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「『脳に直接電流を流した』彼に起こった衝撃の結果 米国で巨額投資進む『ブレインテック』の現在地」
(東洋経済 2021/11/11)
https://toyokeizai.net/articles/-/467812
個人差こそあれ、一般には加齢とともに衰えるとされる私たちの記憶力。これをITのような技術の力で補強することは可能だろうか?
アメリカ国防総省の「マッドサイエンス部門」とも呼ばれるDARPA(国防高等研究計画局)は今から数年前、人間の脳に電気刺激を与えて記憶力を強引に高める臨床試験を実施した。
その被験者となったのは、あらかじめてんかんを治療するために手術で脳内に複数の電極を埋め込まれた男性患者。これらの電極に外部から微弱な電流を流して脳を刺激すると、てんかんによるけいれんなどの症状を抑えることができる。
このような治療法は「脳深部刺激療法(DBS)」と呼ばれ、てんかん以外にもパーキンソン病など不随意運動を伴う病気に向けて、すでに世界で16万人以上の患者に適用されている。
■ 電極を「記憶力の強化」に転用
DARPAでは、この男性患者の承諾を得て、本来ならてんかん治療に使われるべき脳内の電極をあえて「記憶力の強化」に転用する実験を行った。
この臨床試験では、まず患者に「スーツ」「かたつむり」「ジュース」「飛行機」など、互いにまったく無関係の12個の英単語をパソコン画面上で見せてから消した。その後、それらの中で記憶している単語を発音してもらったところ、最初は3個しか思い出せなかった。
ところが、この患者の脳に電極を通じて電気刺激を与えたところ、12個の単語をすべて思い出して発音することができた。
この患者は「(脳に電気刺激を受けた後は)頭の中に鮮明な絵が描かれたように(すべての単語を)見ることができた」とする驚くべき体験談を語っている。
DARPAがこうした奇妙な研究を行ったのは、アメリカの退役軍人を想定してのことだ。アフガン/イラク戦争などによる負傷で記憶障害に陥った兵士らに向けて、記憶力を取り戻す研究の一環として実施された。
しかし、この種の技術、いわゆる「ブレインテック(脳の技術)」が適用されるのは軍事用途に限らない。DARPAによる実験のベースとなった脳深部刺激療法は、パーキンソン病や重度の鬱病をはじめ広範囲の神経疾患に向けて、すでに世界全体で年間11億ドル(1200億円以上)もの市場規模に達している。
さらに「EEG(脳波)」や「EMG(筋電信号)」、あるいは「fMRI(機能的核磁気共鳴)」など本来医療用に開発された脳科学の技術が、最近ではビデオ・ゲームなどのエンターテインメント、睡眠改善のようなヘルスケア、さらには広告宣伝や購買分析、マーケティングをはじめ広範囲のビジネスに応用され、今後大きな成長が見込まれている。
■ ブレインテックでも事業を展開するイーロン・マスク
このように将来性豊かなブレインテックに狙いを定めて新事業を始めたのが、電気自動車メーカー「テスラ」や宇宙開発企業「スペースX」の最高経営責任者イーロン・マスク氏だ。
いわゆるシリアル・アントレプレナー(連続起業家)としても知られるマスク氏が2016年、アメリカ・サンフランシスコで立ち上げた会社がニューラリンクだ。同社はブレインテックの中でも、とくに「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」と呼ばれる高度技術の開発・商用化を手掛けている。
BMIとは、脳とロボット・アームやコンピューターなど各種マシン(機械)を接続し、脳から直接マシンを操作する。あるいは脳とコンピューターなどとの間で直接情報をやり取りする技術。「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」と呼ばれることもあるが、本稿ではBMIで統一する。
BMIには「侵襲型」と「非侵襲型」の2種類がある。
侵襲型とは手術を必要とするBMIだ。人間の頭蓋骨にドリルで穴を開け、そこから脳にスパイク信号(電気信号)の読み取り装置を装着する。これとコンピューターなどのマシンを有線または無線で接続して情報をやり取りする。
一方、非侵襲型とは手術を必要としないBMIだ。ヘルメットやゴーグルなどウエアラブル端末を頭部に被ることによって、外部から脳内のスパイク信号を読み取る。この情報をコンピューターやスマホに入力して、これらの端末を操作するのだ。
これらBMIの歴史は意外に古くまでさかのぼり、すでに1960年代には各国の大学や国立研究所などを中心に地道な研究が始まっていた。それは基本的に、脳卒中などの病気や脊髄損傷などの怪我で四肢の麻痺した人たちに向けて、脳からロボット・アームを操作するなど新たなリハビリ手段の開発を主な目的としていた。
これら基礎研究の成果をベースに、マスク氏のニューラリンク社も(少なくとも当面は)肢体麻痺の患者らに向けて侵襲型BMIの事業化を目指している。ただし、今のところはブタやサルなどを使った動物実験の段階だ。今年4月にはマカクザルの脳に「リンク」と呼ばれる読み取り装置を埋め込み、このサルが脳から念じるだけでコンピューターを操作してピンポン・ゲームを遊ぶ様子を公開した。
これまで大学などで開発されたBMI技術とニューラリンクのそれとの違いは、後者がブルートゥースを使った無線方式であることだ。これにより(従来の有線方式に比べて)外見上の違和感がなくなり活用の自由度が増すなど、BMIの実用化(商品化)に向けて大きな一歩を踏み出すと期待されている。
すでにニューラリンクはアメリカのFDA(食品医薬品局)など規制当局に人間の患者を対象にした臨床試験の許諾を申請中と見られるが、これまでのところ当局から許可は下りていない。
理由の1つは患者の健康上の懸念だ。ニューラリンクが開発した技術では患者の脳内に半導体チップを埋め込むため、それによる発熱が脳細胞を傷つけるなどの危険性が指摘されている。
