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負ければ“菅降ろし”必至…横浜市長選、菅首相も自民党議員もIR推進→反対に180度“転向”
https://biz-journal.jp/2021/08/post_243254.html
2021.08.11 05:30 文=編集部 Business Journal
「首相官邸 HP」より
「横浜市長選が終わったら、自民党総裁選をめぐる動きが本格化しますよ」――。
こう話すのは自民党のベテラン議員だ。22日に投開票を控えた横浜市長選については本サイトでも8日の告示前の情勢について詳報したが、一番のポイントはカジノを含めたIR推進の旗振り役を務めてきた菅義偉首相が、「反対」を唱える小此木八郎元国家公安委員会を全面支援したことで保守分裂選挙となったことにある。
菅首相以下、IR推進の立場だった自民党議員のほとんどが一転して小此木支援を打ち出したが、「目先の勝ちを拾いたいがための節操のなさ」が有権者の間で不信感を呼んでいるため、もし小此木氏が当選しなかった場合、お膝元の首長選挙で勝てなかった菅首相の権威は地に落ちる。現時点でも次期総裁選へのさや当てはすでに始まっており、候補者は横浜市長選の行方を固唾を飲んで見守っている。
■二階幹事長「菅総裁を今すぐ代える意義は見つからない」と他派閥をけん制
自民党の総裁任期は9月末に満了するため、それまでに総裁選を行う必要がある。菅首相は7月のテレビ番組で「総裁として出馬するというのは、時期が来ればそれは当然のことだろう」と出馬に意欲を示している。それを支えるように二階俊博幹事長も今月3日の記者会見で、「菅総裁を今すぐ代える意義は見つからない」と述べ、「しっかり続投していただきたいと思う声のほうが国民にも党内にも強いのではないか」との見方を示した。その上で、「現職が再選される可能性がきわめて強いという状況というのは誰もが承知している」として、「無投票再選」にするために他派閥を牽制した。全国紙政治部記者はこう解説する。
「二階幹事長はこの8月で在任期間が5年を超え、歴代で最長となりました。これだけで見れば偉業といえるでしょうが、自民党の金と選挙候補の公認権を握る最重要ポストを長期間独占されている他派閥の議員からすれば、さっさと交代してほしいのが本音。二階氏は永田町で有数の政治センスを持つといわれていますが、幹事長ポストがなくなれば、ただの老齢議員に変わりなく、求心力を失うという見方が自民党関係者の間で少なくない。二階氏もそこがわかっているから、自分を高く評価してくれる菅政権をできるだけ持続させようと、今から周囲を威圧しにかかっているということです」
■高市早苗前総務相が出馬を表明、安倍前首相の支援をどれだけ受けられるかがカギ
候補者をめぐっては、すでに高市早苗前総務相が10日発売の雑誌「文藝春秋」で出馬を表明した。高市氏は安倍晋三前首相と近い一方、菅首相とは総務相時代の2019年に発覚した、かんぽ生命保険の不正販売問題で菅首相と近い当時の総務事務次官を更迭したことで溝が深まったといわれている。立候補に必要な推薦人20人の確保が焦点となっており、安倍氏がどの程度支持するかがポイントとなりそうだ。
菅首相の脅威になるかといえば疑問符がつくものの、今回の立候補には本人が女性初の総理を目指す意欲を示すということ以外に、「小池百合子・東京都知事が旧知の二階幹事長と組んで国政に復帰しようとした際に『女性候補』というアピールポイントを薄められるため、首相候補として『反小池』の支持を集められるという狙いもある」(冒頭のベテラン議員)という。いずれにしても、安倍氏が実質的に率いる自民党最大派閥の細田派の支援をどれだけ取り付けられるかが勝負になると見られる。
■麻生派のホープ、鈴木けいすけ議員、二階氏発言「認識が違う」と批判
前述の二階氏のけん制発言に対し、自民党麻生派の若手ホープといわれる鈴木馨祐(けいすけ)衆議がツイッターで以下のように発言したことが話題になった。
「党則で決まっている総裁選。党運営を担う幹事長のこの発言は認識が違うと言わざるをえません。様々な政策に絶対的な正解は無いのだから、この総裁選の機会に国民に開かれた形でコロナ対策を含めた議論を徹底して戦わせることこそが国民の皆さんの信頼に応える自民党の姿です」
