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軍事的な状況を理解せずに戦争熱を煽る防衛副大臣
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202107060001/
2021.07.06 櫻井ジャーナル
中山泰秀防衛副大臣は6月28日、アメリカのシンクタンク、ハドソン研究所での講演で中国とロシアの脅威を強調、中国がミサイルでアメリカの東海岸やホワイトハウスに照準を定めることは可能だと語ったようだが、アメリカは1950年代からミサイルで中国やソ連を攻撃する能力を持っていた。しかも、その攻撃能力をアメリカは実際に使う計画だったことが明らかになっている。今でもアメリカの基本戦略は侵略であり、日本から台湾にかけての弧状列島は侵略拠点。日本人は傭兵と見なされているだろう。
中山は言及しなかったようだが、ロシアが航行させている巨大原子力潜水艦「ベルゴロド」には津波を引き起こせるという核弾頭を搭載した原子力推進の水中ドローンが搭載され、イギリスのサン紙はこの空母を「シティ・キラー」と呼んでいる。このドローンは人工知能で航行するという。中山副大臣は脅威を煽っている割に、軍事的な現実を把握していないようだ。
ところで、アメリカは1945年7月16日にニューメキシコ州のトリニティ(三位一体)実験場でプルトニウム原爆の爆発実験を行って成功、これを受けてハリー・トルーマン大統領は原爆の投下を許可、8月6日に広島へウラン型が投下され、9日には長崎へプルトニウム型原爆が投下された。
ソ連の制圧に執念を燃やすイギリスのウィンストン・チャーチルは下野した翌年、1946年3月にアメリカのフルトンで「鉄のカーテン演説」を行って「冷戦」の開幕を宣言、その翌年にはアメリカのスタイルズ・ブリッジス上院議員に対し、ソ連を核攻撃するようトルーマン大統領を説得してほしいと求めている。
さらにチャーチルは1951年4月、自宅でニューヨーク・タイムズ紙のジェネラル・マネージャーだったジュリアス・アドラーに対し、ソ連に最後通牒を突きつけ、それを拒否したなら20から30発の原爆をソ連の都市に落とすと脅そうと考えていると話していたことを示す文書が発見されている。その年の10月にチャーチルは首相へ返り咲く。
アメリカでも先制核攻撃の準備は進んでいた。例えば、JCS(統合参謀本部)は1949年に出した研究報告の中で、ソ連の70都市へ133発の原爆を落とすと想定、54年にSAC(戦略空軍総司令部)は600から750発の核爆弾をソ連に投下して118都市に住む住民の80%、約6000万人を殺すという計画を考えていた。そして1957年初頭には300発の核爆弾でソ連の100都市を破壊するという「ドロップショット作戦」が作成されている。(Oliver Stone & Peter Kuznick, “The Untold History of the United States,” Gallery Books, 2012)
テキサス大学のジェームズ・ガルブレイス教授によると、JCS議長を務めていたライマン・レムニッツァーやSACの司令官だったカーティス・ルメイを含む好戦派は1963年の終わりにソ連を先制核攻撃する予定を立てていた。その頃にアメリカはICBMを配備でき、しかもソ連は配備が間に合わないと見ていたのだ。1950年代にアメリカが沖縄を軍事基地化した理由もここにある。
アメリカが核ミサイルを発射した場合、ソ連は中距離ミサイルで反撃せざるをえない。中距離ミサイルでアメリカを攻撃するにはアメリカの近くにミサイルを持ち込む必要がある。ソ連がキューバにミサイルを持ち込んだのはそのためであり、アメリカの軍や情報機関がキューバを制圧しようとしたのも同じ理由だ。そして1962年のキューバ危機が引き起こされた。
この危機を話し合いで解決したジョン・F・ケネディ大統領はアメリカの好戦派にとって目障りな存在。そのケネディは1963年11月にテキサス州ダラスで暗殺され、CIAは暗殺の背後にソ連やキューバがいるとする噂が流した。このタイミングで核戦争を始めるつもりだったと言われている。この噂が事実に反することをFBIから聞いた新大統領のリンドン・ジョンソンは核攻撃を承認せず、全面核戦争は回避されたわけだ。