■ マスク氏の奇想天外なビジョンに規制当局は困惑
こうした懸念と共に、規制当局を不安にさせているのがマスク氏の日ごろの言動だ。ここ数年のAI(人工知能)ブームの中で、私たちの仕事がAIに奪われる雇用破壊やシンギュラリティ(AIが人類の知能を超える技術的特異点)などのAI脅威論が取り沙汰されている。
そうした中でマスク氏は「今のペースでAIが進化すれば、いずれ人類はAIの支配下に置かれてしまう」との不吉な予言をしばしば口にしていた。このAIに立ち向かうため、人類の側でも何らかの対策を講じる必要がある。その手段がBMIであるというのだ。
マスク氏の考えでは、脳内に埋め込まれたチップによって私たち人間は脳から念じるだけでスマホなどIT端末に文字を入力するなどの操作を高速かつスムーズに行えるようになる。また脳とコンピューターやインターネットを直結して、サイバー空間から脳に直接情報をダウンロードすることもできる。いずれは脳から脳へと直接コミュニケーションする「テレパシー」のような能力も育む。
果てしない進化を遂げるAIの脅威に対向するためには、人類の側でもここまで自らを強化しなければならない――このようなビジョンを国際会議などでマスク氏はたびたび公言していた。ニューラリンクはそのために創業されたという。もちろん当初は(前述の)医療用の研究開発から着手するのだが、マスク氏が本当にやりたいのは、どうやらBMIでAIに立ち向かうことのようなのだ。
こうしたマスク氏の奇想天外なビジョンをアメリカの規制当局は持て余している。ニューラリンクが申請する臨床試験への許可がなかなか下りないのはそのためだ、と見られている。
しかしそんな懸念とは裏腹に、BMI開発への投資はうなぎのぼりだ。今年7月、ニューラリンクは中東の投資会社やグーグル傘下のベンチャーキャピタルなどから2億ドル余り(200億円以上)を調達した。BMI業界全体では今年前半だけで、昨年通年の3倍以上となる3億5000万ドル以上の資金が注ぎ込まれている。
これを追い風に、欧米や日本、中国をはじめ世界中の企業が続々とこの分野に参入。その多くは非侵襲型のBMIを開発し、たとえば脳波の技術で「ゲームを操作する」「睡眠を改善する」「集中力を高めて仕事の生産性を上げる」など、さまざまなアプリケーションの商品化を図っている。
これらの中で一際注目を浴びているのが、最近社名を「メタ」と変更したフェイスブックの取り組みだ。同社は2017年ごろからゴーグルなど非侵襲型BMIの開発を進め、その一環として「脳から念じるだけで毎分100単語のテキスト(文字情報)」をスマホに入力する技術開発を進めてきた。
この分野で先頭を走るアメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校と共同研究も実施。この研究チームは今年7月、脳卒中で身体麻痺と失語症に陥った男性患者が言いたいことを脳から念じるだけでコンピューター画面に表示する侵襲型BMI技術を公開した。
■ 「脳からの文字入力」計画を突如中止したワケ
フェイスブック(メタ)はこの技術を非侵襲型に応用して、(前述の)「脳からの文字入力」技術を実現する計画だった。ところが今年7月、同社は自社ブログでこの計画を突如中止したことを明らかにした。
理由の1つは技術的な限界だ。非侵襲型のBMIでは、脳から頭蓋骨を透過して外に漏れ出てきた脳内信号をウェアラブル端末で受信してスマホなどの操作に充てるが、このような信号はノイズが多すぎて文字入力のような高い精度が要求されるアプリには不向きなのだ。
これと並んで、新たなプライバシー侵害の懸念も中止の一因として考えられている。その背景には、ここ数年で急激に高まった巨大IT企業への不信感がある。
2018年、フェイスブックから推計8700万人分のデータが英国の政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカに不正流出していたことが明らかになり、ここからEUの「GDPR(一般データ保護規制)」など、個人情報の管理・保護を強化する規制へとつながっていった。
そうした中、プライバシーの「最後の砦」とも言える脳内情報までフェイスブックなど巨大IT企業に明け渡すことは危険極まりないとの見方が出ている。これに配慮する形で、フェイスブックは「脳からの文字入力」計画の中止に踏み切ったようだ。
一方、南米チリでは今年10月、憲法を改正して「ニューロライツ(脳内の人権)」条項を追加。「AIや神経科学の発達により、脳内のプライバシーや自己同一性、思想の自由などが侵されることを防ぐ」と保障している。
つい数年前までBMIは近未来のSF技術と見られていたが、今や一部の国では憲法改正でそれに対処するなど、かなり差し迫った事態にまで発展しているようだ。
--------(引用ここまで)-------------------------------------------------
イーロン・マスクの脳インプラント企業が脳内チップを埋め込んだサルが死亡したそうで、
こういった技術は、まだまだのレベルのようです。
しかし、本人の了承を得ずに勝手にチップを埋め込んだり、情報を取り出したり、
チップの有無で差別したり、といったことが起きないよう、今から法を整備する必要があるでしょう。
(関連情報)
「イーロン・マスクの脳インプラント企業、『サルの死』を公表」 (TABI LABO 2022/3/29)
https://tabi-labo.com/303024/wt-neuralink-monkey
「中国 学童にヘッドバンドを装着し集中力を監視 批判を受けて中止 (2019年)」
(拙稿 2022/6/22)
http://www.asyura2.com/22/iryo9/msg/397.html
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