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凸版印刷、最先端IT企業に大変貌を遂げていた…メタバースを主要事業へ
https://biz-journal.jp/2022/01/post_272257.html
2022.01.02 06:00 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
凸版印刷のサイトより
これまで印刷や電子部品の事業を展開してきた凸版印刷(トッパン)が最近、新しい収益源としてメタバース分野への本格的な進出を目指している。
印刷技術は人々の知識の向上や豊かな生き方を支えた。トッパンはわが国における印刷技術の向上を通して、人々の生活を支えた企業のひとつだ。メタバース時代の到来によって、人々の生き方は大きく変わり、ペーパーレスなどは加速するだろう。重要なことは、そうした変化に社会全体がしっかりと対応して、取り残されないようにする(社会的包摂を高める)ことだ。そのために、トッパンは大胆に事業構造を見直し、ビジネスモデルの改革に取り組み始めた。
今後の展開として注目されるのが、同社がこれまで以上に既存分野での資産の売却などを進めて、よりダイナミックに先端分野に経営資源を再配分できるか否かだ。国内外でメタバースのビジネスチャンスをめぐる競争は激化する。トッパンが激化する競争に対応して高い成長を実現するためには、経営陣が過去の事業運営の発想に浸ることなく、退路を断つ覚悟をもって構造改革に取り組むことが大切だ。
■最新のメタバースへの本格的な事業進出
トッパンは、高い成長が期待されているメタバース分野での需要創出に取り組んでいる。メタバースは仮想空間などと呼ばれる。具体的には、ネットワーク上に構築された仮想空間において私たちはアバター(分身)として活動する。アバターの生成需要や、他者との交流促進による起業の増加など、メタバース関連分野の成長期待が急速に高まっている。
現在、トッパンはメタバースを支えるソフトウェアの創出に集中し始めている。その対象分野は3つに分けられる。同社の主な顧客である企業と行政に加えて、消費者(個人)もトッパンのメタバース事業の対象になる可能性が高い。
まず企業向けのメタバース事業として、ロボット運営システムの開発がある。トッパンは複数の異なる種類のロボットを一元管理するソリューションを開発した。それは、ファクトリー・オートメーション(FA)などの普及を支える要素であり、企業の生産性向上に資す。その他にも、医療やビルメンテナンス、物流などのロボット運営にもトッパンのシステムは対応している。
行政向けサービスとして、トッパンは窓口で申請が行われてきた業務の電子化システムを提供しペーパーレスを支えている。また、水害などのシミュレーションを行うサービスも提供している。総合的に考えると、トッパンはメタバース関連の技術を用いることによって地域の持続性向上に貢献し、付加価値を得ようとしている。
潜在的な消費者向けビジネスの代表的な取り組みが、アバター生成だ。トッパンは人工知能(AI)および3D復元技術を用いることによって、写真一枚から自然かつ繊細な画質でアバターを生成するデジタル技術を開発している。現時点で同社はアバター生成サービスを企業向けに提供するとしているが、今後の展開によってはトッパンがITプラットフォームを経由して個人に直接アバター生成サービスを提供する展開もあるだろう。メタバースを活用する個々人の能力向上を支え、メタバースという変化への社会の対応力、包摂性を高めるという点でトッパンの潜在的な成長機会は増えている。
■思い切ったビジネスモデルの変革
メタバース関連分野での競争力向上のためにトッパンは、大胆に既存のビジネスモデルの改革にとりみ始めた。印刷に続いて半導体フォトマスクなどの精密なエレクトロニクス関連部材事業を収益源の一つに育てたトッパンは、DXに関する分野で新しい収益の柱を確立しようと集中し始めている。
具体的な取り組みは4つに分けられる。まず、事業再編が加速している。トッパンはグループ全体の意思決定のスピードを高め、より効率的な事業運営体制を確立するために、トッパン・フォームズの完全子会社化を目指す。特に、投資の重複が避けられる意義は大きい。それに加えてトッパンは、半導体用フォトマスク事業を分割し、新会社を設立する予定だ。いずれも、トッパンがメタバースへの選択と集中を進めていることと言い換えることができる事例だ。それだけメタバースがビジネスモデルに与えるインパクトは大きい。
2点目に、他社への買収戦略が強化されている。トッパンはパスポートや運転免許証などのIDソリューション事業を運営する南アフリカの企業を買収した。それは、デジタル技術の強化に加えて新興国で加速するデジタル化のダイナミズムを獲得するための取り組みの一つに位置づけられる。海外での買収案件は増加する可能性が高い。
3点目が資産の売却だ。具体的な取り組みの一つが政策保有株式の売却だ。トッパンは営業関係の強化などを理由に、複数の国内企業の株式を保有してきた。2021年3月期の有価証券報告書を確認すると、トッパンはリクルートホールディングスなどの株式を徐々に売却している。それは先端分野での投資資金を確保するための取り組みだ。
最後に提携戦略が強化されている。トッパンはアバター生成や物流関連のシステムを手掛けるスタートアップ企業などとの提携を増やしている。それは同社がメタバース関連分野でのビジネスチャンスを早期に発掘し、具体的なビジネスモデルの確立に欠かせない。
■期待されるトッパンの自己変革の加速
メタバースはトッパンに限らずすべての企業により多くのビジネスチャンスをもたらす。その機会をどう生かして成長につなげるかが経営陣の腕の見せ所だ。ポイントは、経営陣が過去の事業運営の発想へのこだわりを捨てられるか否かだ。
これまで、トッパンは印刷に関する知見、専門知識を活かすことによって包装や電子機器関連部材など、事業を多角化してきた。しかし、過去がそうだったから、将来も印刷に関する発想が自社の成長を支えるとは限らない。むしろ、個人情報の保護に関するノウハウなどメタバース時代に重要性が増す要素を見極めつつ、ビッグデータの活用やよりリアルなアバター生成のテクノロジーなど新しい発想の取り込みを進めることの重要性が増すだろう。その上で、新しい需要を生み出すことが、資産の収益性を向上させる。
このように考えた時、トッパンには取り組みを強化できる余地が多い。例えば、2019年8月にトッパンは図書印刷を完全子会社化した。その後のトッパンの株価は不安定だ。図書印刷の買収がトッパンの成長期待を高めたとはいいづらい。
トッパンがメタバース分野での世界的な企業を目指していると利害関係者が納得するためには、さらなる取り組みが求められる。その一つとして、政策保有株式の売却を進めたり、既存の事業ポートフォリオを見直して事業の売却を進めたりする意義は大きい。それによって得られた資金をこれまで以上のスピードと規模感を持ってメタバース関連分野に再配分することは資産の収益性向上を支えるだろう。反対に、そうした取り組みの加速が難しい場合は、収益性の向上は難しいかもしれない。
米国などではグーグルやマイクロソフトなどが急速にメタバース分野での取り組みを強化し始めた。メタバースにしっかりと対応できる企業と、そうではない企業の二極化が鮮明化し始めている。世界全体でメタバースの成長機会をめぐる企業の競争はさらに熾烈化する。競争激化に対応し、高い成長を実現するためにトッパン経営陣が過去の事業運営の発想に固執することなく、より大胆な発想をもって事業構造の改革を加速させる展開を期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
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