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ウクライナの「自由を求める民衆の闘い」を描いたドキュメンタリー 三枝成彰の中高年革命
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/305152
2022/05/14 日刊ゲンダイ
三枝成彰(C)日刊ゲンダイ
「ネットフリックス」配信のドキュメンタリー「ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い」を見ていただきたい。2013年から14年の「マイダン革命」を撮影したもので、今回の侵攻を受けて再配信されたようだ。老若男女が立場や宗教や言語を超えて自由を求める闘いに身を投じ、勝利を手にした様子を見せてくれる。
首都キーウ市中心部の「独立広場(ウクライナ語でマイダン)」が、民衆のデモ隊と警官隊の武力衝突の舞台となった。EUとの協定を結ぶはずだったウクライナ政府は、ヤヌコビッチ大統領(当時)の署名の直前に取りやめた。
大統領は親ロシア派で、8億ドルの融資を提示したEUより150億ドルの融資とガスの値下げを提示したロシアを選んだのだ。
怒った若者たちがSNSで呼びかけ、抗議デモのため広場に集まり始めると、ベルクト(当時存在した警察の特殊部隊。革命後に解体)が鎮圧に乗り出した。やがて闘いは激化し、死者も出た。けが人を運ぶ人を狙撃し、仮設の救護所を襲うなど政府の攻撃は容赦なかった。
民衆は「自由のために死ぬのは怖くない」と言い、ヘルメットの着用が禁止されると鍋をかぶり、手製の盾や火炎瓶で抗戦した。そしてヤヌコビッチはロシアに亡命、政府は次期大統領選を約束し、革命は収束した。死者125人、行方不明者65人。こうしてウクライナの人々が手にした自由を、ロシアは奪おうとしている。
翻って思うのは、プーチンの心の奥底にある西側世界への「恨み」だ。ロシア人の精神性に根づくヨーロッパへの劣等感である。ロシアは国土の8割、ウラル山脈の東側がアジア圏で、ロシア人は欧州からアジア人だと思われている。作曲家チャイコフスキーは母方がフランス系で、当時のロシア貴族の常でフランス語しか話せなかった。ポーランドの作曲家ショパンも父がフランス人だった。
だが2人とも欧州から見れば辺境の国の音楽家だった。だから余計にヨーロッパを意識した作風になったとも言える。
ヒトラーもユダヤ人に次いでスラブ民族を侮蔑し「捕らえたら殺せ」と命じていた。ここからもロシアや東欧の人たちが欧州に抱く複雑な劣等感が想像できる。
かつて米国と並び世界を二分する勢力を誇ったロシアもソ連時代から人口はほぼ半減し、GDPは世界11位。プーチンがロシアの誇りを守る手段は“力”だ。かつてソ連は第2次世界大戦で2700万人もの犠牲者を出してもあきらめなかった。
スターリンの「大粛清」では1000万ともいわれる国民が処刑されるか、シベリアに送られた。世界に類例のない女性兵士も多数従軍していた。目的のために国民を犠牲にするのもいとわなかったのだ。
ポーランドのアンジェイ・ワイダ監督最晩年の映画「カティンの森」(07年)には、1939年のソ連侵攻の際に投降した4400人もの将校らの虐殺が描かれた。おのが進路を阻む者は他国民でも平然と抹殺するソ連軍の一面だ。中国でソ連の捕虜となった日本兵約60万人が違法にシベリアに抑留され、うち約6万人が極寒のなか死亡したことも忘れてはいけない。
私は、このままいけばロシアが勝つと予測する。そして侵攻の真の収束は、近い将来、プーチンが何らかの病で世を去るときに訪れるだろう。
米国の派兵もないだろう。侵攻早々の軍事不介入宣言は身も蓋もなかったが、アメリカはもう戦争のできる国ではない。参戦すれば息子や夫を送り出す大多数の女性たちの猛反発を招くからだ。バイデン自身や親族が持つウクライナ利権の存在をにおわす風説もある。
中国も同じ理由で戦争はしないだろう。一人っ子政策で生まれた大切な若い世代を失うような真似をするはずがない。戦争ができなくなった世界で、ひとり戦争を始めたロシアを止める力を持つのは、もはや時間しかないのかもしれない。
日本にもこれを機に軍事費を増やし戦争に備えようとする人たちがいるが、広大な国土を持つ国に武力で対抗するのは無益だ。80年前、米国に手酷い目に遭わされたのを忘れたのだろうか。
三枝成彰 作曲家
1942年、兵庫県生まれ。東京芸大大学院修了。代表作にオペラ「忠臣蔵」「狂おしき真夏の一日」、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」、映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」「優駿ORACIÓN」など。2020年、文化功労者顕彰を受ける。
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ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ 自由への闘い - A Netflix Documentary [HD]
2015/09/10 Netflix Japan
国家のより良き未来を願う学生を中心とした平和的デモが、過激な暴力革命、政変へと発展。ウクライナ激動の93日間を追ったドキュメンタリー。10月9日、Netflixで独占ストリーミング。
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