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※週刊現代 2021年6月26日号 各紙面クリック拡大
二階vs.安倍 五輪中止を巡る「最後の暗闘」 この夏、敗者のどちらかが永田町を去る
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84564
2021.06.28 週刊現代 :現代ビジネス
幹事長をクビにしてやる
6月のある日のこと。自民党幹事長・二階俊博は、日本料理店での食事に同席した配下の議員にボソリとこう呟いた。
「俺はケンカも天ぷらも大好きなんだ。どういう揚げ方をしても変わらない。違うのは(天ぷらのほうが)衣を被っていることくらいだな」
謎かけのような、二階のこの呟きを伝え聞いた他の議員らの間には、ざわざわと動揺が走った。
(二階さんはやはり「やる気」なのか)
自民党幹部の一人がこう解釈する。
「二階は最近、『俺はケンカをしている』と話している。相手は安倍(晋三前総理)と、その一派だ。
安倍の盟友・甘利(明・党税制調査会長)が、二階が発足させた『自由で開かれたインド太平洋』構想の実現を推進する議員連盟に、『(親中派とされる)二階で大丈夫なのか』とケチをつけた。
発言は、『安倍と手下がそう来るなら、ケンカを買って、天ぷらのように喰らってやる』という、二階流の宣戦布告だ」
議員たちは、息を呑んで見つめている。二階俊博と安倍晋三という、近年の政界を牛耳ってきた「二強」が、ついに手切れの時を迎えたからだ。
「二階を幹事長の座から引きずり下ろす」
まず動いたのは安倍だ。その尖兵となっているのが、甘利である。
「安倍は健康状態が良くなってきた昨年末くらいから、キングメーカー扱いをされるようになって本人もご機嫌だった。
しかし、安倍が真のキングメーカーとして君臨するためには、党務と選挙を完全に掌握している二階を排除しなければならない。
そこで、二階のクビを獲って盟友・甘利にすげ替えるための布石を次々に打っている」(自民党ベテラン議員)
4月12日、「最新型原子力リプレース推進議員連盟」が発足。顧問には安倍と甘利。
5月21日、「半導体戦略推進議員連盟」発足、会長は甘利。
6月8日、「日豪国会議員連盟」発足、安倍、麻生太郎副総理兼財務相が最高顧問で、甘利が顧問。
6月11日、「新たな資本主義を創る議員連盟」、会長は岸田文雄、安倍・麻生・甘利が最高顧問―。
「こうした議連はすべて、安倍が二階から幹事長ポストを奪い去り、甘利に与えるためのもの。同時に、9月の自民党総裁選を見据えた多数派工作でもある。
安倍・麻生・甘利の『3A』のもとに、毎度100人単位の議員が集まって気勢を上げる。『主導権はこちらが握っている』と、強烈にアピールできる」(同)
安倍にとって二階は政権を支えてくれた恩人ではあるが、今では存在自体が害悪でしかない。
とは言え、あの大角栄を超えるまでに力を肥大させた二階は、正面から激突するにはあまりに難物ではある。
そこで安倍は、「甘利推し」と同時に、二階の足元の切り崩しを始めた。それが、「菅義偉総理の籠絡」である。
「俺は負けたことがない」
安倍は6月14日のラジオ番組で、菅について、「立派に政権を引き継いでいただいた」などと言って持ち上げた。
6月3日には英国でのG7サミットを控えた菅が安倍の事務所を訪れ、今年2度目の直接会談を行った。
「表向き、外交に疎い菅が安倍に助言を求めたことになっているが、実際には安倍のほうが、『二階と自分と、どちらに付いたほうが有利になるか』を菅に吹き込んでいる。
安倍(細田派)と盟友の麻生派、さらに乱発している議員連盟に参集した面々を数えれば、安倍の後ろには軽く150人以上の自民党議員が控えているように見える。
安倍は菅に対して、『長期政権を目指すなら最低100人以上の派閥を母体にする必要がある』などと言って二階からの離反を唆している」(自民党閣僚経験者)
ただでさえ菅は、政権運営に四苦八苦だ。
NHKが6月14日に公表した世論調査では、菅政権を「支持する」37%に対し、「支持しない」が45%。
不支持の割合は政権発足以来の最高に達しており、このままでは9月の総裁選での再選は覚束ない。
菅にしてみれば、二階の後ろ盾で政権を運営してきたものの、それが行き詰まった以上、別のパトロンは喉から手が出るほど欲しいところだ。
安倍はそれにつけ込んで甘言を囁き、「二階を切ってこちらに来い」と、菅を誘引しているのである。
さしもの大幹事長・二階も、菅に裏切られて安倍・麻生・甘利らの連合軍に寝返られては、ひとたまりもないはず―。
ただ、それでも二階は冒頭のごとく嘯く。「ケンカが大好きだ」と。
自民党中堅議員が、こう話す。
「『俺は高校時代の選挙以来、一度も負けたことがない』。二階さんはそう言い放っています。高校(和歌山県立日高高校)の生徒会長選挙に立候補して以来、選挙は常に勝ち続けてきたのだと。
最近は、『国士が5人集まれば何でもできる!』と、かつて旧保守新党の議員らを集め、『新しい波』(二階グループ)を結成した時('03年)に使っていたフレーズを、よく口にしている。
たとえ再び少数勢力に落ちようとも、最後まで徹底的に戦い抜くという宣言でしょう」
安倍との「ケンカ」に臨むにあたり、二階は二階らしい、二階にしか打てないような手を打った。
五輪は中止でいい
議連を次々に起ち上げて勢力を誇示する安倍を見て、二階は前出の「自由で開かれたインド太平洋」推進議連を創立。それだけではない。なんとその最高顧問に安倍本人を迎えたのである。