党を憂う純粋な発言とも取れなくもないが、永田町関係者の間ではそんなウブな考え方は圧倒的少数派だ。以下、ベテラン秘書の解説。
「二階氏の強権ぶりは若手・中堅からも批判されていることはもちろんですが、麻生派を代表して『勝手に決めるな』と不満を表に出したということでしょうね。麻生派からは河野太郎ワクチン担当相の出馬が取り沙汰されており、その他にも候補を立てる可能性は十分にある。前回の総裁選で菅支持をいち早く打ち出した二階派に遅れをとったという経緯もあり、麻生派の存在感を示したいという強い意志を感じます」
■鈴木議員、国会代表質問でIR推進を打ち出すも、横浜市長選では「反対」の小此木支援
前述のとおり横浜市長選が次期総裁選のカギを握るとみられているが、鈴木氏は神奈川7区選出の衆議で横浜はまさに地元。今回の選挙では争点のIR誘致について「反対」の小此木氏を支持しており、連日の街頭演説で有権者に小此木氏への投票を訴えている。
ところが、鈴木氏はIR誘致にはこれまで一貫して推進の立場をとっており、IR推進の議員の代表として国会で代表質問までして「賛成」の立場を示してきたのだ。2018年5月22日の衆議院本会議では自民党を代表して、当時の安倍首相、石井啓介国土交通相に以下のような質問を行ったことが記録されている。
「この法案については、一昨年末に議員立法で成立をいたしました特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律、いわゆるIR推進法とその附帯決議の内容を体現し、観光先進国としての日本を実現するとともに、世界最高水準のカジノ規制により、国民のさまざまな懸念に万全の対策を講じることのできる世界初のIR法制度となっており、高く評価をしたいと思います。この法案のもとで実現される日本型IR、これを早期に実現するために、法案の審議を速やかに進め、成立させることが国会の責任であると考えております」
IR推進法を速やかに成立させることが「国会の責任」とまで堂々と述べたわけだから、推進派の代表といえる。その当人が横浜市長選では「反対」の候補を支持するというのは、全国中継がなされている場で堂々と虚偽の発言をしたと取られても仕方ないのではないか。
この代表質問はコロナ禍前だが、鈴木氏も所属する自民党横浜市連は今年に入ってからも小此木氏が立候補を表明し、自主投票とするまで推進の立場をとってきた。鈴木氏も横浜市長選直前まで推進の立場を取っており、実際、鈴木氏のホームページの活動記録を見ても「反対」に方針転換した形跡は見られない。
そこで、鈴木氏の議員事務所に、現在はIRに関して賛成であるのか、反対であるのか、また横浜市及びそれ以外への地域へのIR誘致の是非についてはどのように考えているのかを確認すべく、質問状を送付したが、回答はなかった。
■鈴木氏「自立した人を育てる」ことがポリシーも、自らは説明責任を果たさず
国会議員は特定の政策を実現するために信念を持って立候補し、有権者の信任に基づいて議席を得る。鈴木氏が旗を振ってきたIR誘致はカジノによるギャンブル依存症の患者を生み出す懸念が高く、地元横浜市民の生活に直接的で重大な影響を及ぼすと考えられる政策である。その政策について従来からの方針を180度変えるということであれば、きちんとした説明責任を有権者に果たすべきではないか。「選挙で勝つために菅首相が決めたのだから仕方ない」というのが「転向」の理由なら、自身の信念としてホームページに記載してある、「自立したひとを育てる」という主張もむなしく聞こえる。
今回の横浜市長選が菅首相の今後を左右することは間違いない。だが、仮に菅首相が全面支援する小此木氏が当選したとしても、横浜市民や国民からすれば「自民党は信念などなく、権力の座にいられればなんでもいい人たち」という印象は残るだろう。それほど、今回の菅首相のIR反対へのなりふり構わぬ「転向」が失望感を招いているのは事実である。
(文=編集部)
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