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すでに返済遅延増加…日本人が目を背ける住宅ローン破綻&物価急上昇の恐ろしい現実
https://biz-journal.jp/2022/03/post_282635.html
2022.03.06 05:40 牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」 文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役 Business Journal
「gettyimages」より
最近は終息の傾向を見せていたコロナ禍は再び増勢し、約2年にわたって日本社会を蝕んできているが、その裏側で住宅ローンの延滞問題が生じている。
フラット35を提供している住宅金融支援機構の調査によれば、ローン返済が困難になっているリスク管理債権が貸付金残高に占める比率は2015年度で5.12%であったものが、2019年度は3.20%まで縮まっていたが、2020年度には3.48%に上昇。2021年度にはこの数値がさらに悪化することが見込まれている。
コロナ禍によって、収入が減少してしまったことが主な要因である。勤め先に解雇される、給与が減る、賞与が減る、または支給されない、事業主は売上が減少するなど、コロナ禍は多くの人々に多大な影響を与えている。
フラット35では貸付条件として、ローンの年間総返済額を年収400万円以上では、年収の35%を上限としているが、一般的には年収の25%程度を上限としないと生活は苦しくなるといわれている。
住宅ローンを延滞し始めると気を付けなければならないのは、民間金融機関から借りている場合、貸付開始当初に優遇金利の適用を受けていると、その優遇がなくなり、店頭金利に切り替えられてしまうことだ。ただでさえ返済が苦しいのに金利を一方的に上げられてしまうのは「池に落ちた犬を棒でたたく」に等しい仕打ちにも見えるが、金融機関はこうしたケースでは結構冷酷である。
また延滞が3カ月から6カ月も続くと、「期限の利益の喪失」を主張され、自宅を強制競売にかけられてしまう。それによっても債権額の回収ができない場合には、自己破産にまで至るケースもある。対応策の多くは、金融機関に出向いて一定期間の返済猶予やローン期間を延長することで毎月の返済額を減額する、ボーナス払いを停止してもらうなどであるが、いずれの策も借り入れた債権額が減るわけではなく、問題先送りにすぎない。一番の対処法は、任意売却で売り払ってしまうことだ。ローン残高よりも売却額が高ければ、という前提がつくが。
■中国に買い負けている日本
一見するとコロナ禍による非常事態であるために生じた騒動のように感じる問題であるが、実は日本社会では住宅ローン破綻はこれからが本番である。ローン返済額が年収の35%はもちろんのこと、25%であっても住宅ローンを返済していくには、「想定外」の出来事が頻発する恐れが大きいからだ。
アベノミクスでは異次元の金融緩和を行うことで、市場に大量のマネーを供給し、株式や不動産価格が上昇した。また低金利政策は、通貨安をもたらし、円の対ドル相場は円安が進行、現在で114円台を推移している。
これまで輸出型産業で発展してきた日本は、円安を歓迎して円高を警戒する癖がついているようだが、自国通貨が安くなることを喜ぶ国は少ない。通貨が安いということは国際市場においての購買力が落ちるからだ。「安いニッポン」を喜ぶのは日本にやってくる外国人観光客であり、日本の不動産を買い漁る海外マネーだ。
日本は今や世界市場のなかで勝ち残っている製造業は少なく、むしろ原材料の輸入価格は上がり、自給率37%(カロリーベース)で多くを輸入に頼る食料品の小売価格は近年次々に値上げが発表されている。輸入食料品というとチーズだとかバターなどの乳製品やオレンジなどの果物がよく話題になるが、今や国際市場ではマグロなどの高級魚も買い付けられていて、日本勢は中国などに買い負けているのが実態だ。
日本人の生活をベースに円安をみれば、食料品の値上がりだけでなく、電気代、ガス代が上がる要因になる。水道はすでに既存施設の老朽化のために水道代の値上げが相次ぐ。原油価格の上昇は、車なしでは生活できない地方の人々の財布を痛めつけている。社会インフラコストの値上げは、鉄道や航空といった交通費の上昇を促す。
日本ではまだあまり注視されていないが、気候変動、地球温暖化の状況は、食糧生産に大きな影響を与えつつあり、高くなった食糧を世界市場で中国など他国に「買い負ける」日本の姿が浮き彫りになっている。2050年カーボンニュートラルは間違いなく生活インフラである電気、ガスの価格を引き上げることになる。
つまり、令和の時代、生活コストは急上昇していくことが避けられないなか、円安に甘んじ、安いニッポンをなんとなく是としているのが日本なのである。年収の35%だ、25%以内だという基準があくまでも昭和平成の時代の延長線上にある生活を前提としていることに、いまだ多くの日本人は気が付いていない。
■昭和平成脳
残念なことにこの四半世紀、日本人の一般世帯の年収はほとんど上昇していない。1人あたりのGDPも韓国に抜かれる事態に陥っているのが今の日本の実態だ。雇用は今後もどこまで保障されているのか、退職金は予定通りもらえるのか、年金はちゃんと支給されるのか、多くの人はなんとなく昭和平成の流れで自分たちの人生を夢想している。
この先、日本人をさらに待ち受けているのが増税だ。ばらまきに余念がないようにみえる現在の政府だが、コロナ禍での支援金をはじめ、これらのおカネの支給のツケは、将来必ず増税として返ってくる。消費税率は当然引き上げ、所得税や地方税も引き上げラッシュになることは間違いないであろう。花咲爺さんは世の中にはいないのである。
日本は物価が安いから生活がしやすい、などと嘯いているかもしれないが、コロナ後にやってくる日本の現実に多くの人が驚愕することになるだろう。そのとき、あなたの住宅ローンはどうなっているだろうか。当たり前だが、ローン元本は返済していない限り、厳然と存在し、毎月あなたに返済を要求してくる。どんなに生活が苦しくなっても返済だ。会社の給料は上がっているだろうか。
ダメなら売ればよい。これも昭和平成脳だ。今後、人口減少は勢いを増し、高齢化が進むにつれ、一部の投資用不動産を除いては、一般の住宅に対するニーズは急激に落ち込んでいくだろう。それでもあなたが借りた住宅ローンは毎月「返せ、返せ」の大合唱だ。
住宅ローン破綻はコロナ禍のせいではないのだ。これから変わる日本社会の向こう側で口を開けてあなたを待っているのである。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)
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