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無罪で終わった弾劾裁判によって、トランプの熱狂は終わるだろう
https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20210214-00222581/
2/14(日) 15:38 立岩陽一郎 「インファクト」編集長
(写真:ロイター/アフロ)
トランプ氏への弾劾は無罪判決で終わった。これを受けてトランプ氏は今後の政治活動に意欲を示したが、弾劾で示された数々の事実からそれは容易ではないだろう。否、はっきり言うなら、トランプ氏への熱狂はこれで終わるだろう。
弾劾は無罪だが
「(大統領、副大統領などの)元職は弾劾の対象とはならない」
共和党の最高実力者であるミッチ・マコーネル上院議員はゆっくりとした口調でこう語った。そして「ここが凄く大事な点だ」と言って続けた。
「(しかし)彼らは普通の市民として裁かれ得る」。
更に「別の言い方をしよう」と言って次の様に言い切った。
「トランプは彼が大統領として行ったあらゆる行為について一般の市民と同じように刑事事件として裁かれることはあり得る」。
マコーネル議員の演説は13日(米東部時間)に議会で行われた弾劾裁判でトランプ氏の無罪が決まった後のものだ。弾劾裁判では、100人の上院議員のうち有罪としたのは民主党と無所属の50人と共和党の7人。過半数を超えたが、大統領の弾劾には上院議員の3分の2が必要で、トランプ氏は無罪となった。
マコーネル議員自身も無罪に票を入れており、弾劾裁判で勝利したことになるが、彼の顔に笑顔は無かった。ただし、苦渋という表情でもない。ある種の覚悟がその表情に見て取れた。そこにベテラン政治家、マコーネル議員の判断を見た。トランプ氏との決別だ。
勿論、トランプ氏は無罪評決を歓迎している。NHKが日本時間14日の正午のニュースで伝えた様に、政治活動の再開を明かしている。この結果を受けて、弾劾は無意味な政治ショーだったとの解説も出回るだろう。そうした報道は、日本にもいる強固なトランプ支持者を喜ばすだろう。
しかし弾劾裁判を見続けてきた私には、トランプ氏の先に明るい未来が有るとは思えない。それは、マコーネル議員が敢て明言した一般市民としての刑事訴追の可能性も有るし、仮にそれが無くても今回の弾劾裁判はトランプ氏にとっては良い材料にはならないからだ。
それは実際に、この弾劾裁判で何が語られたのかを注視すればわかる。何が語られ事実として残されたのか、見てみよう。
弾劾裁判で明かされた事実
弾劾は1月6日にトランプ支持者が議会に乱入し警察官を含む5人が死亡した事件について、トランプ氏が大統領としてそれを扇動した罪を問われたものだ。民主党は、問題の1月6日に起きた出来事を整理した。
その日の午前中にホワイトハウス前でトランプ大統領(当時)が行った演説がその発端とされる。そこでトランプ大統領は「選挙結果が盗まれた」との主張を繰り返して、支持者に議会に行くよう呼びかけている。その際、「地獄の様に戦わなければ、我々は国を失う」と述べて、違法な行為が許されるとも強調している。
また、「マイク・ペンス」と副大統領の名前を11回呼んで、「君が国の為に立ち上がることを望む。もしそうしなければ私は君に失望する」とも述べた。
これは既に説明する必要も無いが、この日、議会で開かれていた大統領選挙の結果の確認作業は、各州の票数が読み上げられて最終的に副大統領がそれを承認する。トランプ大統領はその確認作業を止めるよう求めたわけだ。明らかになった事実を時系列で示そう。
1月6日の時系列
01:11PM トランプ大統領の演説が終わり、支持者が議会へ向かう。
議会はホワイトハウスからペンシルベニア通を歩いて行ける距離だ。トランプ大統領は「ペンシルベニア通を進め」とも言っている。それから間もなく支持者は議会周辺に押し寄せている。
01:34PM 事態を重く見たワシントンDCのバウザー市長が議会警護の支援をホワイトハウスに要請。
01:49PM 更に、州兵の出動を要請。
しかしホワイトハウス・・・否、トランプ大統領が行ったのはその逆だった。
01:49PM トランプ大統領は事の発端となった自身の演説をツイートで拡散させる。
その20分後、惨劇が始まる。
02:12PM 支持者が議会に乱入開始。
02:13PM 乱入の報告が議場に入り、上院は選挙結果の確認作業を中止して退避を開始。
02:15PM 乱入者が「ペンスを吊るせ」と口々に叫んで議会に乱入する動画が流れる。
02:16PM 警察が議会乱入事件を公表。
02:18PM 警察が議会周辺の封鎖を決めるが、既に乱入者は議会内に侵入している。
この段階で、既に各テレビ局は議会の状況を大々的に報じている。つまり、この状況をトランプ大統領が知らなかったとは言えない状況だ。それでも、トランプ大統領は事件を止める手立てをうっていない。寧ろ逆だ。火に油を注いでいる。
02:24PM トランプ大統領は副大統領を非難するツイートを発信。その内容は、「マイク・ペンスには、国と憲法を守るためになすべきことをなす勇気が無かった」だった。こうしたツイート内容を乱入者が読み上げて気勢を上げる動画も確認されている。そこには、乱入者が、「副大統領を絞首刑にする。裏切り者として」と叫ぶ姿も収録されていた。
02:25PM 既に議場から退避していた副大統領は、更に安全な場所へ退避。
この段階で議員を警護する警察官や警護官は銃を構えて対応しており、議員の多くが危険な状況を覚悟している。
