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2023年3月12日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/237536/1
https://www.tokyo-np.co.jp/article/237536/2
東京電力福島第一原発事故後に脱原発を掲げ、市民らがつくった発電会社「会津電力」(福島県喜多方市)が、地元の森林を活用したバイオマス発電に乗り出す。同社はすでに太陽光や小水力で発電し、年内に風力発電も始める。バイオマスが将来加われば4種類の再生可能エネルギーが実現する。地域の発電会社がこれほど多様な方法で発電するのは珍しい。政府が原発推進にかじを切る中、地方の豊かな自然を生かせば再エネ拡大の余地が大きいことを示している。(池尾伸一)
◆木々も雪もエネルギーのかたまり
1月下旬、田畑も山も真っ白な雪で覆われた喜多方市。会津電力の磯部英世社長が山を指さして言う。「木々も雪もエネルギーのかたまりです」
同社は「原発に頼らない発電をしよう」との市民による議論を経て、2013年に発足した。初代社長に地元の造り酒屋当主の佐藤弥右衛門氏(現特別顧問)が就いた。現在、88カ所の太陽光発電所と1カ所の小水力発電所を運営し、風車3基による風力発電の年内始動も決まっている。
バイオマス発電は、木材を砕いたチップを燃やして蒸気やガスを発生させ、タービンを回し発電する。発電時に出る二酸化炭素(CO2)を、会津の山に植林して吸収させるため、CO2排出が将来差し引きゼロになる。会津電力の計画に東北電力は送配電線に受け入れ余地がないとしてきたが、昨年、接続できるめどがたった。
4000世帯分の電気に相当する出力2メガワットの発電設備を設置。固定価格買い取り制度を利用して東北電力などに売電する。チップ燃焼時の熱を企業の暖房などに供給する事業も行う。発電は27年度までに、熱供給は23年度から始める。
磯部社長は「地元に雇用を生み、山林も再生する持続可能なビジネスモデルをつくる」と話す。職員は関連会社を含め約20人いるが、新たに約15人を雇う予定。市町村や個人が持つ山林の管理を引き受ける。樹木を伐採して苗木を植えれば、森林が若返って光合成は活発化し、山全体のCO2吸収も増える。
◆山が生む林や水や風こそ地域の宝
「わが国は山と深い海に囲まれ、再生エネ適地が限られる」。原発の建て替えや60年超の運転容認を盛り込んだ新方針を2月10日に閣議決定した岸田文雄首相は、日本での再エネ開発の難点を強調する。
だが、磯部社長は「山が生む林や水や風こそ地域の宝。それらを生かせば、エネルギーの自給自足は十分可能」と指摘。エネルギー問題に詳しい三浦秀一東北芸術工科大教授も「政府は大企業や中央主導でなく、エネルギーを地産地消する地域発の取り組みの支援を抜本強化すべきだ」と話す。
会津電力 福島県民による勉強会などでの議論を経て、「原発に依存しない持続可能な社会を子供たちに引き継ぐ」の理念のもと、2013年に発足。喜多方市、猪苗代町など会津地方の8市町村のほか地元企業、個人などが出資。現在、太陽光と小水力計89カ所の再生可能エネルギー発電所を運営する。
◆ご当地エネルギー 送電線利用に大手の壁
福島第一原発事故をきっかけに、再生可能エネルギー(再エネ)を地域の市民や地元企業主導で発電しようという動きは、福島県だけでなく全国で広がった。だが、原発依存を強める政府は支援策をあまり講じてこなかった。ロシアのウクライナ侵攻や円安による化石燃料高騰で電気料金も跳ね上がる中、エネルギーの自給自足に直結する地域電力の支援は、消費者の負担を減らすためにも急務だ。(池尾伸一)
地域の市民、企業、自治体が出資する地域電力会社は「ご当地エネルギー」とも呼ばれ、原発事故後、全国各地に誕生した。その多くは小規模な太陽光発電を建設した後、新たな展開が乏しいままになっている。
主な原因は、送配電線を所有・管理する大手電力会社が自社の火力や原発を優先し、送配電網に再エネ電力を受け入れることを制限していることだ。経済産業省もそれを容認している。
会津電力も、出力1メガワットのメガソーラーを建設した後、太陽光発電はその20分の1の50キロワット以下の発電所しか認められていない。同社はバイオマス発電を4年ほど前から計画してきたが、東北電力が「送電線の空き容量が少ない」と受け入れを拒んだため、具体化が遅れていた。
再エネは大手電力などが固定価格で長期に買い取る制度の対象。だが経産省は「消費者負担が重い」と買い取り価格を大幅に引き下げ、小さな再エネ発電は採算が取れなくなっている。
◆欧米は発電会社の送配電会社運営を認めず
欧米では、大手電力が送配電線を独占すると、小さな発電会社が排除され再エネ発電拡大の壁にもなるとして、発電会社が送配電会社を運営することを認めていない。だが、日本では送配電会社は大手電力の子会社で、事実上は一体。最近も大手各社が、傘下の送配電会社が持つ、競争相手となる新電力の契約者情報を不正に閲覧、営業に利用していたことが明るみに出た。
さらに欧州では、送配電会社が再エネを優先的に接続しなければならないルールも確立されている。
民間シンクタンク「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也所長は「原発は廃棄物処理まで含めるとコストは高く、燃料価格の高騰を理由に原発に回帰するのは誤り」と指摘。「送電線への再エネの優先接続の義務化や、発電会社と送配電会社の切り離しを急ぎ、地域の発電会社を支援することこそ本筋の政策だ」と話す。
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