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「7万円の山田真貴子」の烙印
https://www.chosyu-journal.jp/column/20396
2021年3月4日 コラム狙撃兵 長周新聞
晩節を汚すとはこのことだろう。自分の名前が不名誉な形で全国紙の一面トップを何度も飾り、テレビでも「7万円の接待を受けた山田真貴子内閣広報官が−−」と一挙手一投足をくり返し報じられる。そして、今や日本全国にその名前や顔が知れ渡ってしまい、どこへ行っても「あっ、7万円の女だ!」とか「あの接待官僚じゃないか!」等々、世間から後ろ指を指されて過ごさなければならないハメに陥っているではないか。財務省の佐川宣寿とか前首相夫人付きの谷査恵子と並んで、とんでもない忖度官僚の一人として新たに仲間入りを果たし、斯くして世間には「7万円の山田真貴子」という少々恥ずかしい記憶が刻まれたのである。
ただこの騒動を見ていて釈然としないのは、確かに山田真貴子の奢られた金額や回数もひどいが、その他に接待された官僚たちも同様に、一人残らず名前と顔を晒されなければ彼女だけが生け贄のようになってしまい、それもまた違うよな…とも思う。断罪されて然るべきではあるが、もっと平等に断罪されろと思うし、他の真っ黒黒助な男たちも隠れてないで出て来いよ! と思うのである。組織ぐるみで接待を謳歌していた背景についてもメスが入らなければ、山田切りだけではただのガス抜きにしかならず、魔女狩りのように見えてしまうのである。
それにしても「7万円の山田真貴子」面を晒すのはさすがに堪えたのか、体調不良により内閣広報官を辞職して入院したのだそうだ。なんだかコロナ禍で病床不足が問題になっているのに、病院を逃げ場にしてほしくないなとも思いつつ、一方で自宅に取材陣が押し寄せたらそれこそ隣近所でも有名になって居場所はないだろうな…とか、これほど不名誉な形で国民的視線に晒されれば恥ずかしいし、並の人間なら心の一つも折れるだろうに…とか、一方で「(飲み会を)断らない女」を自称しているのに国会の委員会質問は断るんだ…とか、感じることはさまざまだ。
今回のケースに限らず、善くも悪くも有名になるということは、世間の視線に晒されて大変だろうなとは思う。それで自己顕示欲が満たされる人もいるのだろうが、テレビに出てくる俳優やお笑い芸人、スポーツ選手しかり、首長や議員といった政治家もしかり、知られるということは壁に耳あり障子に目ありで、どこへ行ってもその一挙手一投足を常に見られ、「アイツ、こんなことしてたぞ!」と話題にされるのである。買い物にしたって飲食にしたって、何を買って何を食ったのかまで話題にされ、地域では家族の振る舞いも話題にされ、子どもがろくでもなかったら「あのバカ息子」と陰口を叩かれ、そんなプライバシーなどあったものではない衆人環視の生活とはいかなるものかを想像した時、まっぴらごめんだぜ! と思う。他人事ながら、それはそれで耐えがたいだろうな…と−−。
官僚とは本来黒子でなければならないはずが、近年は“忖度官僚”枠でこの仲間入りをするのが増えている。「7万円の山田真貴子」の烙印は、自分が仮に山田真貴子だったとしたら相当に恥ずかしいものがあるし、「教科書に載った女性初の内閣広報官」からも一転しすぎだし、行きつけのお店にも散髪屋にも行けなくなるレベルだな…と思う。「アイツ、大盛り食ったぞ!」とかまでいわれちゃいそうで、ほっといてくれ! と思うのだろうか−−などと、衆人環視の境遇についてつい我が身に重ねて想像してしまうのである。彼女は7万円で何を得て何を失ったのだろうか。
武蔵坊五郎
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