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※2021年6月17日 日刊ゲンダイ11面 紙面クリック拡大
猪瀬直樹氏に直撃 五輪は開催可能と本気で思っていますか 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/290695
2021/06/21 日刊ゲンダイ
猪瀬直樹氏(C)日刊ゲンダイ
猪瀬直樹(元東京都知事・作家) |
東京五輪開催まで1カ月あまり。世論の8割が今夏の開催中止・延期を求めているが、菅政権はなりふり構わず突き進む。8年前に招致活動の先頭に立った元都知事も、「予定通りの開催」を盛んに発信している。コロナ禍の強行に一体どんな意義があるというのか。市民置き去りは「平和の祭典」の名折れではないのか。疑問をぶつけた。
「ファクトとロジックから言って『中止』はない」
――世論の動向をどう見ていますか。
お祭りって、始まる前はみんなヤル気がないものですよ。祝祭空間とは何ぞや、ということ。阿波踊り、山笠。数日のためにみんな1年間働いている。五輪は100年以上続く4年に1度の祝祭空間。それを日本がやらせてもらうということなんです。招致活動が本格化する前も世間は無関心で、IOC(国際オリンピック委員会)が2012年5月に公表した世論調査では、支持は47%しかなかった。2カ月後にロンドン五輪が開幕して日本勢が金メダルを取り始めると、「日本選手はスゴイな!」と空気が変わり始め、東京・銀座の日本選手団パレードは大盛況。招致委員会が実施した国民支持率調査ではその間、支持がどんどん上がっていったんです。僕が都知事になったのが12年12月で、招致活動解禁が13年1月。その年の9月のIOC総会で東京開催が決定する直前には、支持は90%にも達していた。盛り上げていけば、そうなるんです。
――始まればみな大騒ぎだと。ですが、コロナ禍で日常生活は制約され、飲食店は半年以上もマトモに商売できない中、国内外の人流増加を招く五輪はなぜ特別扱いできるのでしょうか。感染拡大への懸念は払拭されません。
(IOCが)ワクチンを提供するって言ってますね。
――IOCは米ファイザーから出場選手を含む大会関係者向けに4万人分のワクチンを無償調達しましたが、選手の中からは接種に対する不安の声も聞かれます。副反応がどう出るか分からない、パフォーマンスに影響が出ないかと。
影響は出ない。それは全く根拠なし、科学的じゃない。治験があるわけですから。根拠のないことを言っちゃダメ。これまでに接種してダメになった選手がいますか? 科学的なデータがないことを言ってはダメ。ファクトとエビデンスがない話はやめなさいよ。
――治験対象者を除けば、接種完了後1年経過した人はいません。選手は身体能力が秀でているだけに、ほんのわずかな違和感にも不安を感じるのは自然ではないでしょうか。
そんなこと言ったら、ワクチンは危ない、で終わりじゃない。ワクチンは危ないって言って何になる? 打ちましょうという方向になっているんだから、それを否定したら科学の否定です。
「万難排してやり抜く」が国際関係
――ワクチン問題もそうですが、コロナ禍でテスト大会への出場をあきらめざるを得ない選手もいます。フェアとは言えない環境で強行する意義はありますか。
客観的なデータで考えれば分かることですが、ヨーロッパの人たち、世界の人たちから見たら「なんでやめるの?」という話です。データとロジックからすれば、そうなりますよ。人口100万人当たりの7日間新規感染者数は日本が120人ほど。米国は320人、英国600人、フランス720人、ドイツ210人。東京の人口10万人当たりが20人ほど。彼らより少ないのに「なぜ東京はやめるんですか」と、そういうふうに判断される。「工夫すればできるじゃないか」「あなた方は努力しないんですか」と。もうひとつは、招致をマドリード(スペイン)とイスタンブール(トルコ)の3者で奪い合いになったわけです。ぜひやらせてくださいと。中止にしたら、マドリードかイスタンブールにすればよかった、という話になってしまう。つまり、われわれ東京は選ばれたわけだから、他の都市を排斥して選ばれたわけだから、選ばれた責任がある。だからやり抜く。「万難排して開催する努力をいたします」というのが、国際関係として普通でしょう。
