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横浜市長選で小此木氏失速、菅首相の「全面支援」がマイナス要因に
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2021年08月21日 横田 一 日刊SPA!
菅首相の「全面支援」を受けた小此木氏が、まさかの大苦戦
菅首相の全面支援を受ける、前国家公安委員長の小此木八郎氏
8月22日投開票の横浜市長選挙で、菅義偉首相が全面支援をする小此木八郎・前国家公安委員長がまさかの大苦戦を強いられている。
自民党の横浜市議36名中30名と県議全員、さらに公明党議員も支援に回るという「自公推薦」に近い盤石の態勢にもかかわらず、立憲民主党推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授(共産・社民支援)と現職の林文子市長を引き離せないどころか、期日前投票で山中氏に逆転を許したという情報も流れ始めた。全面支援がプラスになるどころか、小此木氏の票を減らすマイナス要因になっているようにさえ見える。
そこでラストサンデーの8月15日、桜木町駅前での街宣を終えた小此木氏を直撃、単刀直入に聞いてみた。
横田:菅さんが応援すれば、一気に抜け出るのかと思いました。ところが、けっこう接戦になっているのではないですか。
小此木:選挙というのはそういうものでしょう。
横田:菅さんの不人気がマイナスに働いているということはないですか。
小此木:いろいろな要素が選挙にはあるの。自分をしっかりともって頑張ります。
小此木氏の苦戦は林市長の善戦の裏返しでもある。15日付の『読売新聞』は「山中氏、小此木氏、林氏横一線」と横浜市長選の情勢を紹介したが、自民党は自主投票ながら36名の市議のうち30名(83%)が小此木氏を支援、残り6名(17%)が林氏支援なのだから、単純計算すれば4倍以上の大差がつくはずだが、実際は両候補が拮抗。自公支持層(保守層)はほぼ真っ二つに割れた結果、基礎票で劣る野党支援の山中氏が一気に追いついて抜き去るとの傾向が読み取れる。
元町「ハンドバッグのキタムラ」社長、菅首相を「ペテン師」と批判
林市長を支援する「キタムラ」の北村宏社長
「小此木氏支援の市議30名がフル稼働するとは限らない」と見ていたのが、横浜・元町発祥でハンドバッグ販売を手掛ける老舗「キタムラ」の北村宏社長だ。今回の市長選で林氏の支援を表明したことが『神奈川新聞』で実名報道され、不買運動が起きたというのだ。
林氏との商店街練り歩きを終えた北村氏に聞くと、「自民党からの締めつけはすごい」と断言する一方、形式的な応援に止まる可能性を次のように話してくれた。
北村:市議30名が実際に(小此木)八郎と書くのか分からない。だって、菅さんの時代ではないじゃない。菅さんが全面支援をしても小此木さんは安泰とは言い難い。(他の横浜市民も)同じことを言うと思う」「(急にカジノ取り止めを言い出した)今回の経過はおかしい。はっきり言って公約違反だよ。『馬鹿にするな』と言いたくなる。
横田:菅さんは怖くないのですか。
北村:全然怖くないよ。「あのペテン師」と平気で言ってやるよ。
“菅首相離れ”が進む地元経済界は林氏の支援へ
菅首相と小此木氏の方針変更を批判する林文子市長
地元経済界でも菅首相離れが急速に進み、小此木氏への追い風どころか逆風になっていることを物語る。小此木氏と菅首相のカジノ誘致をめぐる方針変更については、「カジノ推進」の旗を降ろさない林氏も街宣で次のように批判していた。
「今まで自民党と公明党とでIR(カジノ)を進めて来たのに、急に『横浜ではやらない』と決めたようです。国の重要な政策だったのになぜ、急に止めになったのか)」
