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北朝鮮、韓国のテレビ等を視聴すれば死刑も…停電・寒波・食糧不足、政府高官の亡命続出
https://biz-journal.jp/2021/02/post_207032.html
2021.02.08 19:00 取材・文=相馬勝/ジャーナリスト Business Journal
「Getty images」より
北朝鮮では昨年1月以来、新型コロナウイルスを警戒して国境封鎖を継続しており、中国頼みの輸入が激減、例年になく厳しいシベリアからの寒波が襲うなか、石油や石炭など深刻なエネルギー不足による停電が頻繁に起き、市民は暖房もないなかで寒さに震えている状況だ。しかも、食糧不足も深刻で、農村部では餓死者も出ていると伝えられている。
このようななかで、北朝鮮では特権階級に属する海外駐在の外交官も、本国からの外貨稼ぎの厳しいノルマにあえいでおり、生命の危険を冒してまで、家族ぐるみで亡命を決行する動きも出ている。また、一般市民の間でも、金正恩指導部に見切りをつけ、中国を経由して脱北する人々が後を絶たない。
市民の脱北や一斉蜂起に警戒を強める朝鮮労働党指導部は昨年末、韓国などの映像や動画などを視聴した場合、軽くても強制労働10年、最高で終身刑や死刑を課すとの条文を盛り込んだ「反動思想文化排撃法」を採択しており、金正恩独裁体制に逆らう人々に対して極刑で臨む姿勢を改めて打ち出している。
■大使の亡命相次ぐ
北朝鮮では厳冬期はシベリアからの寒気団の襲来により、水力発電所は凍り付いて機能しなくなり、火力発電所は燃料の石炭が不足しており、電力供給は滞りがちだ。首都・平壌でも1日に何度も停電が起こっているほどだ。これが地方だと、1日に1時間しか電気が使えないこともあるという。衛星写真で北朝鮮の状況を見ると、夜は完全に真っ暗で電気が通っていないことがわかる。
米中央情報局(CIA)が発行する世界各国の現状を記した「ファクトブック」(2019年版)によると、電力を日常的に使えるのは北朝鮮の全人口の26%だけだ。つまり全人口の2560万人のうち約1900万人が電力を使えない状況に置かれている。電力を供給されているのは都市部全体の36%、農村部では11%にすぎないことになる。
しかし、各都市の中心部にある金日成主席と金正日総書記の巨大な銅像は一晩中、明るすぎるくらいの照明により煌々と照らし出されている。ある市民は米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」の電話取材に応じて、「庶民は寒さや空腹に耐え、生きるのが精いっぱいなのに、すでに亡くなっている指導者の銅像に貴重な電力を惜しげもなく使っている。生きている人間よりも死んだ指導者のほうが大事なのか」などと不満を募らせているという。
海外に駐在する外交官は北朝鮮では特権階級だが、それでも彼らなりに不満が高まっている。韓国各紙によると、北朝鮮の駐クウェート大使代理だった外交官の男性が2019年9月に韓国に亡命、妻子も同行しており、男性は「親として、子どもにより良い未来を与えたくて脱北を決心した」と話したという。この男性は17年当時、参事官だったが、国連安全保障理事会の制裁決議に伴い当時の大使がクウェートから追放された後、大使代理を務めており、最高指導者のための秘密資金を獲得・管理する朝鮮労働党39号室の室長を務めた全日春(チョンイルチュン)氏の娘婿だという。
これに先立つ19年7月には、駐イタリア大使代理だったチョ・ソンギル氏も韓国に亡命。さらに、16年にも駐英公使だった太永浩氏が韓国に亡命し、国外にいた外交官の亡命が相次いでいる。
太氏は、亡命した前出・元駐クウェート大使代理について「長い間、故・金正日総書記の最側近として強大な権力を行使してきた全氏の娘婿で、外交官として大使代理まで務めた程度なら、特権層として生きてきたはずだ。そんな人でも亡命を選んだということだ。今後は外交官を含め、海外に派遣されている勤務者に対する監視が徹底されるだろうが、自由を渇望する北朝鮮住民の韓国行きをいつまでも防ぐことはできない」と指摘している。
■一党独裁体制崩壊への警戒
このようななか、北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)常任委員会は昨年12月、「反動思想文化排撃法」を採択した。同法制定の目的について、北朝鮮メディアは「反社会主義思想文化の流入、流布行為を徹底的に防ぎ、われわれの思想、われわれの精神、われわれの文化をしっかり守って思想陣地、革命陣地、階級的基盤を一層強化する」としており、韓国などからの情報流入により、民主主義や自由主義、資本主義的な思想によって、一党独裁体制への思想的な確信が揺らぐことを警戒しているとみられる。
北朝鮮では昨年来、新型コロナウイルスの感染拡大で、市民が自宅にこもり、韓国の映画、テレビや日本の衛星放送のビデオなどを見る時間が増えたことで、金体制への不満が高まっている。同法は主に韓国の映画やテレビ映像などが罰則の対象となっているが、日米のビデオなども罰則規定に加えており、金指導部が独裁体制維持に強い危機感を抱いていることを示している。
北朝鮮では昨年、外貨稼ぎのために海外の漁場に赴く大型漁船団の最高幹部がRFAの朝鮮語放送を15年間、秘かに聞いていたことがわかり、銃殺刑に処せられたと報じられており、この事件も同法制定のきっかけになったとみられる。
金指導部は体制維持のためには、対外思想の流入が新型コロナウイルスよりも数倍も脅威に感じているのは間違いないだろう。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)
●相馬勝/ジャーナリスト
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。
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