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五輪「入場制限」国民や選手への配慮が皆無、専門家も科学を置き去りにしている どうする、どうなる「日本の医」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/291183
2021/06/29 日刊ゲンダイ
政府に提言を提出後、記者に囲まれる新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(中央)/(C)共同通信社
東京五輪の概要が明らかになりつつある。大会組織委員会は収容定員の5割以内、上限1万人で観客を入れるそうだ。
専門家は反対している。6月18日、尾身茂新型コロナ感染症対策分科会会長ら26人が連名で、無観客が望ましいなどの提言をまとめた。同22日、朝日新聞は「五輪の観客 科学置き去りの独善だ」という社説を掲載し、彼らを支持する。
私は一連のやりとりに違和感を抱く。それは国民や選手への配慮が皆無だからだ。特に問題なのは、政府だけでなく、「専門家」も科学を置き去りにしていることだ。
例えば、無観客についての見解だ。屋内と屋外では感染リスクは異なる。こここそ、観客を入れる際のポイントだが、「専門家」は取り上げない。私は悪質と感じる。
実は、このことは、流行当初からのコンセンサスだ。昨年4月には、中国の東南大学の研究者たちが7324例の感染者の記録を調べ、屋外感染は1例だけだったと報告している。これは同10月30日から3日間にわたって横浜スタジアムで入場制限を緩和したが、クラスターは発生しなかったという実証研究の成果とも合致する。野球やサッカーのような屋外競技はもちろん、パブリックビューイングも、会話を控え、社会的距離を取れば、無観客にする必要はない。
屋内競技は別だ。一定の感染リスクは避けられない。ただ、これもやり方次第だ。いくつかの臨床研究で示されている。
例えば、スペインの研究者たちは1047人を対象に、屋内での5時間の音楽イベントに参加する人と、通常の生活を送る人とにランダムに振り分ける臨床試験を実施した。観客は入場前に抗原検査を受け、陰性を確認した。また、イベント会場は徹底的に換気した。
この臨床試験では、音楽イベントに参加した465人中13人、対照群495人中15人が、その後のPCR検査で陽性と判明した。両群に差はなかった。検査を徹底することで、クラスターを拡大することなく音楽イベントを開催できたことになる。
この研究はランダム化比較試験で最もエビデンスレベルが高い。5月27日に権威ある英「ランセット 感染症版」が掲載している。屋内競技もやり方次第だ。ところが、「専門家」からは、このような科学的事実は紹介されないし、朝日新聞も触れない。
もちろん五輪の時期には感染力が強いインド株が流行しているかもしれない。スペインの臨床研究の結果を日本に応用する際には注意が必要だ。
ただ、五輪で、どこまでリスクを取るかを決めるのは国民だ。やり方次第で感染リスクは下げることができる。専門家の仕事は、そのための判断材料を提供することだ。国民視点に立った提言を期待したい。
上昌広 医療ガバナンス研究所 理事長
1968年兵庫県生まれ。内科医。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がん研究センター中央病院で臨床研究に従事。2005年から16年まで東京大学医科学研究所で、先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究。16年から現職。
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