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菅総理の答弁が「壊れたレコード」から「やぎさん答弁」に変化中
https://friday.kodansha.co.jp/article/181347
2021年05月20日 FRIDAYデジタル
新聞では「17回同じ答弁」、Twitterでは「怖い」「壊れた」…
5月10日、Twitterのトレンドで「国会騒然」というワードが長時間1位になっていた。注目の的となったのは、衆参予算委員会で行われた質疑である。
立憲民主党の山井和則議員が「『ステージ3』の感染急増、あるいは『ステージ4』の感染爆発、そういう状況でもオリンピック・パラリンピック、これは開催されるんですか」と菅首相の認識について、何度も表現を変えつつ問いただした。
しかし、対する首相は「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」と繰り返すばかりである。そのため、Twitterでは「怖い」「壊れた」といった不安の声が続出、新聞でも「17回同じ答弁」などと報じられたのだった。
Twitterのトレンドで「国会騒然」というワードが長時間1位に(写真:アフロ)
実は「いつも繰り返されている光景」!?
ところが、こうした反応について、国会を日常的に見ている人達の間では「いつも繰り返されている光景なんだけどなぁ……」といった反応も少なくない。これは何故か。
「国会を見る人が増えた影響はもちろんあると思います。でも、今回(5月10日の答弁)は、これまでの答弁とは違う不気味さがありました。それを私は童謡の『やぎさんゆうびん』のようだと指摘し、ツイッター上で『やぎさん答弁』と名付けられることとなりました」
こう指摘するのは、『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)の著者で、政治家や官僚のわかりにくい論点ずらしの答弁を「ご飯論法」と広めた上西充子・法政大学教授だ。
「初めて国会を見た人は答弁を聞いて驚くでしょうし、不信感を抱くでしょう。
おそらくこれまでは、政府が映画『シン・ゴジラ』のように次々に襲ってくる未知の大変な状況に対して、なんとか粉骨砕身頑張ってくれているんだろう、それを野党が邪魔しているんだろうと思っている人もいたと思うんです。
でも、実際に生の国会を見ると、政府の答弁はまったく不誠実で、しかも、その不誠実さが今回は自分たちに向けられているとはっきりわかる事例だったと思うんですよ」(上西充子教授 以下同)
実際、これまでも国会では同じようなやりとりが繰り返されてきた。しかし、今回は話題が非常に身近で切実であることが、大きな違いの一つと言う。
「例えば共謀罪や日本学術会議の任命拒否問題では、どこか他人事だったり、よくわからない話だったりした人も多いと思うんです。『桜を見る会』の場合は、『名簿を廃棄するとかありえないよね』『安倍さんの後援会の人を優遇するとかおかしいよね』など、問題の構造がわかりやすかったから、答弁のおかしさがわかった。
でも、その一方で、桜を見る会であれば自分が非を認めてしまうと、議員を辞職しなければいけない問題だったから、保身で何も答えない答弁になるのだろうと心情的には理解できた人もいたと思うんです。だから、そうした不祥事を抱えつつも、首相や大臣は私たち国民を守ってくれるのが当たり前だと思っていた。
でも、そういう人たちが、コロナによって『あれ? 実は私たち1人1人も、ずっと様々な問題を無視され続けてきた沖縄県の人たちや、入管施設に収容されている人たちと一緒かもしれない』『実は国民の命と健康を守るとか言いながら、そこには心も行動も全然伴っていなくて、選挙で勝つためにオリンピックで盛り上げたいのかな』『結局、お金だけの問題かな』などと感じ始めたのではないでしょうか。
そして、そういう別の目的のために、私たちの命や健康や生活が脅かされ、問題山積になっている状況を見て見ぬフリされたままになるんじゃないかという不安や恐れ、問題意識によってTwitterトレンドにランクインしたのではないかと思います」
見る人を不安にさせる答弁の数々