そのソ連が1991年12月に消滅、アメリカの支配者は誰に気兼ねすることなく、好き勝手に世界を侵略できる時代が訪れたと考えた。手始めに攻撃したのがユーゴスラビア。21世紀に入ると、「9/11」を利用してイラクを先制攻撃するが、制圧に手間取り、しかもロシアではウラジミル・プーチンが自国を再独立させた。ネオコンの世界制覇計画はこの段階で崩れたのだが、強引にロシアを再び屈服させようとしてきた。
その過程でウクライナの政権をクーデターで潰し、ロシアとEUを分断して両者を屈服させようとしたのだが、ロシアは中国へ向かい、中国とロシアは戦略的同盟関係を結んだ。アメリカや日本で「ありえない」と言われていたことが起こったのだ。
こうした状況だが、西側の私的権力は「COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)騒動」を利用して「資本主義の大々的なリセット」を実現すると宣言した。そのためには中国とロシアを従属させる必要がある。ジョー・バイデンが大統領に就任して間もない段階でロシアや中国を恫喝したのはそのためだろうが、これは失敗した。逆に脅され、ロシアと中国の関係を強化させてしまった。アメリカ政府の恫喝は逆効果になっているが、中山副大臣は遠吠えさせられたと言えるだろう。
アメリカ軍は韓国軍と3月8日から大規模な軍事演習を実施、12日にはアメリカ、日本、インド、オーストラリアの4カ国(クワッド)の首脳がオンライン会議を開いた。3月15日にアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースチン国防長官は日本を訪問、茂木敏充外相や岸信夫防衛相と会談、その際にブリンケン国務長官は中国の「威圧的で攻撃的な姿勢」を批判。オースチン国防長官は3月18日に、アメリカ軍は朝鮮を「今夜にでも攻撃する準備ができている」と威嚇している。
3月18日と19日にはアメリカと中国の外交責任者がアンカレッジで会談、アメリカからはブリンケン国務長官と国家安全保障補佐官のジェイク・サリバンが、また中国からは中央外事活動委員会弁公室の楊潔篪主任と王毅外交部長がそれぞれ出席した。席上、アメリカは中国を威圧しようとしたのだが、中国から強い反撃にあっている。つまり恫喝は失敗した。
3月22日と23日には中国側の要請でセルゲイ・ラブロフ外相が中国を訪問、王毅外交部長と会談し、両国の同盟関係を強く印象づけた。その際、中国とロシアはドル離れを確認、貿易決済で自国通貨を使うようにすることで合意している。アメリカの支配システムを支えてきたドルへの決別宣言だ。アメリカはドル体制に変わる新しいシステムを築かなければならない状況になっている。
こうした中、太平洋でアメリカの完全な従属国は日本とオーストラリアくらいだろう。その日本の陸上自衛隊は5月11日から17日にかけてアメリカ軍やフランス軍と合同で「軍事訓練」を霧島演習場、相浦駐屯地、九州西方海空域で実施、同時に海上自衛隊は東シナ海でアメリカ軍、フランス軍、そしてオーストラリア軍と合同で「軍事訓練」を実施した。黒海では6月28日から7月10日にかけてアメリカ軍を中心とする軍事演習「シー・ブリーズ」が実施されているが、この演習にも日本は参加している。
日本の陸上自衛隊は6月18日から7月11日にかけてはアメリカ軍と軍事演習「オリエント・シールド21-2」を日本で実施。アメリカからは約1700名、日本からは約3000名が参加するという。なお、「オリエントシールド21-1」は昨年10月26日から11月6日にかけて琉球諸島南西部で行われた。また航空自衛隊は7月5日から8日にかけてフィリピンのクラーク空軍基地でフィリピン空軍と「HA/DR(人道支援/災害救援)」を目的とする訓練を実施している。
バイデンを含む欧米の支配者は今回のパンデミックを利用してルビコン側を渡った。つまり回帰不能点を超えたと言えるだろう。世界の支配システムを「リセット」し、自分たちが支配する新たな世界を築こうとしているのだが、簡単ではない。明治維新の直後に成功した戦術が今でも有効だとは言えない。アメリカの命令であろうと、日本が中国やロシアに仕掛ければ、それに応じた報復を受けることになる可能性が高い。彼らはバイデンが「ルビコンを渡った」と認識しているはずだ。今は慎重に動かなければならない時期である。
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