ロシアは意外と負けてない(2) 2022年3月4日 田中 宇 これは「ロシアは意外と負けてない」(田中宇プラス)の続きです。欧米日マスコミは、ウクライナの諸都市がロシア軍の攻撃で破壊されて廃墟になっているかのような報道をしている。廃墟になっているならウクライナの市民が数万人の単位で死んだはずだ。しかし国連が発表した、3月2日まで戦闘で死んだウクライナ市民の総数は249人だった。この死者数は、ロシア軍がウクライナの市街地をほとんど攻撃していないことを示している。ロシアは、ウクライナ政府との交渉が続いている限り、これ以上の侵攻をしない。攻撃してくるのはウクライナ極右民兵団の方であり、露軍は極右を潰すための反撃をしている。露軍と極右の戦闘で、498人の露軍兵士と2870人以上のウクライナ極右民兵(政府軍を含む人数だが、政府軍は戦っていない)が死んだと露政府が発表した。戦闘のほとんどは露軍と極右の間で行われており、ウクライナ市民はあまり巻き添えにされていない。極右は市街地に入り込み、市民を「人間の盾」にする非人道戦術で露軍を攻撃してくるが、露軍は市民をできるだけ殺さず、極右だけを殺すようにしている。だから市民の10倍の極右が戦死している。プーチンは、ウクライナでの軍事作戦が予定通り進んでいると発表したが、多分それは正確だ。 (UN confirms number of civilian casualties in Ukraine) (Putin: Special Op in Ukraine Going According to Plan) ウクライナ政府は3月2日、露軍侵攻で2千人以上の市民が殺されたと発表したが、国連が発表した死者数はその8分の1の249人だった。戦争当事国が敵を悪く見せたがるのは自然だから、8倍ぐらいの誇張は理解できる。キエフでは市長が「キエフは露軍に包囲されている」と表明したが、その後撤回した。米欧日のインチキ報道と裏腹に、露軍はまだキエフを包囲もしていない(これから包囲するとは言っている)。 (Kiev’s mayor says city ‘encircled,’ then backtracks) (Who are Ukraine’s far-right Azov regiment?) ウクライナ極右よりも不正で卑怯なのは、米欧日のマスコミやそこに出てくる外交専門家ら権威筋だ(私はコロナ以降、マスコミから妄想屋扱いされているので幸いにも権威筋ではありません。今後も妄想屋扱いの継続を希望します 笑)。マスコミ権威筋は、ウクライナ極右が非人道な人間の盾戦術をやっていることも批判していない。欧米日マスコミよりRTなどロシア側の報道の方が頼りになる。RTを信用する奴はロシアの傀儡だと言われるが、そういうことを言う人はきちんと国際情勢を見てこなかった人だ。コロナ以降、欧米日のマスコミは信用できない質の悪いものになっており、今回のウクライナ戦争の報道も、なぜそう報じるかね??、と驚くほど間違ったものになっている。説明の歪曲を超えた「ウソ」を喧伝している(コロナの時から)。マスコミは信用できないと感じる人が増えている。米英マスコミは、以前は「狡猾」だったが、今は「劣悪」である。日本のマスコミは、コロナまで「中立」を意識していたが、今回のウクライナ戦争では完全な「米傀儡」になっている。中立報道の姿勢は「ロシア傀儡」とみなされて消失した。 (Putin Is Waging a Halfway War and It’s Showing) (Russia is now exclusively a ruble country) ロシア関連で米国のマスコミ権威筋が格段におかしくなったのは、2月16日にAP通信社が「ゼロヘッジはロシアのプロパガンダを流す悪いやつだ」という趣旨の報道をしたあたりからだ。2月24日の露軍侵攻より前に、すでにトンデモな状況が始まっていた(この順番の逆転は、裏読みする際にとても大事だ)。「ロシアのスパイ、傀儡」のレッテルは、トランプや共和党、ゼロヘッジをはじめとするオルトメディアの全体に対して貼られている。マスコミ権威筋は、自分たちの見方に同調しない者たち全員に対してロシア傀儡のレッテルを貼って潰しにかかる。そしてマスコミ権威筋自身は、全く劣悪で間違った見方を流布する。自分たちのプロパガンダに同調しない人々の発言に、プロパガンダやニセニュースのレッテルを貼って潰しにかかる。非同調者は、ユーチューブやツイッターの登録を抹消される。コロナの時もそうだった。トランプの時もそうだった。当然ながらマスコミ権威筋は市民から信頼されなくなり、自滅している。 (US accuses financial website of spreading Russian propaganda) (Putin is NOT crazy and the Russian invasion is NOT failing) 日本では、非同調者が潰されずに無視嘲笑されるだけなので、かなりましだ。