http://www.asyura2.com/21/kokusai31/msg/530.html
Tweet |
ここ3週間の情況から、この問題に関し、どのテーマから書き始めるのがいいのか迷った。
犠牲者や困窮者ができるだけ抑えられることを願いつつ、誰が悪いとかどっちが正義だとかといった問題はとりあえずおき、犠牲者を極力抑える唯一の道でありロシアとウクライナのあいだで断続的に行われている停戦和平交渉について考えてみたい。
軍事侵攻の目的であるロシアのウクライナへの要求は、次の3点に要約できるだろう。
1.政治体制:「中立化」「非軍事化」「非ナチス化」の実現
2.東部係争地域:ドンバス(「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」)の独立承認
3.未解決領有権問題:クリミア半島(クリミア自治共和国)及びセバストポリ直轄市のロシア領有受け容れ
銃口とともにロシアから要求を突きつけられたウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカABC放送の独占インタビューのなかで(なぜかその部分はABCナイトラインでは流れずドイツZDFが放送)、ロシアが要求する3点とも妥協の余地があり交渉の対象にできると述べている。
まず、「政治体制」について
ウクライナがNATOに加盟しないということを意味すると思われる「中立化」については、NATO会合にリモート参加したゼレンスキー大統領が、“NATOはウクライナを加盟させる気はないようだし、加盟申請は取り下げたい”というニュアンスでロシアの要求を受け容れる意志を表明している。
さらに「非軍事化(非武装)」については、ロシア側が、ウクライナに降伏を求めず、「オーストリアやスウェーデンのような国家体制」が望ましいと述べ「非武装」が要求から取り除かれたので、合意に到達できるだろう。(ウクライナの安全保障問題は残るが)
1.の最後の「非ナチス化」だが、これは、ウクライナのゼレンスキー政権そのものをターゲットにしたものではなく、内務省管轄の準軍事組織「国家防衛隊」なかんずく「アゾフ大隊」の解体をターゲットにしたものと解釈している。
アゾフ大隊は、民族主義勢力のなかでもより過激(強行)でナチスの思想にもシンパシーを覚えるひとも多く含まれている軍事組織で、ドンバスで主力として親露独立派軍事組織と戦っている。
この問題は、現在進行形の軍事作戦で“解決”が企てられていると考えている。ドネツク州でも親露独立勢力の支配が及ばないマリウポリを中心とした地域の戦いは、もっとも苛烈になっている。これは、「アゾフ大隊」潰滅作戦と言ってもいいものである。
ロシアが、アゾフ大隊のみならず内務省管轄の準軍事組織「国家防衛隊」の解体(非再建)そしてドンパスに入り込んでいるジョージア(グルジア)武装勢力の排除という要求を取り下げることはないだろう。
穿った言い方になるが、ゼレンスキー政権も、ロシアとの係争が高まってきたなかで国内世論的に自らが解体ないし制御できなかった「国家防衛隊」(民族主義勢力の武装勢力)をロシアが解体してくれることを期待しているかもしれない。
2.のドンバス(「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」)の独立承認問題だが、これは、“ロシアの妥協”で合意されるとみている。
ロシアが、ウクライナ侵攻の直前に、「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の独立を承認し、安全保障条約を締結した目的は二つあると思っている。
一つは、ウクライナに軍事侵攻する大義名分である。
もう一つが、ウクライナとの和平協議でロシアも妥協したという形を見せるネタにすることである。
はっきり言えば、プーチン大統領は、「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」に独立して欲しくないと考えている。
「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」)は、高度な自治を認められたうえで、ルガンスク州とドネツク州としてウクライナに残ってもらいたいのである。
「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」が独立してしまえば、ウクライナの親露と親西欧のバランスは大きく崩れ、ウクライナは精神的にもロシアから大きく離れていくことになる。
民族的にはロシア人が多数を占めるルガンスク州とドネツク州は、ウクライナをロシア側に引き留めるアンカーの役割を期待しているのである。
こういうことから、のちに説明する「ミンスク合意」(2)の完全履行がこの問題の合意レベルになると考えている。
そして、これは、人的犠牲と経済的打撃をもたらしてきたドンバス紛争にげんなりしているゼレンスキー政権も受け容れる。というか、今回の争乱で受け容れざるを得なくなることに光明を見出していると思う。
最後のクリミア半島(クリミア自治共和国)及びセバストポリ直轄市のロシア領有をウクライナが追認する問題に移る。
ウクライナがどうあがいてもロシアからクリミアを奪還することはできない。また、クリミアの住民も多数派がロシア編入を望んでいるという現実から、この問題は“条件闘争”になると考えている。
ロシアも、形骸化しているとは言え、ウクライナ侵攻以前の経済制裁が「クリミア併合」を根拠とするものであり、戦略的パートナーである中国さえクリミアのロシア領有を認めていない現状を考えると、軍事侵攻という“最後の手段”に打って出たこの機会に、クリミア領有についてウクライナとの合意を一気に得たいはずである。
そのための条件は、金銭など経済的利益の提供になるだろう。
まず、天然ガス代金などウクライナが累積的にロシアに負っている債務(十億ドルをはるかに超える)の免除。続いては、ヨーロッパへの天然ガス供給パイプライン通過料の一定額以上の“保証”(ノルドストリーム2の稼働前というのが好条件)、最後に、原油や天然ガスの“有効価格”での提供(08年のNATO加盟問題などで現在は市場価格)が考えられる。
ロシアがウクライナに要求した内容は、政権担当者レベルで協議すれば落としどころが見つかるものだろう。(軍事侵攻なしでも!!)
しかし、問題は、ウクライナ国民ないし政治勢力の多数がロシアとの合意を受け容れるかどうかであり(合意当事者であるゼレンスキー政権が倒されれば今回の軍事侵攻で得た成果はいったん水泡に帰す)、合意したことをウクライナが遂行する保証をどこの国が負うのかということである。
悲劇は、ロシアが攻撃を徐々に強めていくことで、クライナ国民ないし政治勢力の多数がロシアとの合意を受け容れるのもやむなしに傾いていくことという厄介な状況である。
プーチンとしては、男を上げた(差別用語かな)ゼレンスキー大統領への求心力が、ゼレンスキーが合意を受け容れるのならそれもやむなしという動きにつながっていくことを期待しているだろう。
(このような考えが、ロシア軍の“停滞している軍事作戦”につながっているのである)
そして、最後が、合意事項をウクライナが遂行することを誰が担保するのかという問題である。
1.の「中立化」は、ウクライナがロシアと合意文書を取り交わし、NATOがウクライナの加盟申請は取り消されたと宣言すれば済むだろう。
3.のクリミア領有問題も、ウクライナとロシアの合意文書の取り交わしとUN(国連)が承認すれば終わりであり。
難関は、「ミンスク合意」(2)に立ち戻ることになるドンバス地域2州への高度な自治権付与である。
2015年2月に締結されUN安保理も認めた「ミンスク合意」(2)は、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領がウクライナの“後見人”、ロシアのプーチン大統領がドンパスの親露独立勢力の“後見人”となって結ばれたものだったが、独仏は、ウクライナ政権の合意事項遂行を実現できなかった。(今回のロシアによるウクライナ侵攻はこれがもっとも大きな原因)
独仏では力不足なら、米英を含めた“後見人”組織が、睨みをきかせながらゼレンスキー政権とウクライナ政治勢力に合意履行を進めさせるほかないのかもしれない。
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。