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※週刊現代 2021年3月20・27日号 紙面クリック拡大
菅首相「支持率30%」でイライラ爆発…次の総選挙は本当にヤバいかもしれない
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81505
2021.03.25 週刊現代 :現代ビジネス
世論がすべて、それが民主主義の基本。果たしてそうだろうか。個別メディアの恣意が反映される支持率が、即ち「民意」ではない。そんな曖昧なものを指針にした政治決定が「正しい」とは限らない。
「30%」でイライラ爆発
総理・菅義偉は、その朝、新聞の朝刊を開き、満面の笑みを浮かべた。
〈緊急事態再延長 評価78% 内閣支持9ポイント上昇48%〉
3月8日の読売新聞1面に載った記事だ。
〈菅内閣の支持率は48%で、前回(2月5〜7日調査)の39%から9ポイント上昇。不支持は42%(前回44%)となった。支持が不支持を上回るのは、昨年12月26〜27日の調査以来〉
「菅さんはこの数字がたいそう嬉しかったようで、その日は終始、機嫌がよかった。最近はブスッとしかめ面をして、周囲を睨むようにしていることが多かったのですが、数ヵ月ぶりに総理の満面の笑みを見た気がします」(官邸関係者)
いまや、メディアの世論調査で出てくる政権支持率の数字は、菅にとって「すべて」と言ってよい。
「1月中旬、『毎日新聞』の調査で支持率が7ポイント下落して33%となり、3割を割り込みそうになった。その際は動揺して血相を変え、『30%だと!?』と騒いでいました。
菅さんには、安倍(晋三前総理)さんのような『岩盤支持層』が存在しない。3割を切れば、あっという間に政権がレームダックに陥ってしまう。それを何よりも恐れているのです」(自民党中堅議員)
1月に発出した緊急事態宣言の前後から、菅は自政権の支持率を見つめながら、イライラし通しだった。下落を続ける数字を見て、怒鳴り散らす。
官邸の執務室に入る際、「バーン!」とこれみよがしにドアを叩きつけ、秘書官らを慄かせるのが日常風景と化した。
コロナ対策の最前線に立たされ、昼夜の別なく菅に「何をしているのか!」と責められ続けた田村憲久厚労相はストレスと疲労が極限に達し、「目がかすんで前がよく見えない」と弱音を吐くほど追い詰められた。
死ぬ、このままではオレ(の政権)が死んでしまう―。世論の突き上げに焦った菅が下した決断が、東京など1都3県の緊急事態宣言延長である。
支持率が3割台(34%=朝日新聞の2月調査)に低迷する中、機先を制する形で天敵の小池百合子東京都知事が延長に動き始めたことを知った菅は大いに動揺する。
2月下旬まで、「総理は緊急事態を解除するつもりだった」(菅周辺)にもかかわらず、「決して小池に主導権を渡すべからず」とばかり、急遽、方針を変更。3月7日に解除されるはずだった緊急事態を、同21日まで「私の判断」(菅)で延長した。
菅にしてみれば、その判断の結果が出たのが、読売の世論調査なのだ。
「見ろ。今度はおてもやん面をした小池に、一泡吹かせてやったぞ」
久々の「大勝利」の味を、菅は執務室で噛みしめた。3月5日に、午後9時からNHKの放送枠を1時間20分にわたって占拠し、長々と会見を行ったのも功を奏したのか。
〈菅内閣を「支持する」と答えた人は、先月より2ポイント上がって40%でした。「支持しない」と答えた人は、7ポイント下がって37%で、去年12月以来、3か月ぶりに支持が不支持を上回りました〉(NHKの3月世論調査)
世論調査は正しいか?