逆に言うと、だから日本では、現状がトンデモであると主張して追い詰められてさらに声高に主張する人々が大勢出てこない。カナダや米国で急増するワクチン強要反対の「トラック隊」みたいなのが出てこない。コロナ愚策の強要回避の時と同様、日本の自民党官僚独裁筋は、米諜報界から要請された対決の構図(=自滅策)を作らず、曖昧化戦略に徹することで自分らの権力を守っている。 (コロナ独裁と米覇権を潰すトラック隊) (コロナ帝国と日本) 一昨日の有料記事に書いたように、今回のロシア敵視、とくに対露経済制裁の過激化は、ロシアを潰す前に多極化を引き起こす。ロシアだけでなく中国、インド、ブラジル、南アフリカというBRICSの諸大国は、これまでの米単独覇権体制と異質な、BRICSとEU、米国といった複数の極(地域覇権国)が対等に立ち並ぶ多極型の世界がこれから出現することを予測・予定している。すべてのBRICS諸国が、今回の侵攻に対してロシアを非難することを拒否している。中国やインドは、ロシアが使えなくなったドルやユーロでなく、相互の自国通貨でロシアと貿易し続けていくと発表している。BRICS諸国は、これまで「欧米側」であると思われてきたインドやブラジル、南アを含め、米覇権を軽視しており、きたるべき多極型の世界を重視して、ロシア敵視を拒否している。今回の戦争が多極化を加速させることが感じ取れる。 (Will China Stay Quiet on Ukraine?) 多極型の体制下では、ひとつの極が他の極の利益を大きく損なう行為が許されない(それによって体制の安定を維持する)。米国が今回、欧米全体の経済システムを巻き込んで究極の対露制裁を発動し、ロシア勢が米欧に持っている資産をすべて没収し、ロシア人が欧米と取引できないようにしたことは、多極型の体制下では許されない行為だ。逆に、ロシアがウクライナに侵攻して中立化もしくは傀儡化することは、一つの極の内部の紛争なので黙認される。 (The Eazy-Peazy Ukrainian Alternative – Partition) 米国はこれまでも、イランや北朝鮮を米覇権の経済システムから排除する経済制裁をやってきた。だが、ロシアはこれからの多極型世界の極の一つであり、これまでの米中心の世界でも国連の5大国の1つだった。イランや北朝鮮は「極」でない(イランは中東の4大国・地元4極の一つだが)。今回のことで、ロシアだけでなく中国などBRICSの全体が、米国の経済システムをそのまま多極型世界の経済システムとして使うことができないと思い知った。 (Sanctions Are Going To Devastate Russia Economically, But They Are Going To Devastate Us Economically Too) 米国が中露など他の極の利益を尊重するなら、従来の米国中心のドル基軸通貨性など金融システムをそのまま多極化後の世界システムとして使い続けることがあり得た。だが米国はこの四半世紀、ロシアや中国を敵視しすぎた。ドルなど米国のシステムは、QE終了が引き起こすこれからの金融崩壊とともに終わっていく。世界は911以来、米覇権体制が自滅的に崩れて多極型体制に転換する多極化の過程にある。今回の戦争は、多極化と米覇権の自滅を加速する。 ("Don't Get Too Excited" - Bill Gross Warns Investors That Surging Inflation Will Topple Stocks) 戦後の米覇権下のブレトンウッズ体制では、世界中の各国政府や中央銀行がドルやユーロや円などの主要通貨の資産を外貨準備として持ち、自国通貨の価値が下がった時に外貨準備を売って為替相場を立て直して危機を逃れるシステムがあった。ロシアや中国の政府や中銀群は、ドルの口座を米連銀に持つ形でドル建て資産を米国に預託し、自国通貨の有事に備えてきた。外国の政府中銀が預託している資産を凍結しない不文律が、この制度を維持するために機能していた。だが今回、米連銀は対露制裁の一環として、ロシアの政府中銀が米連銀に預託しているドルの口座を凍結した。加えて米当局は、ロシアの当局や大企業がドルを使うことを全面禁止にした(米連銀は以前からドルの国際決済を監視してきた)。 (The Second Cold War Is Here, And Supply Chains Will Be The Front Lines) 今回は問題がロシアのウクライナ侵攻だが、矛先はいずれ中国にも向けられる。米国はロシアだけでなく中国も敵視し、台湾問題を扇動して中国を怒らせている。米国が今後どんどん台湾問題を扇動していくと、いずれ中国は台湾を武力で制圧して併合せざるを得なくなる。