立憲民主党の枝野幸男議員から「なぜ総理は根拠なき楽観論に立てるのですか。私に対してじゃないです、国民の皆さんに向かって、特に大切な方を亡くされた方に向かって説明してください」と言われ、「亡くなられた皆さんには、心からお見舞いを申し上げる次第でございます」と、故人に対してなぜか「お見舞い」を述べたことにも衝撃が走った。
「ビックリしますよね。お見舞いは故人の方に言うことではないですし、政治の責任という言葉などは一言もないわけですから。
それで、『自分が死んでもそういうふうにしか扱われないんだろうな』と感じた人は多かったと思います。
安倍(晋三)さんの答弁にもいろいろ問題はありましたが、野党を貶めてやろうとか、うまく切り抜けてやろうといった算段や、良くも悪くも人間性は見えたじゃないですか。
でも、菅さんの場合、算段や意図が見えないのも怖いですよね。
『これは絶対に答えないぞ』という強い意志のもとにああいう答弁をしているものなのか、それとももしかして質問の内容がわかっていないのかが判別できず、見る人を不安にさせる答弁だと思います」
5月5日の緊急事態宣言の延長の検討等についての会見では「人口……あの……人口が、あの、減少している」と語ったり、翌6日には記者団に「人の流れを短期集中的に行いたい」と語ったりするなど、文として成立していないことも多いために、菅首相の体調や認知機能を不安視する声も噴出している。
「確かに今回の答弁だけ見ると、そもそも質問の意味が理解できていないんじゃないかと不安になりますが、一切理解できていないわけじゃないんですよ。
ぶら下がり取材などで事前に記者側が質疑の紙を出しておらず、次々に質問を受けるような場面でも、それなりに噛み合った答えはしているんです。
ただ、『人口』と言って、1回首を振ったあとにも言いたい言葉が出てこなかったり、『人の流れを短期集中的に行いたい』と必要な言葉が欠落していたりすることを、本人がわかっているかどうかはわからない。
それはおそらくわざとではなく、喋る能力の問題ではあるのでしょうが、衰えてきたのか、もともとそういう人だったのかもよくわからないんですよね。
ただ、官房長官時代にも『ご指摘は当たらない』『承知していない』など、定番の一言でなんとか切り抜けてこられたことで、それが成功体験になっていて、それで乗り切れるとして同じ作戦を続けていることはあるでしょう。答えてこなかったからこそ、きちんと答える能力が育たなかったこともあると思います」
メディアは、足りない言葉を補って報道している!?
ちなみに、こうした答弁でも、多くの新聞では「人の流れ(の抑制)を短期集中的に行いたい」などと勝手に言葉を補ってくれている。報道に助けられている部分も大きいのだ。
「本当は言いたい言葉が出てこない場合でも、例えばカッコで補足してしまうと、単に同じことの繰り返しを避けるために省略しただけに見えて、異常さが伝わらないんですよね。
『17回同じ答弁を繰り返した』といった内容を報じた新聞もいくつかありますが、数字だけではまだ問題の深刻さが伝わらない。
そもそも『感染爆発でもオリンピックを開催するんですか』という問いに対して、開催する・開催しない・検討中など、一切答えずに政府の基本的な考え方だけを伝えるという気持ち悪さがあると思うんです」
定番フレーズのバリエーションでは対応できないコロナ、オリンピック問題
「お答えは差し控える」「ご指摘には当たらない」「承知していない」の繰り返しから、菅首相の答弁が変わってきたのは何故なのか。
「例えば日本学術会議の任命拒否問題では『人事のことだから』で答えを差し控えて押し通せたことも、コロナの感染爆発でも五輪をやるかどうかという問題においては、押し通せる理屈がない。
定番フレーズのバリエーションで対応できない問題だから、基本的に何も答えたくないんでしょう。
でも、これは日本学術会議や、桜を見る会の問題などのように、過去に起こったことではないですよね。
過去のことをずっと追及していると、世の中の関心が薄れていき、次々に新たな問題が出てくるので、世論も『もういいじゃないか。それより……』という雰囲気になりがちだけど、これは今まさに車が崖に迫っているような問題ですから。