迷走五輪が封切られた瞬間(C)共同通信社
「IOCは超大国をも超越した存在なんです」
――そうでしょうか。
できないのであれば、「あなた方は国際的イベントをやらない国、都市なんですね」って認定されますよね。W杯、あるいは冬季五輪なんかも、もういいですねと。IOCのバッハ会長の「われわれはいくつかの犠牲を払わなければならない」というスピーチを「日本人の犠牲を伴う」とすり替えた報道がありましたが、あれは誤訳。「われわれ五輪関係者の犠牲を伴う」と言っているわけで。付け加えると、IOCとの開催都市契約を「不平等条約じゃないか」って言う人もいるけど、それは間違い。IOCは国家主権を超越する存在なんです。09年のIOC総会の際、オバマ米大統領がプレゼンした。東京も立候補した16年開催に手を挙げていた地元シカゴを支援するためです。世界的なオバマブームの中、本人が乗り込んできたからもうダメだなあという雰囲気だったのに、IOCはオバマの政治力を拒否した。1回目の投票でシカゴが落選し、2回目の投票で東京も落選し、決選投票でリオデジャネイロ(ブラジル)に決まった。超大国の上にも立つのがIOC。不平等条約と言うのは、あまりにも認識不足だということです。
――五輪憲章で「政治的に中立でなければならない」とうたっているのですから、序列自体が存在しないのでは? コロナ禍による1年延長などを経て国が前面に出てきていますが、そもそもIOCのカウンターパートはどの組織ですか。
IOCと契約したのは東京都とJOC(日本オリンピック委員会)。開催都市契約に署名したのはIOC会長、都知事の僕、JOC会長で、安倍首相はサインしていないんです。
――五輪返上論も浮上していますが、最終的な責任の所在はどこにあるんですか。
何の責任? 五輪憲章を知らない人たちが騒ぎ過ぎなんです。メディアはその知識がない。2年延期なんてあり得ない。選手のことを考えてごらんなさいよ。僕が(都知事を)辞めた後、14年1月に組織委員会が発足してガバナンスがなくなっていった。森さん(森喜朗前会長)体制になって、不透明化して、何のアピールもない。だからこそ、いま国民の不信感が高まっている。当初のもくろみ通りにやっていれば、こんなことにはなっていなかった。
――医療法人徳洲会からの選挙資金提供問題で辞任に追い込まれなければ、都知事として五輪を迎えるつもりでしたか。
新型コロナウイルス対策はもっとうまくいってたと思いますよ。いろんな工夫をしてメリハリをつけてやってましたね。今みたいなモタモタしたことはない、僕がやっていれば。
――具体的には?
5年間の副知事時代に、NICU(新生児集中治療管理室)のベッド不足が問題になったので、すぐにプロジェクトチームを立ち上げたんです。コスト計算を職員に指示したところ、医療機器や医師・看護師の人件費などもろもろを計算すると、1床4000万円で回っていることが分かった。都が800万円ほど穴埋めすれば解決するということになり、実行したら病床が増え、たらい回しは解消されました。新型コロナの重症病床不足についても同じ発想で早く動けばよかった。経営の観点、マネジメントの観点からキチンと考えれば、解決策はあったはずなんです。いまカーボンニュートラルが注目されていますが、これももっと積極的に取り組んだと思います。
――五輪はどちらで観戦予定ですか。チケットは入手済みですか。
(チケットは)ありません。どういうふうになるかは今のところ……。
(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)
▽猪瀬直樹(いのせ・なおき) 1946年、長野県生まれ。信州大人文学部卒、明治大大学院政経研究科政治学専攻(日本政治思想史)修士課程修了。87年に「ミカドの肖像」で大宅壮一ノンフィクション賞。小泉政権下の2002年に道路公団民営化委員、石原都政下の07年に副知事就任。12年に都知事に就くも、13年に辞任。選挙資金をめぐり、14年に公選法違反(虚偽記入)の罪で罰金50万円の略式命令を受けた。15年から大阪府市特別顧問。「昭和16年夏の敗戦」「天皇の影法師」「道路の権力」「東京の敵」など著書多数。
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