プロンプターの使用にも慣れ、発信力の強化に対する自信も深まった。
菅の機嫌が治り、周囲も安堵の息を漏らし、めでたし、めでたし。
……そんなわけがない。
唐突な緊急事態延長で、飲食店などをはじめとする「自粛対象」の業界は、再び大混乱に陥った。宣言解除を前提に営業再開の準備をしてきた業者は再び時短や自粛を余儀なくされ、あるいは大損を食らった。
もはや耐えきれず、期末の3月末で、廃業や倒産に至る事業者が全国で続出すると見られている。
いま現在、緊急事態が必要なのかどうかについては、議論が分かれるところだろう。問題は、菅が明確な科学的根拠を示し、それを指針にしたわけでもなく、政治家としての確固たる信念に基づいて判断したのでもないということ。
「世論が怖い」「支持率低下が恐ろしい」「小池が嫌い」などという、覚悟や信念とは程遠い、感情論や「その場しのぎ」のため、緊急事態を延長してしまったのだ。
世論調査の結果「だけ」を気にし、政策や方針をコロコロと変えてしまう。それは、まっとうな政治と言えるだろうか。
「国民主権の国家である以上、世論は政治に反映させなければならない。その結果出てくるのが支持率。これは大前提」
としつつ、現状の菅政権の姿勢に疑問を呈するのは、京都大学名誉教授の佐伯啓思氏だ。
「マスメディアが報じるニュースは、世論調査も含め、それぞれの社の恣意的な『編集』が行われているということは、誰もが気づいていると思います。あらゆる報道は決して中立ではあり得ませんし、客観的な事実だけの報道も存在しない。
政治のプロである菅総理は、われわれ一般国民以上にそれを熟知しているはずです。にもかかわらず、メディアが示す支持率に一喜一憂し、それに縋り、しがみつくしかないという政権の状況に、私は危惧を感じます」
菅が血眼になって支持率の上下を気にするのは、前出の通り、それのみが菅の存在価値だからだ。
「菅さんは派閥を持たないため、自民党内に基盤がない。それでも政権が崩壊しないのは、『他が総理をやるよりはマシだから』でしかない。
支持率が30%を切れば、次の総選挙で自党から大量の落選者が出るのが確定し、『これでは戦えない』と、菅降ろしが始まってしまう」(前出・自民党中堅議員)
もともと菅は、新聞に載る世論調査をつぶさに見るのが趣味の一つだった。安倍政権の人気は、世間の声は? 官房長官時代は、それを見て上司の安倍にああでもない、こうでもないと意見を言うのが仕事だった。
いまは違う。菅自身が、支持率という数字をもとに、評価にさらされることになった。菅にしてみれば、生殺与奪の権を世論に握られているのだ。
だが、だからといって、右顧左眄しやたらと国の大方針を変更してよいというわけではない。「支持率に一喜一憂しない」というのは、官房長官時代の菅の決まり文句の一つでもあったはずだが……。
手下の話は聞かない
身内の自民党幹部の一人もこう苦言を呈する。
「ドタバタぶりがあまりに酷い。7ポイント、5ポイントなどといった数字の上下だけを見て政治を行うなら、べつに菅義偉という人間が判断を下す必要はなく、AI(人工知能)にでもさせておけばいい、となってしまう。
かつて石橋湛山は、信念を持たず道を貫けない者を、『自分が欠けている』として、堕落した政治家の典型と評したが、まさにそのものではないか」
解除をすると決め、それが日本にとって国益になると確信があったなら、菅は支持率に拘泥しすぎることなく、決断できたはずだ。それができなかった時点で、当初の解除基準に確たる根拠もなければ、菅の覚悟自体もなかったことになる。
なぜこんな体たらくに陥ってしまったのか。その原因の一つとして、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、菅の「ブレーン不在」を指摘する。
「本来、菅総理は『ブレないこと』が信条でした。ところが、今の総理は『本当のこと』や『よくないこと』を伝えると耳を貸さず、それを言った者は不興を買って飛ばされてしまう。
ブレないことが、進言や直言を受け付けない頑迷固陋さになってしまい、間違いを正してくれるブレーンが誰もいなくなった。その結果、ブレて批判を浴びてしまい、世論の顔色ばかり窺うようになるとは皮肉な話です」
官邸内では、菅に異論・反論を唱えることは決して許されない。官邸スタッフの一人がこう語る。
「このところ、槍玉に挙げられているのが加藤勝信官房長官です。存在感がほとんどなく、『官房長官は政権の扇の要だろ! アイツは何しているんだ』と菅さんが不満をぶちまけています。
