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中国人が牛丼・牛タンの魅力に気付き始めた…日本で価格高騰、強大な購買力に敗北
https://biz-journal.jp/2022/01/post_274686.html
2022.01.16 06:00 文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト Business Journal
吉野家
昨年、松屋、すき家、吉野家の牛丼チェーン大手3社が牛丼の値上げに踏み切った。牛丼に使われる米国産牛肉の価格が高騰しているためで、新型コロナウイルス禍からの立ち上がりが早かった中国での需要増が背景にある。牛タン価格も高騰するなど中国との牛肉争奪戦は日常の食卓にまで影響を及ぼしつつある。
■すき家が6年8カ月ぶりに牛丼を値上げ、吉野家、松屋も、原材料の米国産バラ肉が2倍に
牛丼チェーンのすき家は昨年12月、主力商品の牛丼の並盛の価格を350円から400円に50円引き上げた。牛丼の値上げは15年4月以来、6年8カ月ぶりとなる。他の牛丼大手、吉野家と松屋も昨年中に値上げに踏み切っており、典型的な「安くてうまい」庶民食である牛丼の値上げは社会に衝撃を与えた。
牛丼の価格が上がったのは、米国産の「ショートプレート」と呼ばれるバラ肉の価格高騰によるもので、農畜産振興機構の調査によると、輸入品の卸売価格は21年は3月から高騰を始め、前年比1.5倍から2倍で推移している。昨今の円安進行などがそれに拍車をかけた格好だが、これだけ原材料の価格が上がれば値上げせざるを得ないのは当然だろう。
■食肉卸「牛丼用の肉は米国人が見向きもしない部位で安く調達できたが、中国人がうまさに気付き始めた」
このショートプレート。吉野家の公式ホームページには以下のような記述がある。
<吉野家では、「吉野家の秘伝のたれ」に最も合うという理由から、穀物肥育の北米産牛肉の「ショートプレート(※)」を使用しています。「ショートプレート」とは、牛一頭あたり約10kg程度しか取れない部位。赤身と脂身のバランスが良く、牛丼にふさわしいまろやかな肉質です。もう一つの特徴は「穀物肥育」であること。穀物で育てた牛肉は、牧草だけで育った牛に比べ肉の臭みが少なく、「吉野家の秘伝のたれ」と合い、牛丼をおいしく仕上げることができます。この条件の牛肉を全店舗で安定して使用するため、年間で約3000万頭の牛を穀物肥育している北米から仕入れているのです。
※「ショートプレート」:米国でバラ肉はハンバーグなどの加工用の素材として安価な商品として流通していましたが、1970年代は16ポンド以上であること以外に規格がありませんでした。吉野家はこのバラ肉を輸入し、自社工場で表面の脂を削り、吉野家のスライサーの幅である9インチに切り分けていたのです。この形を「吉野家スペック」として米国の規定に採用してもらい、工場の効率性・生産性を高めました。後にこの「吉野家スペック」は、吉野家以外からも買い付けがくるようになり、「ジャパンスペック」と名前を変え、今でも米国農務省の規格のひとつとなっています>
もともと、このショートプレート、米国では需要が低かった部位として知られている。以下は食肉卸関係者の解説。
「ショートプレートはバラ肉のなかでも脂身が多く、赤身肉が好まれる米国では見向きもされないクズ肉扱いされていた部位だったのですが、ここに吉野家が目をつけ、米国の大手食肉加工業者と契約し大量に入荷し、日本国内で提供を始めた。米国の食肉企業からすれば需要のない部位を買い取ってくれるのだから、大歓迎だったというわけです。このスキームに他の牛丼大手も乗っかり、安くて美味い牛丼が日本の消費者に提供されるようになった。
今回の牛丼の値上がりは、米国でのコロナ禍による加工拠点の操業停止や人手不足による供給量低下があることに加え、中国がこのバラ肉の魅力に気付き始めたことが大きい。日本政府のインバウンド奨励策で多くの中国人が日本で牛丼を食べるケースが増えたことや、牛丼チェーンの中国進出がそのきっかけとなったのは間違いないでしょう」
■牛丼や牛タンの魅力に中国人が気づき始めた
もともと食肉といえば豚肉がメインだった中国だが、近年、牛肉需要が急激に高まっている。牛肉輸入量は2020年に約212万トンと世界トップで、17年の106万トンから倍増した。
牛丼用バラ肉だけでなく、牛タンも中国の旺盛な需要の影響を受け、昨夏ごろから価格が倍に高騰した。日本の牛タンはほぼ全量が米国と豪州からの輸入品だが、その供給が細ったためだ。中国が豪州と外交関係が悪化し、牛肉輸入先を米国へシフトしたことも大きな影響を及ぼした。先の食肉卸関係者はいう。
「牛タンは日本とフランスといった、ごく限られた国や地域で食べられていたにすぎませんでした。そもそも牛一頭から1本だけしか取れない希少部位を日本の消費者があれだけ手頃な価格で味わえていたのは、独占的に米国などから入手できていたから。桁違いの購買力を持つ中国が目をつけたら価格が上がるのは当然で、これからは以前のような『安価な大衆食』というわけはいかないでしょうね」
日本では18年に中国への和牛の精液・受精卵の流出事案が発生し注目を集めたが、あくまでたまに食べる高級品だ。今回の牛丼や牛タンのように普段から食べる大衆食にまで日中での牛肉争奪戦の影響が出始めたことは、アジアでのパワーバランスの変化を如実に示している。
(文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト)
●竹谷栄哉/フリージャーナリスト。食の安全保障、証券市場をはじめ、幅広い分野をカバー。Twitterアカウントは、@eiyatt.takeya 。
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