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※2021年4月19日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年4月19日 日刊ゲンダイ2面
【「一番乗り」に凄まじい代償】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) April 19, 2021
保身のためだけの訪米 国民の利益は何一つなし
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/gQypTjrXf3
文字起こし
わざわざ2泊4日で行く意味があったのだろうか。
バイデン大統領と対面で会談する最初の首脳になるために訪米した菅首相が18日、政府専用機で帰国。今週中に国会で訪米の成果について報告するというが、一体どんな「成果」があったというのか。
共同声明で52年ぶりに台湾に言及したことは今後、大きな火種になる。頼みにしていた今夏の五輪開催への支援も得られず、米中対立の危険な網に巻き込まれに行っただけだ。
もちろん、昨今の中国の動きは度し難い。香港弾圧、新疆ウイグル自治区などでの人権侵害、南シナ海での傍若無人、威圧的な領海侵入――。だが、日本が米国一辺倒の姿勢を鮮明にするほど、安全保障上のリスクを抱えることもまた事実だ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「低支持率にあえぐ菅首相にとって、日米首脳会談は政権浮揚の切り札だった。一時は与党内から『日米首脳会談で支持率を上げて解散・総選挙』という話が出ていたくらいで、米国の後ろ盾をアピールすることが最大の目的でした。そういう政治的思惑が見透かされているから、足元を見られ、バイデン大統領との対面首脳会談に一番乗りという“栄誉”をエサにルビコン川を渡らされたのが今回の日米首脳会談でした。半世紀にわたって避け続けてきた台湾問題で踏み絵を突きつけられ、中国への対決姿勢を鮮明にした。米国の戦略に乗せられ、対中戦略の前線に日本がハッキリと立たされたのです。ボンクラ首相の保身のために、国民は凄まじい代償を支払わされることになります」
夕食会も「桜を見る会」も中止
実際、ホワイトハウスは極めて事務的な最低限の対応に終始していた。日本側が強く要望していた大統領との夕食会は見送られ、1対1の初会談は短時間のランチ会に格下げ。ハンバーガーが供されたサシ会談も約20分間で終了した。通訳の時間を考えれば正味10分程度だ。
菅は「いろいろ人生経験とかの話をして、ハンバーガーにも全く手をつけないで終わってしまった。それくらい熱中した」と説明し、「一挙に打ち解けた」「似ているからうまく付き合っていける」と胸を張っていたが、共同記者会見で見せた菅のオドオドした表情からは、打ち解けた様子はまったく伝わってこなかった。
長身のバイデンと並んでカメラに収まる際のバランスを取るためか、用意された踏み台に登った菅は、下を向いてひたすら原稿を読み上げるだけ。さらには、英ロイターの記者から「公衆衛生の専門家が日本は五輪を開催する準備ができていないと指摘している中で開催するのは無責任ではないか?」と質問されると、なんと答えずに無視。お得意の「問題ない」「ご指摘は当たらない」すらなく、共同通信の記者を指名して、次の質疑に移ってしまった。
日本国内では、人事権を振りかざし、記者の質問は「問題ない」「当たらない」で切り捨て、忖度メディアに提灯記事を書かせて乗り切れたかもしれないが、国際社会には通用しない。ホワイトハウスの人事には手を突っ込めないし、記者の質問に答えられなければリーダー失格の烙印を押されるだけだ。
バイデンは会談が終わると、さっさと地元デラウェア州の自宅に帰り、就任後初のゴルフを楽しんだ。菅とは夕食会もゴルフもする気はないということだ。安倍前首相に対する当てつけなのか知らないが、当初はワシントンで両首脳による“桜を見る会”も予定されていたという。それも中止された。