どんどん状況が切迫してくるし、対応の遅れが混乱をさらに招くし、私たちの身に危険が迫ってくる問題なので、関心が薄れるどころか、より強くなる一方ですよね。そういう問題なのに答えないということの異常さが際立ってきているんです」
ところで、昨年秋には、同じ言葉を繰り返す菅首相の答弁を「壊れたレコード」と評していた上西教授。今回の「やぎさん答弁」はどこが違うのか。
「『やぎさん答弁』は、届いた手紙をなぜか読まずに食べちゃう『やぎさんゆうびん』のように、『なんで食べちゃうの?』という戸惑いの部分が大きいんですよ。
例えば、これまで壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返していたときは、わざと答えていないことも多かったと思うんです。それで『お答えを差し控える』など、定番フレーズをずっとループしているから、聞いている側としては壊れたレコードを聴いているような感覚になってくる。
でも、今回の答弁は、菅さんの認知の問題かもしれないし、作戦かもしれない。でも、作戦だとしたら、多くの人が見ている国会であれを作戦として見せることは首相としてマイナスでしょうから、やっぱり作戦とも割り切れない。
そうした答えが見いだせない戸惑いの中に私たちを置いてけぼりにしてしまうところが、単に同じ話ばかりしてちゃんと答えてくれていない『壊れたレコード』と違う。相手の正体や言動の理由がわからない不気味さを与えるところが、『やぎさんゆうびん』のようなんです」
かつて菅首相が官房長官だった時代には、定番フレーズの繰り返しで何も答えない手法は、政府側にとって「鉄壁」と言われていた。しかし、今はそれが「国会騒然」のTwitterトレンド入りする状況に変わっている。
「感染爆発だったらオリンピックをやめると言えば、世論が中止の方向へ流れていくし、やりますと言えば、批判が集まるし。
最終的になんらかの結論が出るまでは何も言わないでおこう、言質をとらせないように、開催するとも開催しないとも言わず、後からどっちともとれる答えにしようという意図はあるでしょう。
答弁書は官僚が計算して作っていて、その意図として『開催するともしないとも絶対に言わないでください』ということも、たぶん菅さんには伝えられていると思うんです。
だから質疑には一切答えないで、結論が出た段階になってから、それをもう決まったこととして語り、一切議論が成立しない状況に持って行くのだと思います。
例えばIOCと協議して中止が決まったとしても、無観客開催に決まったとしても、その決定はいきなり出てくると思いますよ。
本当は、『開催するか否かは未定だけど、やるとしても無観客にするところまでは決まりました』とでも言ってくれれば、まだ地方自治体も対応できるし、学校も生徒を連れて行かなくて良いと安堵するし、保護者も安心だし、ホテルでも空室の対応を行えると思うけど、一切そういうことは言わない。
ただし、これまでは何も答えないその作戦で切り抜けられていても、国民みんなの命や健康がかかわる問題においては通用しない。これだけ多くの人が国会を見るようになった今では、そろそろ『やぎさん答弁』では政権も破綻すると思います」
【字幕入り動画】山井和則議員(立憲民主党)vs 菅義偉首相「感染急増、感染爆発でもオリンピックは開催するのか」(2021年5月10日・衆議院予算委員会)
【文字のみ】山井和則議員(立憲民主党)vs 菅義偉首相「感染急増、感染爆発でもオリンピックは開催するのか」(2021年5月10日・衆議院予算委員会)の内容はコチラ
上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授。1965年生まれ。労働政策研究・研修機構研究員を経て、2003年から法政大学キャリアデザイン学部。単著に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)など。国会パブリックビューイング代表。
取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。
写真:アフロ
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