しかし加藤さんからしたら、総理が話を聞かないのだから機能しようがないとも言えます。
コロナ対策などで加藤さんがレクチャーをしようとしても、加藤さんの話が長いこともあり、総理は鬱陶しそうに『もういいです。わかりました』などと途中で遮ったりする」
こうした官邸の機能不全は政権発足当初から囁かれていたが、さらに菅は、新型コロナ対策担当相の西村康稔とも「冷戦」状態にあるという。
「細田派の西村を、菅は『安倍のスパイではないか』と疑いの目で見て、距離を置いている。
1月に、菅が観光業界のドンの二階(俊博・自民党幹事長)に配慮し、北海道を緊急事態宣言の対象から外すことにした際、西村が『政権が持ちませんよ!』と猛反対したことも遺恨になった。
西村もその空気を承知しているので、最近は間に菅側近の和泉(洋人・首相補佐官)を挟んでやり取りするだけ。やり合わない分、結果的に傍からは西村が無難に職務をこなしているように見える」(自民党ベテラン議員)
では、間を取り持っている懐刀の和泉が、菅とまともに会話しているかと言えば、そうでもない。単に菅の顔色を窺っているだけだという。別の官邸スタッフがこう話す。
「和泉さんにしても、勝手に何かコトを進めれば菅総理の逆鱗に触れるので、一から十まで総理にお伺いを立て、一日に執務室と自分の席を何度も往復して周囲に呆れられています。
菅さんすら『箸の上げ下げまで指示しなきゃならんのか』と愚痴っていますが、指示なくして動いたらクビが飛びかねないので、ただ一人の側近の和泉さんも、下手なことはできないし、総理に何も言えない」
逆らう者は容赦なくクビをはねるという強権的手法によって、菅の孤立は深まる一方。
相談相手が誰もいないので、決定を下すには分かりやすい数字に頼るしかない。こうして菅は、ますます世論と支持率ばかり気にするようになる。
わずかとはいえ数字が上向き、冒頭のように、菅は意気軒高となった。3月6日、東日本大震災の被災地を訪れた菅の足取りは軽く、「総理は元気を回復した」と、同行者たちを驚かせたという。
「いま、総理が躍起になっているのは4月に訪米してバイデン大統領と最初に直接会談する外国首脳という『栄冠』を勝ち取ること。『最初にバイデンと会うのはこの俺だ』と、官邸内で息巻いている。
安倍前総理がトランプ前大統領と会談して評価を上げた前例を真似れば、支持率がさらに上昇すると思っているようだ。
ただ、米国はいまだコロナ禍の真っ只中。現実には訪米時にバイデンから東京五輪に関して後ろ向きな発言しか得られないなど、諸刃の剣になる可能性はある」(前出・自民党幹部)
菅は「知性の敗北者」
とにかく世論に嫌われたくない。嫌われさえしなければなんとかなる。周囲に人がいなくなろうと、支持率さえ見ていれば政権は安泰で、秋の自民党総裁選も、次期衆院選も自分が主導して乗り切れるに違いない―。
そこにあるのは「自分」だけ。それがまともな政権運営と言えるだろうか。
菅の言動を見て、「『知性の敗北者』である」として批判するのは、哲学者の岸見一郎氏だ。
「総理は緊急事態宣言の延長について、1都3県の知事に先を越されるのを恐れたとされています。これは世論を気にしていながら、結局は国民のほうを向いていないということを意味しています。
自分が無能だと思われたくないという虚栄心のもと、科学的根拠や信念ではなく、ただ自身のプライドを守るために『独断』で決めたのでしょう。
哲学者の三木清は、『独断家は甚だしばしば敗北主義者、知性の敗北主義者である』と断じています。
菅総理は独断家と言えます。独断家は自分が間違った時も認められず、虚栄心から批判を恐れ、深く考えることもなくさらに間違った決断を下してしまう。それゆえ、『知性の敗北者』なのです」
支持率が回復し、一息ついたつもりの菅だが、状況はそう単純ではない。
「総務省の接待問題が続いていますが、沖縄・辺野古の米軍基地移設・埋め立て工事に絡んだ不透明な1兆円の支出が次の問題として一部で報じられ始めています。
移設問題は菅総理が肝煎りで進めていた事業で、総理の三男が勤務する大手ゼネコンも工事に関与しており、注目が集まっている」(全国紙政治部デスク)
菅の座右の銘は、「意志あれば道あり」。だが、いまの菅に、世論の顔色を窺う以外の意志があるようには思えない。
意志なければ道なし。やがてそれが政権の末路となってしまうだろう。(文中敬称一部略)
『週刊現代』2021年3月20・27日号より
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