03:06PM 共和党の議員数人がFOXニュースなどのテレビにネット中継で出て、トランプ大統領に、乱入を止めるよう支持者に命じるよう求めている。このうち共和党のマイク・ギャラガー下院議員は、「大統領、あなたしかいない。あなたしか彼らを止めることはできない。止めてくれ」と呼びかけている。それでもトランプ氏は何もしていない。
04:17PM トランプ大統領はホワイトハウス前で収録したと見られるビデオメッセージをアップ。その中には、「家に帰る時間だ」と支持者に議会から出るよう求める言葉も含まれていたが、乱入者に「I love you」 と呼びかけその労をねぎらう内容だった。また、選挙の不正も強調している。この段階で、既に乱入者に死者が出て、警察官の複数が負傷していることも報じられていたが、トランプ大統領の言葉から出た言葉は、犯罪者への慰労の言葉だった。
06:01PM トランプ大統領はツイッターで、再び選挙で不正が有ったと強調した上で、「みんな愛と平和を胸に家に帰ってくれ。今日の日を永遠に忘れるな!(Go home with love and in peace. Remember this day forever!)」と拡散させている。
乱入者らの供述
ところで乱入事件を起こした人々が、捜査機関の取り調べに対して、なぜ事件を起こしたのかを語っている。その供述調書からいくつかの証言も弾劾裁判で紹介された。
「私たちは大統領の指示を待ち、そして行動した」
「私は大統領の指示に従っただけだ」
「トランプ大統領が我々に闘えと命じた」
まさに、共和党の議員がテレビで訴えたように、大統領にしか彼らを止める力は無かった。そして、大統領は何もしなかった。自身の副大統領、上下両院の議員が危険な状況にあったことを把握していたにも関わらず、ということだ。
不正選挙を否定したトランプ氏の弁護団
トランプ氏は選挙で不正が行われたことを最後まで主張していたわけだが、実はこの弾劾裁判で、それも否定されている。
誰が否定したのか?トランプ氏の弾劾裁判を求めた民主党ではない。トランプ氏の弁護団だ。弾劾裁判の冒頭、弁護団のブルース・キャスター弁護士は次の様に語った。
「アメリカ市民は意思を表明した。そして政権交代を実現させた。アメリカ市民は好ましくないと考える前政権を交代させるのに十分に聡明だ。そしてそれを実現した」。
つまり正当な選挙によってトランプ氏は大統領の座を去ったと主張したのだ。これは勿論、弁護団の戦術と言う面もある。弁護団の方針は、冒頭でマコーネル議員が指摘したように、現職ではないトランプ氏を議会が弾劾することはできないというものだからだ。
これにトランプ氏が強い不快感を示したとは言われるが、弾劾の場で自らの弁護団がそう証言した事実は重い。今後、トランプ氏が選挙の不正を言い立てても、弾劾裁判に残された事実によって、これまでの様な効果は無くなるだろう。
また裁判では、警察官の死傷者の数が140人にのぼり、1人が死亡、1人が失明したことも明らかにされている。そして、自らがおとりとなって乱入者を議場から遠ざけた警察官に上院議員全員の同意でメダルも授与されている。
トランプ氏がいみじくも「忘れるな」と言った1月6日の惨劇について、あらゆる事実がこの弾劾裁判によって永遠に記録されることになったわけだ。
マコーネル議員の決別の言葉
そしてマコーネル議員の発言だ。マコーネル議員の発言は前述の通り、無罪を勝ち取った勝利の宣言ではなかった。次の様にも語っている。
「乱入者は我々の警察官を襲い、議場に侵入した。彼らは副大統領の殺害をも口にした。それは実際に起きたことだ。最も力のある人間によって。それは選挙に負けた腹いせだった」。
更に語った。
「(大統領としての)実務的にも倫理的にも、トランプ氏にはその日の出来事をひき起した責任がある。そこに疑問の余地は無い」。
マコーネル議員の演説は実際に聞けばトランプ批判のオンパレードだった。言うまでも無くマコーネル議員は共和党の最高実力者だ。トランプ政権は発足の直後から実際には共和党議員団と多くの点で摩擦を起こした。その度にマコーネル議員が議員団を抑えてきた。それがその後の共和党がトランプ党と言われるまでの存在になったのだが、その上で、マコーネル議員の判断は大きく影響してきた。私には、マコーネル議員の発言はトランプ氏との決別の言葉にしか聞こえなかった。
では、マコーネル議員はなぜ無罪としたのか。それは一言だった。
「我々は大統領、副大統領、そして政府職員を弾劾できる。しかしトランプは既に大統領ではない」。
そして冒頭の、トランプ氏は「刑事事件として裁かれることはあり得る」という言葉につながる。
その繰り出される厳しい言葉に、私はメモする手も震えた。しかし、極めつけは最後の言葉かもしれない。弾劾裁判を総括した演説を次の様に締めくくった。
「議会上院は憲法に従って仕事をしたということだ。それは、前の大統領がし損ねたことだ」。
トランプ氏は弁護団に対して、共和党の7人が有罪を表明した点を不満を漏らしたという。しかしその7人に入っていないマコーネル議員の議会での言葉は極めてシビアなトランプ批判に他ならない。
立岩陽一郎 「インファクト」編集長
「インファクト」編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。近著に「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」、「ファクトチェック・ニッポン」。他に「NPOメディアが切り開くジャーナリズム」「トランプ王国の素顔」「トランプ報道のフェイクとファクトなど著書多数。
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