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バッハ会長は日本国民の反対の声を聞こえないことにするのか
フランス紙が大特集「いままで日本国民のためにしてこなかったことを、選手団のためにはするのか」
https://courrier.jp/news/archives/245510/
2021.5.14 クーリエ・ジャポン
東京・新国立競技場前で行われたオリンピック開催反対を呼びかけるデモ Photo: Yuichi Yamazaki / Getty Images
リベラシオン(フランス)
Text by COURRiER Japon
5月13日、仏紙「リベラシオン」の一面を飾ったのは、東京の新国立競技場だった。その中央に大きく躍る見出しは「TOKYO KO, LES JO?(東京オリンピックはノックアウトか?)」。世界が、東京が、日本が、誰もがその答えを求めている。
なぜここまで、日本で五輪中止を呼びかける声が大きくなったのか。「フォン・ボッタクリ男爵」こと国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、なぜ五輪開催を推し進めるのか。予定された本番まで3ヵ月を切った代表選手たちの胸中は……。
仏紙「リベラシオン」は5月13日、一面でこう疑問を呈した。「東京オリンピックはKO(ノックアウト)か?」
在東京特派員による記事「日本の不満を高める五輪」では、日本で広がる反対運動の背景として、政府への不信感や医療の逼迫、優先される選手団と一般市民との格差を指摘する。
「政府は、PCR検査数を増やすこともなく、ワクチンの提供を急ぐこともなく、医療体制を強化することもなく、必要な資金援助をすることもなく、1年以上もウイルスの蔓延を放置している」
そんななか、政府や五輪組織委員会、IOCが「東京五輪の安全性」を語り、国民を安心させようとしていることに対し、「彼らが感染症対策を並べれば並べるほど、『政府が日本国民のために行ってこなかったこと』と、『東京に来るとされる代表団のためにIOCの指示で承諾していること』との間の隔たりが大きくなる」と報じる。
選手団への1日3万回のPCRをなぜ住民に提供しないのか
全国で多くの新型コロナウイルス患者が、病院のベッドを待って自宅にいる。持病を抱えた人たちの治療が延期されている。
「医療は限界 五輪やめて! もうカンベン オリンピックむり!」。窓に貼られたメッセージを通して現場の思いを訴えた東京・立川市の病院の看護師はこう同紙の取材に語る。
「看護師たちをオリンピックに派遣するよう求められていますが、私たちが患者を見捨ててアスリートの面倒を見に行くと思いますか? 現実的ではありません」
Photo: COURRiER Japon
さらに、オリンピック期間中、3万人の選手団とその関係者へのPCR検査が毎日予定されている。リベラシオン紙は、日本のPCR検査数の少なさや、ワクチン接種の遅れにも懸念を示す。
「現在、東京都の人口1400万人に対し、1日のPCR検査の数が1万件を超えることはほとんどない。1人が4年に1度接種できる程度の割合で行われているに過ぎない」という専門家の言葉を引用し、「東京で1日3万回の検査が可能なのであれば、なぜ住人には提供しないのか。無料でPCR検査を受けるには処方箋が必要であり、自分の希望で受けるには検査に最大250ユーロ(約3万3000円)も払わなければならない。さらに、1億2700万人の国民がいるなか、抗原検査は1日5000件にも満たない」。こう矛盾を問いかける。
ワクチン普及の不公平感についても同様だ。選手団は優先的にワクチンを摂取できることについて、首相は「IOCがファイザー社と交渉して割り当てられたものだ」と言うが、「一般の国民たちは待たされたままだ」。
同紙は、小池百合子東京都知事の動向にも注視している。「都議会議員選挙を控えるなか、世論を無視はできないだろう」。開催地の知事として、「リングにタオルを投げ込むことはできる」と指摘する。
「リベラシオン」紙は3本の記事を2見開きにわたって大きく報じた
※紙面クリック拡大
五輪への準備を粛々と進める選手たちの声も紹介
同紙は別の記事で、東京五輪への切符を手に日々トレーニングに励む選手たちの思いも伝える。2016年、リオ五輪の200メートル競走で銅メダルを獲ったクリストフ・ルメートル(30)は言う。
「(日本の状況については)ほかの人と同じ情報しか持っていませんが、信頼しています。よほど状況がひどく悪化しないかぎり、五輪は開催されると考えています」
「無観客にはなるでしょうが、対策が施され、世界でもっとも重要であり、もっとも象徴的なスポーツ大会が開催されると思います」
現在、「準備の真っ只中。(日本の公衆衛生の状況については)あまり注意を向けないようにしている」と話すのは、フェンシングのヤニック・ボレル(32)だ。
「延期の発表以来、いろいろな噂が流れましたが、どれも打ち消されてきました。公式発表がないかぎり、開催を前提にトレーニングを続けます。開催を信じない理由がありません」
フェンシングでは2020年3月から、国際大会が一度しか催されていないという。「いままでとは違った準備になっています。前は定期的に他の選手と対戦するリズムがありました。試合が月に1回から年に1回に変わるのは独特な感じです。ベストを尽くそうと考えています」
バッハは反対の声を聞こえないことにするのか
もう一本の記事は「トーマス・バッハのオリンピックへの執念」というタイトルでIOCのトーマス・バッハ会長に焦点が絞られている。東京での緊急事態宣言再発令により、5月中旬に予定されていた来日を延期したバッハ会長について同紙は、「バッハはこの1年間、『オリンピックの救世主』というお気に入りの衣装を着てきた」と表現する。
記事によれば、危機管理は彼の得意技だ。2013年、バッハがIOCのトップに就任したとき、組織は財政的に弱体化し、衰退していた。その復活のため、スポンサーからの収入を倍増させ、委員会の長期的な財源を確保するなど、迅速に改革を行なった。
加えて、彼があくまでも楽観的にオリンピックを推し進める理由として、経済的な問題や「組織の継続のため」だけではなく、彼のアスリートとしての過去の経験もあげて説明する。
1976年、バッハはモントリオール五輪に西ドイツの代表としてフェンシングの団体種目で出場。金メダルを獲ったが、次ぐ1980年のモスクワ五輪は西ドイツのボイコットにより、棄権せざるを得なくなった。出場権を失ったというそのときの経験が、選手の立場に立って尽力する現在につながると同紙は書く。
そして、記事はこう締め括られる。「彼はいま、IOCのトップとして日本人を説得しなくてはならない。それとも彼は、反対の声を聞こえないことにするのだろうか」
試合続行か、KOか。いったいレフェリーは、そしてタオルを握っているのは誰なのだろうか。
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