「台湾にアストラゼネカ製のワクチンを送るなどして反中国の姿勢を明確にし、中国寄りの二階との政治的な差別化を図ったのに、その二階が反中国路線を打ち出した。
そのため混乱が少なからず起き、それが甘利の『二階で大丈夫か』という感情的な発言に繋がっている。
当然、そうなることを二階は読んでいて、黒幕の安倍を崩しにかかった。
二階は安倍の元に、側近の林幹雄幹事長代理に和歌山名物の紀州梅を持たせて送り込み、『ぜひ最高顧問に』と頭を下げた。
中国の海洋進出に対抗する構想は、もともと安倍自身が総理の時にぶち上げたものなので、安倍は立場上、断れない。全面対決のはずが、気勢を削がれてしまった」(前出・自民党閣僚経験者)
ケンカを吹っかけるためまずは思い切りぶん殴ってみたところ、相手は満面の笑みでこちらの頬を撫でに来た……。相手から見れば、二階の行動は不気味極まりない。
そして、安倍という誘蛾灯に引き寄せられる蛾のようにフラフラとした行動を取る菅に対し、フォローも怠っていない。
「菅総理がメディアなどの目を避け、赤坂の議員宿舎内に側近らを集めて『裏官邸』を構築していることが取り沙汰されていますが、実は二階さんも、宿舎内で菅さんと会談を重ねています。
そして同時に、菅さんに対して、『俺を切るつもりならそれなりの覚悟はあるんだろうな』と、釘を刺してもいる。その材料の一つが、東京五輪です」(前出・中堅議員)
コロナ禍の中、「なぜやるのか?」という声が、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長からも上がる中、菅が五輪を強行しようとする理由として、安倍の存在がある。
周知の通り、五輪が昨年、中止でも2年延期でもなく、1年延期と決まったのは、それを自身のレガシー(政治的遺産)としたい安倍の強い意向があったからだ。
菅はその意思を尊重して五輪を成し遂げることで政権を維持延長しようとしている。だから国民の約半数が五輪開催に疑問を持っていても、強行する姿勢を崩さない。
だがそんな菅に対し、「こだわる必要はない。状況次第で五輪を中止したってかまわない」と、耳元で囁くのが二階だ。
「最近、永田町では『安倍案件』という言葉が流布されている。
五輪はもちろん、河井克行・案里夫妻の1億5000万円問題や、先日発覚した東芝と経産省の結託による『モノ言う株主への圧力』など、菅政権で続出する問題のほとんどは、安倍政権による負の遺産に他ならない。
ただ最近まで、皆わかっていても『安倍さんのせいだ』とは言い出せなかった。それを言えるようになったのは、二階さんが口火を切ったからです」(ある派閥の幹部)
河井夫妻の資金問題では、選挙の際に安倍の秘書らが頻繁に夫妻の地元・広島入りし、強力にバックアップしていたことが指摘されている。
二階はこの問題に対し、「総裁と幹事長に責任はある」と言い放ち、自民党議員としては初めて、「本当は安倍が悪い」と事実上、公言して見せた。
「そんなことを平然と言えるのは、二階さんだけ。これで他の者も『あれは安倍案件』と言いやすくなった。
何より菅総理の気が楽になったようで、最近は自分でも、『それは安倍案件だから』と言って開き直るようになっている」(前出・派閥幹部)
多数派工作という数による「理」で菅を取り込もうとする安倍に対し、二階は「苦しんでいるのは誰のせいか」という「情」で揺さぶりをかける。
馬鹿正直に五輪を強行し、安倍にこれ以上、忠誠を誓う必要はない。エリートの安倍にとって、菅など使い捨ての雑草に過ぎない。
二階は囁く。「叩き上げ」の菅よ、それでいいのか―。
二階の「最強カード」
現政権の政務三役の一人は、こう話す。
「急転直下、五輪を中止したとしても、二階さんと菅さんに、実はなんのダメージもない。
それどころか、『やっと国民の安心・安全を最優先にしたか』と、支持率が大幅にアップする可能性がある。
『安倍案件』という語句が示す通り、五輪が中止になったり、党内紛争が激化したりして困るのは安倍さんのほう。
菅さんに接近しているのは、懐柔しておかないと自分の醜聞が、総理の一存で蒸し返されるからです」
安倍は各議連の会合に出た際、自身の健康不安を払拭するためか、「あと少し治療を施せば、青天白日の身になる」などと繰り返しているという。
それを聞いた、別の自民党ベテラン議員はこう苦笑する。
「『青天白日』の使い方が間違っている。それは健康不安ではなく、自身の疑惑が晴れた際に使う言葉だ。
穿った見方をすれば、『潔白だ』と無意識に連呼しなければならないほど、『安倍案件』が気になっているんだろう」
果たしてこの大暗闘は、どんな結末を迎えるのか。
「幹事長を甘利、総裁候補に岸田、加藤勝信官房長官に茂木敏充外相らを取り揃えて力を誇示する安倍に対し、二階の切り札は、河野太郎だ。
河野はモノをはっきり言いすぎる性格が災いして、最近は菅との関係が悪化している。安倍や麻生も、コントロール不能で何をしでかすかわからない河野について、総理総裁候補としてはNGを出している。
そんな河野を担ぎ出せるのは、実は二階しかいない。
引き続き菅を支える姿勢を見せつつ、二階の真の狙いは『河野カード』を手元に手繰り寄せ、逆転の一手とすることだ」(前出・閣僚経験者)
決戦の夏、緊張の夏。その熱さで燃え尽き、消滅するのはどちらなのか。(文中敬称略)
『週刊現代』2021年6月26日号より
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