また林氏支援に回った自民党市議6名も「今まで『IRをやろう』と言っていたのに何の理由もなく、『IRやらない』なんて考えられない」として、菅首相に足並みをそろえなかった。4年前は自公の支援を受けて当選した林氏が今回の市長選では、「『自民党』ではなくて『市民党』になった」「今回の選挙は『政党』対『市民と経済界』という構図」と訴えているのはこのためだ。
小此木氏はカジノ推進派からは突然の方針変更を批判される一方、カジノ反対の市民からも全幅の信頼を得られていないようだった。
告示日の第一声で小此木氏は次のように訴えていた。
「『IRを本当に止めるの?』と4割の方々は疑いの眼差しで見ている。恐らく『どうせ菅さんと結託して当選して、ほとぼりが冷めたらもう一回カジノ誘致をやり直すのだろう。前の人(林市長)がそうだったではないか』というのが有権者の正直な思いでしょう」
“ハマのドン”が断言「山中氏の当選で、菅首相は終わりだ」
山中竹春・元横浜市立大学教授(左)の応援演説を行う、藤木幸夫・横浜港ハーバーリゾート協会会長
カジノ推進派と反カジノ派の両方から突き放される中で小此木氏の票は伸び悩んでいたともいえるが、自公支持者(保守層)がほぼ真っ二つになっていく中で、一歩抜け出したように見えるのが山中氏だ。
“ハマのドン”と呼ばれる藤木幸夫・横浜港ハーバーリゾート協会会長も、告示前の外国特派員協会の会見では小此木氏勝利を予測したものの、告示日に直撃すると「(あの発言は相手陣営を)油断させるため」と語り、続く応援演説では「山中さんが当選するのは間違いない」と正反対の予測を口にした。
そのうえで藤木会長は、山中氏への支持を次のように呼びかけた。
「これから山中さんのために私も頑張る。皆さん、『藤木が頭を下げていたな』と(思い出して)俺も頑張ろうということで、私を助けてください。私の夢を実現させて、私と一緒に万歳をさせてください」
8月17日に横浜市内で開かれた決起集会で、山中氏への支持を呼び掛ける藤木幸夫会長
また8月17日には港湾関係の幹部を集めて「山中竹春氏 横浜市長選 決起集会」が開催された。約150人の参加者に向かって、藤木会長は「この男をよろしく」と訴え、電話かけによる支持拡大を訴えた。
藤木氏は挨拶で「横浜には地方自治がない」と問題視。林文子市政が背後関係によって動かされているとも訴えた。そこで集会後、筆者は藤木会長を直撃した。
横田:山中氏当選で横浜市政の背後関係を断ち切るのですか。
藤木:そうだ。
横田:背後関係とは“影の市長”こと菅首相のことですよね。
藤木:みんな分かっていることだ。山中氏の当選で、菅首相は終わりだ。
「林市長にカジノ誘致表明を促した“影の市長”の影響力を断ち切り、山中市長誕生で横浜は菅首相の支配から脱却する」というのが藤木氏の考え方なのだろう。
可視化される菅首相の「不人気ぶり」
小此木氏の応援に駆けつけた坂井学・内閣官房副長官(右)
小此木氏の出馬で菅首相に切り崩されたかのような印象のあった藤木会長だが、告示後は一転して山中氏全面支援となっている。このことも、山中氏が小此木氏を引き離しつつある一因になっているようだった。
菅首相の全面支援でも小此木氏が苦戦を強いられている情勢について、自民党関係者は「コロナ感染爆発が逆風になっている」と次のように分析する。
「少なからぬ国民が『菅政権のコロナ対策がまずかったので感染爆発を招いている』と不信感を募らせ、内閣支持率が低下しています。その逆風が横浜市長選でも吹き荒れて、マイナスに働いているようです」
小此木氏への菅首相の全面支援によって、「カジノ誘致」が最大の争点だった横浜市長選が、菅政権についての評価を問う戦いにもなっている。横浜市長選で小此木氏が敗れれば、「選挙の顔として失格」との烙印を押されて“菅降ろし”が始まるのは確実。自民党にとっては菅首相の不人気ぶりを可視化させる役割を、横浜市長選が果たすことになる。永田町に激震が走ることになるかも知れない、8月22日の投開票結果から目が離せない。
文・写真/横田一
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