米国主導の対中政策で危うい領域に足を踏み入れた |
「日本が米国の一番の隷従国であることを国際社会にアピールするだけの訪米でした。問題は、菅首相が無能を露呈して恥をかきに行っただけならまだいいが、米国に押し切られて対中政策で危うい領域に足を踏み入れたことです。国家観がない、外交経験もないと言われてきた菅首相が中国への敵意をむき出しにしてみせたのは、どこまでの覚悟があってのことなのか。今回の日米共同声明は国際秩序に反する中国の動きに反対することを確認し、『台湾海峡の平和と安定の重要性』も盛り込まれましたが、中国は当然、反発していて、日本に対する報復措置も考えられる。製造業を中心に中国と密接な関係にある日本経済への影響は計り知れません。軍事的にも、いざ台湾有事となれば台湾海峡に自衛隊を出して米軍の援護をするという単純な話で済まなくなった。地政学的に、日本が米中対立の最前線となって、攻撃を受ける可能性は格段に高まりました。日米首脳がお互いに『ジョー』『ヨシ』と呼び合う親密さの演出と引き換えに、国土と国民が大きなリスクにさらされる。経済的にも軍事的にも外交面でも、失う国益は大きすぎます」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
犬をしつける際、最初に覚えさせる重要コマンド(指令)が「マテ」と「ヨシ」だ。「ヨシ、ヨシ」と声をかけられ、バイデンにすがるような目を向ける菅の姿は、忠実なポチとしては合格点かもしれないが、あまりに情けない。米国に忠誠を示し、重い十字架を背負わされて帰ってきた。国民は、本当にそんなリーダーでいいのか。
新型コロナのワクチン確保のパフォーマンスで、米ファイザー社のCEOと会談するもくろみも見事に外れた。日本の首相が出張って直接交渉を申し入れたのに断られたのだ。
「長くても秋までの短命政権で本格交渉の相手ではないとみられているのではないか。何の戦略もない場当たり外交だから軽く扱われ、保身のための対米追従だけが強化された印象です」(五野井郁夫氏=前出)
コロナ対策より訪米が大事か
結局、ワシントン滞在中の菅がニューヨークのファイザーCEOと電話で会談だから、まるで漫画である。まさか、国際電話代をケチったわけではあるまいが、電話だけなら訪米前にもできたはずだ。バイデンとも、リモート会談で十分な内容だった。むしろ、日本にとってマイナスしかない会談なら、行かない方がよかったくらいだ。
「国民には不要不急の外出自粛を求めているのに、コロナ第4波の拡大を放置して外遊する。本来なら医療従事者に回すべきワクチンも、同行スタッフや記者団への2回接種を優先したことからも、国民のことは後回しで私利私欲しかないことが分かります。訪米前に安倍前首相と会って指南を受けたそうですから、米国に追従していれば政権は安泰と言い含められたのかもしれませんが、国民の利益は何一つない。日本国内でのコロナ感染拡大を理由に訪米を延期し、米国の中国包囲網にコミットしないことをにおわせる政治判断もあり得たのに、“飛んで火に入る”で米中衝突に自ら巻き込まれに行った。安倍前政権では集団的自衛権の行使を容認し、安保法を改正、米国産の武器弾薬を爆買いして軍拡を進めて、米艦防護の訓練も積み重ねてきました。そうやって構築されたシステムが、いよいよ実戦で試される時が近づいているのではないか。安倍政権での集団的自衛権行使は中東有事を想定したものでしたが、それが今は台湾海峡や南西諸島が主戦場になっているという現実に戦慄せざるを得ません。台湾有事は、日本国内の米軍基地が攻撃される“日本有事”に直結します」(五十嵐仁氏=前出)
この差し迫った脅威を大メディアはなぜ伝えないのか。日米首脳会談の「成功」演出に協力している場合ではないはずだ。単細胞の亡国外交は危うい。本気で国益を考えるのなら、外交的戦略も何もない菅を一刻も早く引きずり降ろすしかない。メディアが無批判に政権を礼賛していたら、必ず過ちを繰り返すことになる。
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