今回米国がロシア敵視を扇動してウクライナに侵攻させたのと同じ流れだ。中国が台湾に侵攻すると、米当局は中国の政府や企業がドルを使うことを禁じ、中国勢が米欧に持っている在外資産が凍結される。中国は世界最大の債権国であり、中国が欧米に持っている全資産を凍結するとなると、その衝撃はロシア制裁よりはるかに大きい。世界の金融システムだけでなく実体経済も壊れてしまう。米国は、ロシアを制裁したが中国は制裁しない、などという甘い話にはならない。大統領に返り咲きそうなトランプの(元)側近(KT McFarland)は「中国はロシア並みに大きな脅威だ」とわめいている。 (China, Russia Pose Unprecedented Strategic Threat To US: Former Trump Adviser) ロシアは今回、米覇権下の金融システム全体から追い出された。実のところ、追い出されたというよりロシア自身が離脱を決めたのだということも前回記事に書いた。今回の対露制裁を踏まえ、中国が先制的に米中心の世界金融システムから離脱し、ロシアなどBRICSや非米を束ねて非米型の決済や投資のシステムを作ろうとするのは自然な流れだ。 (Russia sanctions could backfire on EU economy – European Commission) 習近平は、いずれ来る米国からの経済制裁に備える安全保障のために、先制的に、ドル建ての取引をすべてやめ、中国の企業や人々が「米国側」に投資するのをやめさせねばならないと考えているのでないか。習近平は、就任直後から株式市場の下落を誘発・容認し、恒大の破綻を引き起こすなど、不動産バブルも意図的に潰してきた。中国はトウ小平から習近平まで、米国中心の国際金融システムの一部になり、株や不動産の金融バブルを膨張させてきたが、習近平はそれを壊している。習近平は以前から多極化を予測し、中国を米国中心の金融システムから離脱させようとしてきた。今回米国がロシアを金融システムから外したのを見て、中国は今後、米国からの分離とBRICS側の独自システムの拡大を加速する。 (金融バブルと闘う習近平) (中国を社会主義に戻す習近平) 今回、インドが対露制裁への参加を拒否したことは、日米豪印のクワッド(4か国)による中国包囲網の失敗も意味している。インドは中国と和解したわけでないが、中露(BRICS、多極側)と欧米(米覇権側)のどちらの仲間になるかと問われてインドは中露をとった。クワッドは空中分解した。今後、安保と経済の両面で米国覇権の低下に拍車がかかる。安倍晋三が米国に核兵器の日本への配備と日米共有を公式にお願いしようと提案して問題になっているが、この提案も米国の覇権低下に呼応したものだ。核兵器を米国と共有し、米覇権が衰退して世界が多極化した後も日本に核兵器が残るようにしたいのだろう。中国が猛反対するので日米核共有は困難だ。2025年にトランプが米大統領に返り咲いたらやってくれるかも。安倍は日本の米中両属化を進めた人でもあり、多極化の中で日本の将来を考えていろいろ言ってみている感じだ。 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本) (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本) 欧州ではコソボ(ロシアの仲間であるセルビアの仇敵で米傀儡国)が、自国への米軍基地の新設とNATO加盟を米国にお願いした。これも多極化への対策だ。米国の覇権が下がるほど米国にすがりつこうとしている。EUはウクライナとグルジア(ジョージア)の新規加盟に前向きの姿勢を見せたが、これも、多極化によるロシアの台頭と米国の衰退によって、東欧におけるロシアとEUの影響圏の境目が西の方に移動してきそうなので、先手を打って過大なことを言ってみたのだ。これからウクライナやグルジアはロシアの影響圏に戻っていく。セルビアはロシアの傘下でコソボを奪回しようとする。EUは、早く対米自立してロシアとの話し合って新たな影響圏の境界を確定せねばならないのだが、それが全くできていない。EUが動かない分、米国がロシアを挑発し、ロシアが力づくで境界線を変更する挙に出たのが今回の戦争だ。米国の衰退と覇権の多極化は止められないので、ウクライナがロシアの影響圏に戻ることも止められない。 (Kosovo asks for permanent US base, NATO membership) (Georgia signs EU membership bid) (EU outlines its priority on Ukraine) https://tanakanews.com/220304russia.htm
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