薬は「ヘロイン」と名付けられた。力が湧いてきて英雄(ヒーロー)のような気分になれたからだ。 だが、強い依存性と濫用が大きな問題になった。ヘロインを過剰摂取すると、強い陶酔感が忘れられずに乱用を繰り返してしまう精神的依存と、定期的に摂取しなければ吐き気や悪寒、全身の痛みなどの禁断症状が現れる身体的依存が同時に形成される。 使用を続けると心身ともに蝕まれ、最終的には死に至る薬であることが分かったのだ。結果的に、1913年には製造が中止され、いまや使用や所持が禁止される不正麻薬となった。薬として安全に使える代物ではなかったのである。 薬と毒は表裏一体であり、化学物質を人間の都合で呼び分けているだけだ。適切に使用されれば名薬となる物質も、用途を誤れば、人的被害をもたらす毒になるのである。 【参考文献】 『図説医学の歴史』(坂井建雄著、医学書院、二〇一九) キャリー・マリス博士は、「PCRは、感染症の診断に使ってはならない」という忠告は、一体どのような意味があるのか? 感染症とPCR検査が融合することで、無症状感染者という新しい形態の病気を作り出した。 無症状感染者とは何かということを、国民自身が考える必要があり、本当に無症状の人がウイルスをまき散らしているのかについては、誰も明らかにしていなく、無症状感染者がPCRによって特定されても、ウイルスを本当にまき散らすかどうかについて、検証されていない。 もともと、PCRは、試験管内で遺伝子を増やす技術であり、遺伝子工学、分子生物の研究に大きな貢献を果たしていて、遺伝子を増やすことを簡単に成し遂げた革命児で、刑事事件における人物同定にも、革命的な技術の進歩をもたらした。 今回のPCR検査法は、ドイツのクリスティアン・ドロステン教授によって開発されたものである。 PCR検査を推奨した、WHO事務局長のテドロスは、「PCR検査を徹底して行い、陽性者を隔離せよ」という施策を表明した。 しかし、各国の公的機関からも、PCR検査に関する文章を注意深く見ると、必ずしも、PCR検査が確立されたものでないことがわかる。 例えば米国CDC(アメリカ疾病予防管理センター)から、(ウイルスRNAの検出は、感染性ウイルスの存在や2019ーnCoVが臨床症状の原因物質であることを示していない可能性がある) PCRが陽性になっても、感染性ウイルス(新型コロナウイルス)の存在を示さない可能性があることを示している。 つまり、PCRが陽性になることと、新型コロナウイルスに感染していることの間には、必ずしも因果関係が確認されていないということであり、PCR検査で陽性になる遺伝子は、問題のウイルス以外にも存在する可能性があることが、公的機関においても確認されているとも解釈できる。 しかも、症状の発現を説明できるだけのウイルス量が確認されるかどうかは関係なく、問題のウイルスに感染していると診断している。 少量の遺伝子に断片が見つかっただけであったとしても、あたかも危険なウイルスに感染しているのと同等であるとみなすことになったのである。 また、陽性の結果が出て、後日死亡した人は、実際の死因とは関係なくこのウイルスが原因で死亡したとみなすという基準も、WHOによって新たに出された。 これによって、実際の病原性と統計上の数値の間に大きな乖離が生まれることになった。 本当の問題は、PCR検査自体が、そもそもRNAウイルスの検査には向いていないというところにある。 第1章 病原体同定にPCRは使えるのか PCR検査は、遺伝子を試験管内において指数関数的に増殖させる技術である。 DNAを数億倍にまで増幅(ぞうふく)するので、わずかな量のDNAが汚染源になってしまうことがある。 そもそも、PCRは、病原体検査のための方法論ではなく、遺伝子の断片を、試験管内で増幅する技術である。 病原体は、その宿主との共生関係の中で生き抜くために、様々な仕掛けを持っていて、遺伝子だけを取り上げても、複雑な仕組みがあり、その仕組みを理解しないと、遺伝子を使った病原体の同定ができるかどうかわからない。 PCR検査が、未知の病原体検査に使えるかという問題は、これまで研究されたことがあまりなく、未解決のことがたくさんある。 今回の場合は特に偽陽性の問題が大きく、健康な人を次々と感染者として同定するとなると、人権的な問題だけではなく社会の混乱を引き起こすという危険な検査になり得る。 たんぱく質レベルでの抗体検査は、インフルエンザやマラリアの病原体確認のための「イムノクロマトグラフィー」という抗体反応を短時間で検出する方法が開発され、臨床検査として一般に普及している。 今回の騒動の原因は、PCR検査という、遺伝子検査を持ち出してきたことで、 遺伝子検査とこれまでの一般的な検査は、まったく違う概念のものである。 全体の遺伝子情報のごく一部である、設計図図面の切れ端だけを見て、PCR検査で何を観ているのかを原理的に理解できる人は少ないのが実態である。 一般的な臨床検査は、たんぱく質や細胞、組織や形や機能の異常や、病原体との同一性を調べるものがほとんどであり、これらは、実際に視覚化して考えることができる。 遺伝子検査というのは、建物の設計図を調べることに相当していて、設計図だけを見て問題点の指摘をすることは難しく、これまで、PCRを使って病原体の検査法の開発に携わっていた人は、極めて少なく、PCRを病原体検査に用いることの危うさを語ることができることができる専門家はほとんどいないのかもしれない。 本来、感染症における病原体の確認は、病原体自体の同一性の確認が最も確実であるが、そるが不可能な場合には、病原体のタンパク質を用いたり、タンパク質に対する抗体を用いる、あるいは遺伝子を用いる方法があり、ウイルスの場合、病原体そのものを用いて同一性を確認することは、現実的に不可能で、そのために、病原体の確認は、病状や環境要因などで判断をすることが一般的に行われてきた。症状による診断では、無症状感染という概念は存在しない。 今回の感染症の診断法として、PCR検査という方法による遺伝子レベルでの病原体同定が正しいというようなことが、マスコミや政府の意向に沿う専門化により、一方的に宣伝され、ある意味では権威づけされたPCRの問題点を指摘することは、一般社会の人にとっては容易ではない。一般の医療従事者にとっても、類似した問題があり得ると思われる。問題のPCR検査を使って、次々と無症状感染者が作られていくと、多くの人は、黙ってそれに従うしかない。 PCRを使って病原体の同定ができるかは不明で、遺伝子の変異が多いRNAウイルスでは、なおさらPCRを使った病原体の同定は困難で、仮に中国から出された論文のウイルスが実在のものであったとしても、既にウイルス発生から相当に時間が経っていて、遺伝子変異が進んでいるため、オリジナルの遺伝子配列を持ったウイルスは既にこの世には存在しない可能性が高い。 そもそも、問題としているウイルスが、本当に病原体であるかを確認することが一番重要な課題のはずである。しかし、今回の対応に当たってはこの点を省いて、いきなりPCR検査を始めた。実際には、PCR検査により、病原体であるRNAウイルスの同定をすることは困難であり、病原体同定の方法に対する信頼性に関しては、十分な検討が欠かせない。
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